新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
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大河ドラマ『新選組!』第30回「永倉新八、反乱」感想の追記。どうも土方さんがあの場面でなぜキレたのかを整理しきれてなかったので、白牡丹がちょっとかじった経営学的視点からもう一度考えてみたい。
今回のドラマで永倉さん・山南さんと土方さんが対立した背景だが、個人個人の性格や価値観の違いもさることながら、新選組をどう見ているのか、という点に整理して考えたいと思う。
永倉さん・山南さんは近藤さんに賛同して浪士組に加わった同志たちの延長線で新選組を見ている。土方さんは、さらに新選組を大きくすることを前提として、京都の治安を守る有志の警察隊であると同時に幕府のための軍隊として強化する方向で、壬生浪士組から決別して新選組を再編成しようとしている。
なぜ土方さんがあの場面でキレたのか、それは新選組を再編するための鍵である(と土方さんが思っている)組織編成と褒賞金の分配を巡る対立だったからだと、白牡丹は思う。
そもそも新選組が何を目指した団体であったか、ビジョンやミッションの変化・変質については次回の感想で述べることが適切だと思うのでここでは述べないが、身分に関係なく賛同する者を受け容れる有志の団体において、近代的な組織として、戦闘集団として、最も効率よく機能させるために重要なのは、組織編成であり、報酬の分配であり、出動命令に従わなかった左之助への謹慎処分に見られるように処罰の発動である。
1. 土方さんの立場から 褒賞金の分配について
幕府と朝廷から受け取った600両の褒賞金の分配については、ドラマにおける土方さんの考え方は、局長副長に対する役職手当を除いては、働きに応じてというか、命をどれだけ危険にさらしたかが基準だ。池田屋に最初に突入して倍以上の浪士と2時間以上も斬り合った近藤隊に厚く、続いて援護にかけつけた土方隊がその次、遅れて駆けつけた河合・松原隊にはやや少なく、屯所で守りを固めていた隊にはゼロ。
後方で守りを固めていた隊士たちにゼロというのは異論もあるかも知れない。が、実戦部隊を動かす土方さんの立場からすれば、結果的に命を危険に曝さなかった隊士にも特別手当が払われるように分配したら、今後の出動の時に仮病を使うなどして身の安全を優先させようとする隊士が出てくる怖れがあり、その心配を極力減らしたいという意思が働いたのではないかと思う。
なお「池田屋の裏で物陰で震えていた浅野が20両なのは納得できない」と感じる視聴者がいるのは、三谷さん脚本のミソだと思う。成果主義という方針を貫こうとしても、組織に見えないところでズルをしたり手を抜いたりして結果的に不公平な報酬を得る者がいるというのは、現実の組織でもあり得る話で、リアリティたっぷり。まして、池田屋のあの場面では、誰もが生死を賭けて散らばって戦っていたため、浅野君がズルをしたことを知っているのは視聴者だけだ。その浅野君が今後どうなるかは、回を追って見ていって欲しい。
2. 土方さんの立場から 組織編成について
同志の集団から機能的な組織に脱皮するに当たって、どういう組織編成にするか、誰をどういう役職につけるかは、組織を経営する側にとっては最も裁量権を使いやすいところで、組織のメンバーにも影響が大きい。まして、戦闘集団として強力にしようと思ったら、ドラマで武田観柳斎が指摘し賛同するように、指示命令系統をはっきりさせる必要がある。
土方さんは、指示命令を徹底させやすい規模の10人単位の小隊にするという案を持っていた。これは、史実において慶応元年に実際に行った組織を先取りする案だ。
3. 永倉さんの立場から 食客であり同志であるという意識
褒賞金についても組織編成についても「分け隔てをするのはよくない」とはっきり土方さんに異を唱える永倉さん。清河暗殺の時に敵討ちの青年に力を貸すために別行動を取ったりしている永倉さんの一匹狼的な性格が、この場面ではっきり出てきたと思う。
永倉さんにとっては、新選組は近藤さんに共鳴する同志の集団。そして、大河ドラマ『新選組!』の前半でつねさんが「食客とは」とふでさんに語った、模範的な食客だと思う。つまり、普段は寝食の面倒を見てもらい、いざとなったら命を賭けて主人のために戦う、という意味では、永倉さんは池田屋で近藤さんに次ぐ戦闘力を示したし、命がけで戦ったにもかかわらず、日頃の恩を返しただけで働きに応じた分配を求めず、他の同志にも分け隔てない待遇を求めるという模範的な食客なのだ。
新選組が永倉さんと同じ価値観と戦闘力を持った強者《つわもの》で100%構成されていたら、土方さんも組織編成や褒賞金の分配に悩まずに済んだろう(苦笑)。そうじゃないからこそ、土方さんは烏合の衆である新選組を再編する必要があると感じてるんだよね。
4. 山南さんの立場から 近藤さんに共鳴し尊敬する立場から
ある意味では、土方さん対永倉さんの対立軸の方が大きく見える。が、「近藤さんの人柄に共鳴し尊敬する同志の集まり」という感覚においては、山南さんも永倉さんと同様だ。
ドラマでは、山南さんと土方さんの対立点はふたつあると思う。ひとつは、褒賞金の取り扱いについてであり、もうひとつは、不鮮明ではあるのだが、新選組を軸にした組織の見方の違いにある。
前者については、割と簡単。山南さんは、ある意味では永倉さんと同じで、近藤さんに共鳴する同志の集団で、試衛館時代から食わせてもらっている恩をいつかどこかで返すべきだと思っているし、永倉さんと同様に自分がいくら貰えるかという欲がない。修羅場でどのくらい働けるかという点については第33話に譲るものの、近藤さんのためになら全力を尽くすことを惜しまないし、報酬の多寡によって手を抜くということはない。だから、新選組の今後のためにお金を取っておいて、今後のために備えておくという考え方ができる。
でも、永倉さん同様、山南さんみたいな隊士が100%だったら、土方さんにとっては楽だったわけで、そうじゃないからこそ土方さんは分配の方針を決めたんだろう。もし、600両という大金を幕府や朝廷からもらったということがわかっていて、全額を内部留保してしまったとしたら、隊士たちはどう反応したか。
……もし内部留保100%という決定をしたとしたら、どうなるだろう。いろいろな思惑で新選組に加入した隊士も増えたので、報酬金をよこせと主張する者もいたかも知れないし、もっと怖いのは河合君が金庫にしまう600両を巡って殺し合いが起こるかも知れないという事態である。土方さんが600両のほぼ全額をあっさり隊士に分けようとしたのか、案外、大金を内部留保しているとわかったら金庫番の河合君だけでなく、局長副長も暗殺されるかも知れないという危機感があったかも知れない……対立する芹沢派を殺害という究極の手段で排除しただけに、自分たちもその危険にさらされるとも限らないという危機意識は高かったと思うのだ。
以上……うまく整理したとは言えない試論の段階だが、土方さんがキレたのは単に個人の好き嫌いではなくて、烏合の集団を組織としてまとめようとする側と、個人として近藤さんに共鳴してついていこうとする側のアプローチの違いで論じてみた。土方さんが100%正しいと主張しているわけではないが、なぜあの場でキレたのかという分析の糸口になれば面白いと思うので。
今回のドラマで永倉さん・山南さんと土方さんが対立した背景だが、個人個人の性格や価値観の違いもさることながら、新選組をどう見ているのか、という点に整理して考えたいと思う。
永倉さん・山南さんは近藤さんに賛同して浪士組に加わった同志たちの延長線で新選組を見ている。土方さんは、さらに新選組を大きくすることを前提として、京都の治安を守る有志の警察隊であると同時に幕府のための軍隊として強化する方向で、壬生浪士組から決別して新選組を再編成しようとしている。
なぜ土方さんがあの場面でキレたのか、それは新選組を再編するための鍵である(と土方さんが思っている)組織編成と褒賞金の分配を巡る対立だったからだと、白牡丹は思う。
そもそも新選組が何を目指した団体であったか、ビジョンやミッションの変化・変質については次回の感想で述べることが適切だと思うのでここでは述べないが、身分に関係なく賛同する者を受け容れる有志の団体において、近代的な組織として、戦闘集団として、最も効率よく機能させるために重要なのは、組織編成であり、報酬の分配であり、出動命令に従わなかった左之助への謹慎処分に見られるように処罰の発動である。
1. 土方さんの立場から 褒賞金の分配について
幕府と朝廷から受け取った600両の褒賞金の分配については、ドラマにおける土方さんの考え方は、局長副長に対する役職手当を除いては、働きに応じてというか、命をどれだけ危険にさらしたかが基準だ。池田屋に最初に突入して倍以上の浪士と2時間以上も斬り合った近藤隊に厚く、続いて援護にかけつけた土方隊がその次、遅れて駆けつけた河合・松原隊にはやや少なく、屯所で守りを固めていた隊にはゼロ。
後方で守りを固めていた隊士たちにゼロというのは異論もあるかも知れない。が、実戦部隊を動かす土方さんの立場からすれば、結果的に命を危険に曝さなかった隊士にも特別手当が払われるように分配したら、今後の出動の時に仮病を使うなどして身の安全を優先させようとする隊士が出てくる怖れがあり、その心配を極力減らしたいという意思が働いたのではないかと思う。
なお「池田屋の裏で物陰で震えていた浅野が20両なのは納得できない」と感じる視聴者がいるのは、三谷さん脚本のミソだと思う。成果主義という方針を貫こうとしても、組織に見えないところでズルをしたり手を抜いたりして結果的に不公平な報酬を得る者がいるというのは、現実の組織でもあり得る話で、リアリティたっぷり。まして、池田屋のあの場面では、誰もが生死を賭けて散らばって戦っていたため、浅野君がズルをしたことを知っているのは視聴者だけだ。その浅野君が今後どうなるかは、回を追って見ていって欲しい。
2. 土方さんの立場から 組織編成について
同志の集団から機能的な組織に脱皮するに当たって、どういう組織編成にするか、誰をどういう役職につけるかは、組織を経営する側にとっては最も裁量権を使いやすいところで、組織のメンバーにも影響が大きい。まして、戦闘集団として強力にしようと思ったら、ドラマで武田観柳斎が指摘し賛同するように、指示命令系統をはっきりさせる必要がある。
土方さんは、指示命令を徹底させやすい規模の10人単位の小隊にするという案を持っていた。これは、史実において慶応元年に実際に行った組織を先取りする案だ。
3. 永倉さんの立場から 食客であり同志であるという意識
褒賞金についても組織編成についても「分け隔てをするのはよくない」とはっきり土方さんに異を唱える永倉さん。清河暗殺の時に敵討ちの青年に力を貸すために別行動を取ったりしている永倉さんの一匹狼的な性格が、この場面ではっきり出てきたと思う。
永倉さんにとっては、新選組は近藤さんに共鳴する同志の集団。そして、大河ドラマ『新選組!』の前半でつねさんが「食客とは」とふでさんに語った、模範的な食客だと思う。つまり、普段は寝食の面倒を見てもらい、いざとなったら命を賭けて主人のために戦う、という意味では、永倉さんは池田屋で近藤さんに次ぐ戦闘力を示したし、命がけで戦ったにもかかわらず、日頃の恩を返しただけで働きに応じた分配を求めず、他の同志にも分け隔てない待遇を求めるという模範的な食客なのだ。
新選組が永倉さんと同じ価値観と戦闘力を持った強者《つわもの》で100%構成されていたら、土方さんも組織編成や褒賞金の分配に悩まずに済んだろう(苦笑)。そうじゃないからこそ、土方さんは烏合の衆である新選組を再編する必要があると感じてるんだよね。
4. 山南さんの立場から 近藤さんに共鳴し尊敬する立場から
ある意味では、土方さん対永倉さんの対立軸の方が大きく見える。が、「近藤さんの人柄に共鳴し尊敬する同志の集まり」という感覚においては、山南さんも永倉さんと同様だ。
ドラマでは、山南さんと土方さんの対立点はふたつあると思う。ひとつは、褒賞金の取り扱いについてであり、もうひとつは、不鮮明ではあるのだが、新選組を軸にした組織の見方の違いにある。
前者については、割と簡単。山南さんは、ある意味では永倉さんと同じで、近藤さんに共鳴する同志の集団で、試衛館時代から食わせてもらっている恩をいつかどこかで返すべきだと思っているし、永倉さんと同様に自分がいくら貰えるかという欲がない。修羅場でどのくらい働けるかという点については第33話に譲るものの、近藤さんのためになら全力を尽くすことを惜しまないし、報酬の多寡によって手を抜くということはない。だから、新選組の今後のためにお金を取っておいて、今後のために備えておくという考え方ができる。
でも、永倉さん同様、山南さんみたいな隊士が100%だったら、土方さんにとっては楽だったわけで、そうじゃないからこそ土方さんは分配の方針を決めたんだろう。もし、600両という大金を幕府や朝廷からもらったということがわかっていて、全額を内部留保してしまったとしたら、隊士たちはどう反応したか。
……もし内部留保100%という決定をしたとしたら、どうなるだろう。いろいろな思惑で新選組に加入した隊士も増えたので、報酬金をよこせと主張する者もいたかも知れないし、もっと怖いのは河合君が金庫にしまう600両を巡って殺し合いが起こるかも知れないという事態である。土方さんが600両のほぼ全額をあっさり隊士に分けようとしたのか、案外、大金を内部留保しているとわかったら金庫番の河合君だけでなく、局長副長も暗殺されるかも知れないという危機感があったかも知れない……対立する芹沢派を殺害という究極の手段で排除しただけに、自分たちもその危険にさらされるとも限らないという危機意識は高かったと思うのだ。
以上……うまく整理したとは言えない試論の段階だが、土方さんがキレたのは単に個人の好き嫌いではなくて、烏合の集団を組織としてまとめようとする側と、個人として近藤さんに共鳴してついていこうとする側のアプローチの違いで論じてみた。土方さんが100%正しいと主張しているわけではないが、なぜあの場でキレたのかという分析の糸口になれば面白いと思うので。
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