第32話の山南さん……人と人とのつながりを通じて何かをなすこと

第30話の感想「組織感覚と対人関係　土方・永倉・山南のケース」で「山南敬助イソギンチャク論」を書いてしまった白牡丹であるから、純粋な山南さんファンより距離を置いた分析になるかも知れない。ただ、今回、坂本龍馬くんに言った「つまるところこの国を動かすのは主義や主張ではなく、人と人のつながりではないでしょうか」が予想以上に深い意味を持っていることに気づきながら第32話を見ると、目うるうるしてきた。

場面ごとの山南さんの心情を考える前に、この言葉が山南さんの口から出ることの意味をもう少し掘り下げてみたい。白牡丹の考える山南さんは、自分が何を成すかというより、自分を必要とする誰かを求めている人ではないかと、 「心の傷は、見えないところで、さらに深くえぐられる……土方さんと山南さんのケース　その2」 で書いた。今も、その見解は変わっていない。そして、誰かに必要とされたいと願ってその場を探し求めているのだが、意見の異なる人とぶつかったりすると引っ込んでしまう、先が読めてしまうために行動することをためらってしまう、心弱いところがある。

山南さんだっていろいろ考え、行動するのだが、ここまで新選組をつくってきたのは、山南さんが提供した知識にもとづいて行動する近藤さんだったり、土方さんだったり、永倉さんだったりする。山南さんは知恵袋として信頼されてはいるのだけど、巻き込まれ型なのだ。

今回、「つまるところこの国を動かすのは主義や主張ではなく、人と人のつながりではないでしょうか」と言った山南さんは、隊を離れるという自分の決断を実行するために、初めて……たぶん初めてだと思うのだが、永倉新八っつぁんや左之助に協力を求め、実行してもらう。

最初は「ひとりで密かに逃げて欲しかった」という感想を持った白牡丹だが、何度もビデオを見て、この場面の意味にようやく気づいた。

ひとりで逃げてしまったら、今までの山南さんの延長線なのだ。自分の命を懸けた決断に、それまで「京都には飲む相手がいない」と明里さんにこぼしていた山南さんが、永倉さんや原田さんと酒を飲み、協力を依頼する……「人と人とのつながり」を通じて何かをなすこと。今までの山南さんにもそういう行動があったのかも知れないが、ビジョンなり自分のなすべきことのために人を巻き込んでやり遂げようとする山南さん……もしかしたら、これが初めて。

前回、坂本龍馬くんが語るビジョンに動揺しながら、その中に自分が入れない立場に、ますます自分の進んできた道に疑問を持った山南さん。今回、失意の龍馬くんを見て、自分にないものを持っていると知っている龍馬くんが行動した結果の挫折、そこからの失意を見て、何を感じたかは、もう少しじっくり考えてみたい。

だが、いろいろな状況から、新選組の中に自分の居場所がなくなってしまったと感じた山南さんが、自分の命を懸けてなそうと思ったこと。その時に初めて、人と人とのつながりを通じて何かをなすことができた山南さん……それを発見して、白牡丹は初めて涙腺がゆるんでしまった。

山南さんに、もう少し早く、こういう人の動かし方を学べる機会があったなら、こんなに追い詰められなかったかも知れない……そして、自分の命を懸けた決断をして初めて、そういう行動ができる山南さん……何て残酷で皮肉で、でも何て切なく悲しいんだろう。

今日は、これ以上は書く気力が持てないので、ここまでにしたい。第32話での各場面での山南さんの心理分析をしたくても、こういうところが見えてしまうと……お察しください。