第33話「友の死」……真の悲しみは言葉で表せない(続)

　史実では、魁さん、建白書事件には連座したけど、亡くなるまで土方さんの戒名を書き付けた紙を懐に入れていたぐらい土方さんに心服していたわけで(涙)、魁さんを犠牲にしても山南さんを見逃したいという描かれ方は全然嬉しくない。

　ただ、ドラマの土方さんの立場を思って少しだけ弁護すれば、局長副長は切腹という処断を決めて執行する側で、自ら裏工作で山南さんを助けることは、山南さんを寛大な処分にすること以上にできない相談だ。情実で身内を救おうとしていることが露見すれば、新選組は崩壊する。だから、誰かを動かしてそういう状況に持っていくしかない。

「これを飲むと……背が伸びる」というのには、ちょっと笑っちゃったし……(たぶん)背の低い観柳斎が石田散薬に興味を持つのも、ちっと笑える。くすっと笑えたのは、今日はここだけ。



　そして、出た、斎藤さんが語る、土方さんと山南さんの信頼関係。これは、池田屋に先立って、文久3年秋から暮れ頃、または元治元年1月とも言われている岩木升屋事件。

　史実では近藤さんと山南さん説、土方さんと山南さん説があるが、岩木升屋に押し入っていた不逞浪士を斬ったというもので、多摩にはこの時に破損した山南さんの愛刀「赤心沖光」を写し取った絵が送られている。また、この事件以来、山南さんの新選組での消息が切腹まで伝わっておらず、この時に大怪我をしたのではないかという説さえもある。

　ともあれ『新選組！』では、土方さん、山南さん、斎藤さんが踏み込んで、浪士たちを斬るという展開。そして、刀を折られた山南さんが浪士に追い詰められた時に、土方さんは山南さんを助けるために浪士を斬る。

　これが、白牡丹が「ミッシングリンク」と呼んだエピソード。芹澤鴨さん達を暗殺した時に、山南さんは人を斬れないという限界を知った。その場に居合わせたのは左之助くんだけで、土方さんは知らない。だが、この岩木升屋事件で、土方さんは、北辰一刀流免許皆伝でありながら山南さんが実戦で戦えないことを知ってしまった。

　大刀を折られたら、普通は脇差しを抜くはずだ。でも、手を掛けていながら脇差しを抜けない山南さんは、実戦向きではない。

　池田屋事件、禁門の変の出動の時に、なぜ土方さんが山南さんを屯所の守りという後方支援の役に就けたか。それは、土方さんが山南さんを疎んじたためではなく……土方さんなりに、山南さんを気遣っての配置だったのだ。もちろん、新選組を戦闘集団にするために、後方に就く山南さんを含む隊士に褒賞金を出さないということはあったけど、それすらも、このことで山南さんが自分の共犯者であることから離れはしないだろうという土方さんの甘えがあったのだ……この、天下一の不器用さんっ(涙)。

　そして、「どうしてこういうことになるのかな……私の好きな人は、みんな私の刀で死んでいく……私は、私はこんなことのために剣を学んできたんじゃない」と、やるせない総司君。

　ひでちゃん、前日は総司君にあれだけ冷たくされたけど、やはり、傍にいずにはいられないよな……。



　源さん、山南さんの好物を食事として差し入れ。食べたら切腹の時に見苦しくないかと言いつつ「置いておいて下さい。しばらくは、眼で楽しませていただきます」と、源さんの心尽くしに感謝する山南さん。

　お握りの包みも膳に載っていたのは、源さんが「もし逃げるおつもりなら、持って行ってください」という気持ちからだろう。そして、魁さんを遠ざけて障子を開け放って山南さんと相対するのも、自分の失策ということになってもいいから山南さんを逃がしたいという心の現れ。

　でも、山南さんは「これは持って行ってください」と、お握りの包みを源さんに返す。

　源さん、山南さんからお握りの包みを神妙に受け取る。

「島田君を呼び戻すのも、お忘れなく」

　……山南さん、決意は固い。



　明里さん、意外にも屯所に現れる。無言のうちに、仕事でしばらく留守にするという嘘を共有する、山南さんと近藤さん。

「いやや。うちは山南さんでないと」と駄々をこねる明里さん。

「我が儘を言うなっ」と大声で一喝する山南さん。そう、山南さん、明里さんには素直に感情を表せる……もちろん「これ以上、私を困らせるな」と切なげな顔をして謝るのだけど。

　ふたりで見ることはかなわなかった富士山。「きっと」「必ず」と明里さんに約束しながら、行くことはかなわない丹波の里。

　でも、山南さんは、ささやかな幸せよりも、新選組を選んでしまった……自分を必要としてくれて欲しかった友たちの中に、居場所を、確保するために。

　山南さんと明里さんの抱擁に、今さらながら山南さんを切腹させるという決断の辛さにがっくりとうなだれる近藤さん。それを見ているのは、松原さんと永倉新八っつぁんと左之助。



　幹部全員が浅黄色のダンダラ羽織の正装で、厳か《おごそか》に、またそれぞれに沈痛な面持ちで、山南さんの切腹の時を待つ。



　白の上下に(本当の)浅黄色の羽織の切腹装束でその時を待つ山南さんに、見つけた菜の花を渡すために、もう一度現れる明里さん。

「私の負けだ」と、清々しく微笑む山南さん……無邪気に笑う明里さんの顔を心に刻みつけるようにして、やがて、静かに障子を閉める。

　山崎さんに付き添われて丹波に帰る明里さん、山崎さんが「人の道にそむく切腹ではない」と聞いて安心する……山崎さん、山南さんを慕う気持ちが表情に滲みでている。

　「案外、あの人もああ見えて、信じやすいんやな」……くしゃくしゃに顔を歪めて泣く明里さん、「アホや」と呟く明里さん、何度見ても、この場面が一番、涙腺直撃。



　そして、山南さんに顔だけ見せて、何も言わずに背を向ける土方さん。何を言わんとしていたのか、眼が語っている……なぜ逃げなかったか、と。

　山南さんは「悔やむことはない。君は正しかった。私を許せば、隊の規律は乱れる。私が腹を斬ることで、新選組の結束はより固まる。それが、総長である私の、最後の仕事です」……おそらくは、土方さんに自分を責めさせないための、思いやりからの言葉。

　無言で、障子を閉める土方さんの表情に、万感の思いが滲む。

　何で、この瞬間まで、ふたりは腹を割って話し合えなかったんだろうかねぇ……龍馬くんの言葉を借りれば「お前ら馬鹿じゃき」……しくしくしく。



　山南さん切腹の儀式。壮絶な、山南さんの切腹。張りつめた総司君の顔が、痛々しい。

　幹部たちの中で一番印象に残っているのは、いたたまれないという表情の伊東先生。

　近藤さんと土方さんは、眼を逸らすことができない立場にある。

　画面には写らないが、山南さんの首が皮一枚残して膝に落ちるのを感じた……。



　沈む背中を並べる近藤さんと土方さんに、声をかける伊東先生。

「見事なご最期でした。山南君を偲んで一首詠ませていただいた」

　伊東先生……近藤さんと土方さんに今必要なのは、言葉じゃないんだってば(汗)。

「おつらいでしょう。おふたりの心中、察して余りあります」

　……悪い人じゃないと、白牡丹は思う。伊東先生なりの気遣いだっただろう。

　山南さん助命嘆願のシーンを削られてしまっただけに、何だか唐突に、近藤さんと土方さんの歓心を買おうとして現れたと視聴者の誤解を招くような現れ方だったのが、まず過ぎる(汗)。

　そして、案の定、「あなたに何がわかるというのだっ！」と叫ぶ近藤さん。

　伊東先生、傷ついた顔をしていた。でも……人は本当に悲しい時には、泣きたくても泣けないんですよ、伊東先生。山南さんの死を悼んで一首詠めるあなたと違って、ふたりは、言うべき言葉もない。

　伊東先生の言葉をきっかけに、ふたりとも崩れてしまった……そして、近藤さん以上に、泣き崩れてしまう土方さん。

　今まで、近藤さんを局長らしくするために「躾けて」いる場面すらあった土方さんが、近藤さん以上に心を乱した瞬間、自分も泣きながらも、いたわるように土方さんに腕を回して崩れるのを押しとどめる近藤さんが、局長らしかった。そして、なりふり構わず「グダ顔(by堺さん)」で泣く土方さん……鬼だって、泣かずにいられない時がある(涕泣)。



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　「新選組が行く」は、思っていた通り、山南さんが眠る光縁寺……思っていた通りなのに、何度か実物を見た山南さんの墓石を今日見るのが今日ほど辛いことはない。



　そして、次回予告。平助くんが出てきて、背後に土方さんと井上さん……ということは、土方さんと斎藤さんと伊東先生による隊士徴募のための江戸下向は描かれないとしても、再び上京した平助くんが復帰するわけで。それは、それで、この先のことを知っている側としては、辛い……。