新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
小休止の後は、いよいよ土方さんのコンフリクトマネジメント、対大鳥さんと対榎本さんのケース分析です……お飲み物やお菓子・おつまみの用意はできましたか(笑)?
(3) 土方さんvs大鳥さん(第一ラウンド)
降伏の方針を聞いて土方さんが乗り込んで来ることを予測していた大鳥さん。懐中時計を見て「早かったな」と呟く言葉から推測できるのは、武蔵野楼に同席していた永井様が称名寺の新選組屯所で土方さんに降伏の方針を告げることを想定していたのではないかということ。実際には、早々に宴が終わって称名寺に戻るところだった永井様は、遅まきながら武蔵野楼に向かうつもりだった(宴が終わっていれば、その先の五稜郭に行くつもりだった)土方さんと路上で出会い、そこで降伏の方針を伝えています。大鳥さんが計算にもとづいて予測をして動く人であることを描くと共に、実際の出来事は必ずしも大鳥さんの計算通りに起こるとは限らないことも視聴者にうまく伝えてますね。
土方さんを少し待たせてから(これも大鳥さんの計算ですが、目的は何かな? すぐに会うのはいかにも土方さんを重視しているように見えるので、勿体ぶったのかな……)出迎えます。
大鳥さんの内心のコンフリクトについては既に分析した通りで内心では戦の継続を願っているのですが、榎本さんの降伏方針に反対を伝えに来たと予想された土方さんに対して、大鳥さんは榎本総裁には会わせないと要求を突っぱねます。総大将である榎本さんの降伏の決意が固かったことに加えて、すでに武蔵野楼で幹部たちに降伏の方針を伝えた後(永井様が語る宴の様子からすると、幹部たちは意気消沈しながらも反対を唱えることはなかったことが伺えます)で、榎本さんを支える副官的な立場(あくまでもこのドラマ設定ですが……)なので今さら土方さんの抗議を受け容れるわけにはいかないのです。
大鳥さんは「今さら我らの決定に異を唱えられても、それは道理に合わん。今夜、総裁は君を待っていたのだ。なぜ来なかった」と、武蔵野楼に来なかった土方さんを咎めます。武蔵野楼に居合わせていれば降伏に反対するチャンスもあったのに自分からそのチャンスを棒に振ったことをなじっているわけですが、個人的にはそりが合わない相手に対してその点を指摘するのは案外フェアなところもある人柄かなぁという気にもなりますね……まぁ、内心では戦を継続させたい大鳥さんとしては土方さんが降伏に反対してくれれば榎本さんの気持ちを変えることができたかも知れないのに、それができなかったので口惜しい、でも虫が好かない相手に素直にそう言えない(笑)という心情も見え隠れする言動ですね(武蔵野楼で土方さんが来ないことに苛立ちを見せていたのは、幹部たちの中に溶け込もうとしないことよりも、そちらを気にしていたのではないかとも見えます)。
一方の土方さんは、大鳥さんと談判しても埒があかない、降伏の方針を覆すには総裁の榎本さん自身と談判して説得しなければならないとわかっているので、「あんたじゃ駄目だ」「総裁に会わせろ」と対立モード。上官である(あくまでも、このドラマ設定ですが)大鳥さんを飛び越えて上司の上司であるトップとの会談を要求するのは戦略的には正しいのですが、大鳥さんにしてみたらムッとするのは間違いないでしょう。しかも、「降伏するのが陸軍奉行の仕事か」と皮肉を言うわ、「ありもしねえ敵の反撃に怯えて、あんたはみすみす陣を明け渡してきた。それがあんたの言う采配か!」と大鳥さんの指揮官としての能力にケチをつけるわ、攻撃モード全開です(笑)。
さらに、籠城戦の構想を持ち出す大鳥さんを鼻で笑い、「甘い!」「学者さん、もっと人の心を読めよ」と、大鳥さんの痛いところを突きまくり(苦笑)。内心では降伏をよしと思っていない大鳥さんは、土方さんにけちょんけちょんにやられても、「打つ手はひとつしかない」と言い放つ土方さんに「参考までに聞かせてもらおうか」と聞く姿勢を見せています。しかし、当時の西洋から入ってきた軍学にはおそらくゲリラ戦という概念はなかったんでしょうね(実際には、ナポレオン軍に攻め込まれた19世紀初めのスペイン民衆が非正規軍を組織して行った抵抗戦争がゲリラ戦の走りでした……「ゲリラ」とはもともとスペイン語で「小戦争」という意味です。これが戦術として広まるようになるのは、20世紀になってからですし)、書物から戦争の方法を学んでいる大鳥さんは一笑に付します。しかし、土方さんの話を聞いているうちに興味は示してるんですよね……ただ、榎本さんの降伏方針を実行する立場にいる大鳥さんとしては、土方さんの考えに賛成するわけにもいかず、ディスカッションを打ち切ってしまいます。
ここで大鳥さんを説得して味方につけるには時間もないし、大鳥さんを突き飛ばす武力行使に訴えて(苦笑)大鳥さんを突破する土方さん。さらに、暮れの総裁選挙の時の出来事を持ち出して「お前、自分に入れてたろ自分に……格好悪かったぜ」と追い討ちをかけるイヂワル土方さん。
コンフリクトマネジメントの観点から言えば、局面的には土方さんの圧勝でしたが、やり過ぎて、実は大鳥さんが降伏の方針には内心では反対だという点を、見逃しています。もしもその点に土方さんが気付いていたら、大鳥さんとの第一ラウンドは違う展開をしていたかも知れません。そういう意味では、この場面での土方さんのコンフリクトマネジメントは、局面的には圧勝しましたが、大鳥さんの内心の思いに気付かなかったことに加えて、ますます大鳥さんの自分に対する心証を悪くしたという意味でも、うまくないやり方であったとも言えます。緊急の用件を優先したという判断にはよしと思うのですが、返す刀でますます大鳥さんとの溝を深める必要はなかったんじゃないですかねぇ……。
……あれ、さらっと流すつもりだった大鳥さんとの第一ラウンドの分析にも、意外に語ってしまいました(汗)。じゃ、ここでまた、小休止を入れさせていただきます。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7 本稿
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
(3) 土方さんvs大鳥さん(第一ラウンド)
降伏の方針を聞いて土方さんが乗り込んで来ることを予測していた大鳥さん。懐中時計を見て「早かったな」と呟く言葉から推測できるのは、武蔵野楼に同席していた永井様が称名寺の新選組屯所で土方さんに降伏の方針を告げることを想定していたのではないかということ。実際には、早々に宴が終わって称名寺に戻るところだった永井様は、遅まきながら武蔵野楼に向かうつもりだった(宴が終わっていれば、その先の五稜郭に行くつもりだった)土方さんと路上で出会い、そこで降伏の方針を伝えています。大鳥さんが計算にもとづいて予測をして動く人であることを描くと共に、実際の出来事は必ずしも大鳥さんの計算通りに起こるとは限らないことも視聴者にうまく伝えてますね。
土方さんを少し待たせてから(これも大鳥さんの計算ですが、目的は何かな? すぐに会うのはいかにも土方さんを重視しているように見えるので、勿体ぶったのかな……)出迎えます。
大鳥さんの内心のコンフリクトについては既に分析した通りで内心では戦の継続を願っているのですが、榎本さんの降伏方針に反対を伝えに来たと予想された土方さんに対して、大鳥さんは榎本総裁には会わせないと要求を突っぱねます。総大将である榎本さんの降伏の決意が固かったことに加えて、すでに武蔵野楼で幹部たちに降伏の方針を伝えた後(永井様が語る宴の様子からすると、幹部たちは意気消沈しながらも反対を唱えることはなかったことが伺えます)で、榎本さんを支える副官的な立場(あくまでもこのドラマ設定ですが……)なので今さら土方さんの抗議を受け容れるわけにはいかないのです。
大鳥さんは「今さら我らの決定に異を唱えられても、それは道理に合わん。今夜、総裁は君を待っていたのだ。なぜ来なかった」と、武蔵野楼に来なかった土方さんを咎めます。武蔵野楼に居合わせていれば降伏に反対するチャンスもあったのに自分からそのチャンスを棒に振ったことをなじっているわけですが、個人的にはそりが合わない相手に対してその点を指摘するのは案外フェアなところもある人柄かなぁという気にもなりますね……まぁ、内心では戦を継続させたい大鳥さんとしては土方さんが降伏に反対してくれれば榎本さんの気持ちを変えることができたかも知れないのに、それができなかったので口惜しい、でも虫が好かない相手に素直にそう言えない(笑)という心情も見え隠れする言動ですね(武蔵野楼で土方さんが来ないことに苛立ちを見せていたのは、幹部たちの中に溶け込もうとしないことよりも、そちらを気にしていたのではないかとも見えます)。
一方の土方さんは、大鳥さんと談判しても埒があかない、降伏の方針を覆すには総裁の榎本さん自身と談判して説得しなければならないとわかっているので、「あんたじゃ駄目だ」「総裁に会わせろ」と対立モード。上官である(あくまでも、このドラマ設定ですが)大鳥さんを飛び越えて上司の上司であるトップとの会談を要求するのは戦略的には正しいのですが、大鳥さんにしてみたらムッとするのは間違いないでしょう。しかも、「降伏するのが陸軍奉行の仕事か」と皮肉を言うわ、「ありもしねえ敵の反撃に怯えて、あんたはみすみす陣を明け渡してきた。それがあんたの言う采配か!」と大鳥さんの指揮官としての能力にケチをつけるわ、攻撃モード全開です(笑)。
さらに、籠城戦の構想を持ち出す大鳥さんを鼻で笑い、「甘い!」「学者さん、もっと人の心を読めよ」と、大鳥さんの痛いところを突きまくり(苦笑)。内心では降伏をよしと思っていない大鳥さんは、土方さんにけちょんけちょんにやられても、「打つ手はひとつしかない」と言い放つ土方さんに「参考までに聞かせてもらおうか」と聞く姿勢を見せています。しかし、当時の西洋から入ってきた軍学にはおそらくゲリラ戦という概念はなかったんでしょうね(実際には、ナポレオン軍に攻め込まれた19世紀初めのスペイン民衆が非正規軍を組織して行った抵抗戦争がゲリラ戦の走りでした……「ゲリラ」とはもともとスペイン語で「小戦争」という意味です。これが戦術として広まるようになるのは、20世紀になってからですし)、書物から戦争の方法を学んでいる大鳥さんは一笑に付します。しかし、土方さんの話を聞いているうちに興味は示してるんですよね……ただ、榎本さんの降伏方針を実行する立場にいる大鳥さんとしては、土方さんの考えに賛成するわけにもいかず、ディスカッションを打ち切ってしまいます。
ここで大鳥さんを説得して味方につけるには時間もないし、大鳥さんを突き飛ばす武力行使に訴えて(苦笑)大鳥さんを突破する土方さん。さらに、暮れの総裁選挙の時の出来事を持ち出して「お前、自分に入れてたろ自分に……格好悪かったぜ」と追い討ちをかけるイヂワル土方さん。
コンフリクトマネジメントの観点から言えば、局面的には土方さんの圧勝でしたが、やり過ぎて、実は大鳥さんが降伏の方針には内心では反対だという点を、見逃しています。もしもその点に土方さんが気付いていたら、大鳥さんとの第一ラウンドは違う展開をしていたかも知れません。そういう意味では、この場面での土方さんのコンフリクトマネジメントは、局面的には圧勝しましたが、大鳥さんの内心の思いに気付かなかったことに加えて、ますます大鳥さんの自分に対する心証を悪くしたという意味でも、うまくないやり方であったとも言えます。緊急の用件を優先したという判断にはよしと思うのですが、返す刀でますます大鳥さんとの溝を深める必要はなかったんじゃないですかねぇ……。
……あれ、さらっと流すつもりだった大鳥さんとの第一ラウンドの分析にも、意外に語ってしまいました(汗)。じゃ、ここでまた、小休止を入れさせていただきます。
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『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7 本稿
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
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では、『新選組!! 土方歳三最期の一日』から土方さんの言動を中心に取り出しながら、「コンフリクトのマネジメント」を分析し、考えていきたいと思います。
本編での土方さんは理屈で語るのが苦手な分、実力行使でコンフリクトを突破してしまうという印象が強かったと思います(と総括してしまうと身も蓋もないかも知れません^_^;)が……続編での土方さんは島田さんや尾関さんが「変わった」と感じるだけあって、コンフリクトへの対処にも幅が出てきています。
ストーリーの流れに沿って、土方さんが遭遇するコンフリクトと、その対処を見ていきましょう。
(1) 土方さんvs相馬君
【称名寺で隊士達に酒を振る舞う土方さん、話しかける相馬君に新選組の成り立ちを話す場面。
土方「始まりは八人。近藤さんに俺に総司、永倉に左之助に源さん、それから山南さん」
相馬「ヤマナミさん……ああ、法度に背いて切腹させられた人ですよね」
土方「……山南総長は、武士の中の武士だ」
相馬「え?」
土方「あの人がいなけりゃ、今の新選組はなかった」
相馬「そうなんですか」
土方「……まあ、昔の話はもういいよ。これからの新選組を引っ張っていくのは、お前たちだ。よろしく頼むぞ」】
山南さん切腹の事情をよく知らない相馬君が「ああ、法度に背いて切腹させられた人ですね」と軽く返します。かつて山南さんに深い信頼を置き、互いを認め合っていただけに山南さんの脱走・切腹が心に傷を残している土方さんの内心では、おそらくカチンと来たでしょうね。かつての土方さんであれば「黙れ! 山南さんのことなど何ひとつわかっちゃいねえくせに!」と一喝したかも知れませんね……。
しかし、様々な経験を経て丸くなった土方さんは、「……山南総長は、武士の中の武士だ」「あの人がいなけりゃ、今の新選組はなかった」と、相馬君を押さえつけることなく、自分の思いを語り、相馬君の認識と違う山南さんへの自分の認識を伝えます。
「アサーティプネス」という言葉があります。相手を傷つけず否定することなく、また自分の思いを押さえ込むこともなく、相手の立場や人格を尊重した上で自分の意見を伝えるアプローチの仕方を言います。この場面の土方さんは、まさにアサーティブネスを発揮しています。
コンフリクト対処のパターンで言えば「攻撃・対立」の変形なのですが、意見を異にしても相手を傷つけることなく追い詰めることもなく、自分の意見を主張する方法もあります。それが、この場面の土方さんが発揮するアサーティブネスという方法です。
さらに、相馬君たち入隊歴の短い隊士たちに「これからの新選組を引っ張っていくのは、お前たちだ。よろしく頼むぞ」と励ましもしています。完璧ですね(^^)。
島田さんや尾関さんに「土方さんは変わった」と思われるのは、法度で人を縛り付けたり、副長の権限をもって隊士たちを押さえつけたり(その場面場面では止むを得なかったこともあったと思いますが……)しない新しい土方さんの側面が出てきたからと思わせるエピソードです。
(2) 土方さんvs永井様
土方さんと永井様の会話の場面は名場面のひとつなんで、少し長めにビデオを再生させてください(笑)。
【夜間、道で出会った土方さんと永井様。やがて、永井様は榎本さんが降伏する方針だということを切り出す。「そんな馬鹿な。まだ負けてない!」と、信じられない土方さん。
永井「ただな、土方。私はそれもありだと思っているんだよ」
土方「永井様……」
永井「もうこの辺で良しとしてもいいんじゃないか」
土方「永井様の口からそんな言葉は聞きたくなかったです」
永井「俺たちはさんざん戦った。薩長の大軍を向こうに回して、よくここまでやった。もういいんじゃないか」
土方「俺が何のために今日まで生き続けてきたと思うんですか。すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んだ時俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは、近藤勇を罪人のままにしておくわけにはいかなかったからです。今、薩長に白旗を揚げたら、俺はあの人に何と言って詫びたらいいんですか!」
永井「ごめんなさいでいいじゃないか」
土方「……」
永井「それで怒るような近藤さんじゃないだろう」
土方「……」
永井「お前さんはよくやった。土方歳三がいてくれたお陰で、五稜郭は今まで持ちこたえられた。皆今日まで戦ってこれたんだ」
土方「……」
永井「ここまで生きてきたんだ。生き延びて、西郷や桂がどんな世の中を作るのかを、見届けてやろうじゃないか」
土方「失礼します」
永井「どこへ行く」
土方「榎本に会ってきます」
永井「やめとけ」
土方「降伏はさせない」
永井「今さら会っても、奴の心は変わらんぞ」
土方「その時は、……榎本を斬る」
永井「土方!」】
土方さんは、榎本さんの降伏するという方針にも、永井様の「私はそれもありだと思ってるんだよ」「もうこの辺でいいじゃないか」「生き延びて、西郷や桂がどんな世の中を作るのか、見届けてやろうじゃないか」という考え方にも同意していません。
しかし、土方さんは永井様と直接議論することをしませんでした。「回避」ですね。
土方さんが永井様と直接対決しなかったのには、いくつかの要因があるかと思います。
まず、旧幕府の時代に永井様が新選組のよき理解者であり、土方さんも永井様に対して感謝と尊敬の念を抱いているということ。「永井様」と「様」付きで呼んでいるのは、かつての新選組の上司にあたる幕臣であったということ以上に、懐の深い永井様に対する尊敬の念があったと思われます(「永井様」と跪いてますし……)。
ただ、だからと言って、降伏を巡っての永井様の見解との違いに対して、譲歩したり妥協したりする土方さんではないわけで。
もうひとつの要因は、永井様と対決しても総大将である榎本さんの方針を変えさせないことには埒があかないと判断したことがあると思われます。永井様を説得できたとしても、榎本さんの方針を変えることにはならない。
だからこそ、土方さんは永井様との直接対決を回避して、榎本さんとの直談判に賭けることを選びます。
この後は、大鳥さん、榎本さんとのコンフリクトのケースを通じて、土方さんがドラマの中盤から後半にかけてどうコンフリクトを乗り越えたかを見たいと思います……また小休止としましょうか(笑)。
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その2
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本編での土方さんは理屈で語るのが苦手な分、実力行使でコンフリクトを突破してしまうという印象が強かったと思います(と総括してしまうと身も蓋もないかも知れません^_^;)が……続編での土方さんは島田さんや尾関さんが「変わった」と感じるだけあって、コンフリクトへの対処にも幅が出てきています。
ストーリーの流れに沿って、土方さんが遭遇するコンフリクトと、その対処を見ていきましょう。
(1) 土方さんvs相馬君
【称名寺で隊士達に酒を振る舞う土方さん、話しかける相馬君に新選組の成り立ちを話す場面。
土方「始まりは八人。近藤さんに俺に総司、永倉に左之助に源さん、それから山南さん」
相馬「ヤマナミさん……ああ、法度に背いて切腹させられた人ですよね」
土方「……山南総長は、武士の中の武士だ」
相馬「え?」
土方「あの人がいなけりゃ、今の新選組はなかった」
相馬「そうなんですか」
土方「……まあ、昔の話はもういいよ。これからの新選組を引っ張っていくのは、お前たちだ。よろしく頼むぞ」】
山南さん切腹の事情をよく知らない相馬君が「ああ、法度に背いて切腹させられた人ですね」と軽く返します。かつて山南さんに深い信頼を置き、互いを認め合っていただけに山南さんの脱走・切腹が心に傷を残している土方さんの内心では、おそらくカチンと来たでしょうね。かつての土方さんであれば「黙れ! 山南さんのことなど何ひとつわかっちゃいねえくせに!」と一喝したかも知れませんね……。
しかし、様々な経験を経て丸くなった土方さんは、「……山南総長は、武士の中の武士だ」「あの人がいなけりゃ、今の新選組はなかった」と、相馬君を押さえつけることなく、自分の思いを語り、相馬君の認識と違う山南さんへの自分の認識を伝えます。
「アサーティプネス」という言葉があります。相手を傷つけず否定することなく、また自分の思いを押さえ込むこともなく、相手の立場や人格を尊重した上で自分の意見を伝えるアプローチの仕方を言います。この場面の土方さんは、まさにアサーティブネスを発揮しています。
コンフリクト対処のパターンで言えば「攻撃・対立」の変形なのですが、意見を異にしても相手を傷つけることなく追い詰めることもなく、自分の意見を主張する方法もあります。それが、この場面の土方さんが発揮するアサーティブネスという方法です。
さらに、相馬君たち入隊歴の短い隊士たちに「これからの新選組を引っ張っていくのは、お前たちだ。よろしく頼むぞ」と励ましもしています。完璧ですね(^^)。
島田さんや尾関さんに「土方さんは変わった」と思われるのは、法度で人を縛り付けたり、副長の権限をもって隊士たちを押さえつけたり(その場面場面では止むを得なかったこともあったと思いますが……)しない新しい土方さんの側面が出てきたからと思わせるエピソードです。
(2) 土方さんvs永井様
土方さんと永井様の会話の場面は名場面のひとつなんで、少し長めにビデオを再生させてください(笑)。
【夜間、道で出会った土方さんと永井様。やがて、永井様は榎本さんが降伏する方針だということを切り出す。「そんな馬鹿な。まだ負けてない!」と、信じられない土方さん。
永井「ただな、土方。私はそれもありだと思っているんだよ」
土方「永井様……」
永井「もうこの辺で良しとしてもいいんじゃないか」
土方「永井様の口からそんな言葉は聞きたくなかったです」
永井「俺たちはさんざん戦った。薩長の大軍を向こうに回して、よくここまでやった。もういいんじゃないか」
土方「俺が何のために今日まで生き続けてきたと思うんですか。すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んだ時俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは、近藤勇を罪人のままにしておくわけにはいかなかったからです。今、薩長に白旗を揚げたら、俺はあの人に何と言って詫びたらいいんですか!」
永井「ごめんなさいでいいじゃないか」
土方「……」
永井「それで怒るような近藤さんじゃないだろう」
土方「……」
永井「お前さんはよくやった。土方歳三がいてくれたお陰で、五稜郭は今まで持ちこたえられた。皆今日まで戦ってこれたんだ」
土方「……」
永井「ここまで生きてきたんだ。生き延びて、西郷や桂がどんな世の中を作るのかを、見届けてやろうじゃないか」
土方「失礼します」
永井「どこへ行く」
土方「榎本に会ってきます」
永井「やめとけ」
土方「降伏はさせない」
永井「今さら会っても、奴の心は変わらんぞ」
土方「その時は、……榎本を斬る」
永井「土方!」】
土方さんは、榎本さんの降伏するという方針にも、永井様の「私はそれもありだと思ってるんだよ」「もうこの辺でいいじゃないか」「生き延びて、西郷や桂がどんな世の中を作るのか、見届けてやろうじゃないか」という考え方にも同意していません。
しかし、土方さんは永井様と直接議論することをしませんでした。「回避」ですね。
土方さんが永井様と直接対決しなかったのには、いくつかの要因があるかと思います。
まず、旧幕府の時代に永井様が新選組のよき理解者であり、土方さんも永井様に対して感謝と尊敬の念を抱いているということ。「永井様」と「様」付きで呼んでいるのは、かつての新選組の上司にあたる幕臣であったということ以上に、懐の深い永井様に対する尊敬の念があったと思われます(「永井様」と跪いてますし……)。
ただ、だからと言って、降伏を巡っての永井様の見解との違いに対して、譲歩したり妥協したりする土方さんではないわけで。
もうひとつの要因は、永井様と対決しても総大将である榎本さんの方針を変えさせないことには埒があかないと判断したことがあると思われます。永井様を説得できたとしても、榎本さんの方針を変えることにはならない。
だからこそ、土方さんは永井様との直接対決を回避して、榎本さんとの直談判に賭けることを選びます。
この後は、大鳥さん、榎本さんとのコンフリクトのケースを通じて、土方さんがドラマの中盤から後半にかけてどうコンフリクトを乗り越えたかを見たいと思います……また小休止としましょうか(笑)。
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その2
その3
その4
その5
その6 本稿
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
さて、小休止の後は「コンフリクトのマネジメント」についてです。コンフリクトが発生すること自体は止められませんが、コンフリクトに賢く対処することによってコンフリクトから生じる感情のもつれを最小限度にしたり、コンフリクトを建設的に解決することによって組織全体にとってプラスに転じさせたりすることも場合によってはできます。それが「マネジメント」の意味です。
コンフリクト対処の5パターン
土方さんを中心にコンフリクトのケースを見ていく前に、基本的な対処の5パターンについて解説します。
(1) 回避
これは、コンフリクトの存在に目をつぶる、あるいは我慢するという対処方法です。
「それは対処方法にならないのではないか」とツッコミが入りそうですが、私たちは日常的にこの方法を使っています。たとえば満員電車の中で近くの人のイヤフォンから漏れるシャカシャカ音が煩わしいと思っても、注意する人は少ないと思います。耳障りだけど自分の健康が損なわれるほど迷惑でもない限り、「どうせ電車を降りるまでの辛抱だから」と我慢してしまう人が多いのではないでしょうか。
そのように被害が大きくない場合、一過性の問題だと思われる場合、あるいは重大で緊急な他の問題に先に対処しなければならない場合、人は小さなコンフリクトを無視したり我慢したりして切り抜けます。あるいは、先送りします。「回避」が有効な場合もあるわけです。
一方で、先送りばかりしていても向かないケースもあります。先送りすることによって悪化させるリスクもありますし。
(2) 譲歩
これは、相手の言い分や利益を優先させることによって解決を図るという方法です。
コンフリクトの相手にもよりますが、相手を立てなければならない時、相手の気持ちや意見や利益を優先させることが長期的に自分にとっても有利になる時には有効です。
ただ、いつもいつも相手の言い分を聞き入れるわけにはいきませんよね。自己犠牲が続くと、自分の気持ちもネガティブになってきますし。これも、短期的には有効ですが、長期的に使える対処法ではないでしょう。
(3) 攻撃・対決
譲歩の反対で、自分の言い分や利益を主張し相手に呑ませる対処方法です。
緊急の課題、自分側の主張が正しい場合、自分側の方が優位にあって相手に譲歩させることができる場合には、それもアリでしょうね。
ただ、このパターンばかり続けていると、相手に確実に嫌われます(苦笑)。また、こちらの言い分を押し通すことによって、長期的には組織全体にとって必ずしも最善の解決方法にはなっていない可能性もあります。
(4) 妥協
相手の主張と自分の主張の折衷案で折り合うという対処方法です。
お互いに5割得て5割損するというわけで、感情的には双方にそこそこの納得感が得られます。
ただ、真っ向から利害や意見が対立する場合には、お互いの利益や意見を5割ずつというのは難しいケースも多々あるでしょう。それに、「双方痛み分け」が根本的な問題解決にならないケースもありますね。
(5) 協力
互いの視点を全部出し合って、お互いにとって建設的な解決方法を探るという解決方法です。
根本的かつ長期的な問題の解決にはベストの解決方法ですが、時間がかかりますので緊急の課題には向いていないかも知れません。また、様々な関係者の意向を反映させようとして「妥協」になってしまうリスクも含まれています。
ただ、協力し合うことによって、双方が自己の利益を追求している内には考えつかなかった建設的・創造的な解決方法が生まれてくる可能性があります。
コンフリクトの解決方法
一般化は難しいですが、あえて一般化します。
・回避
・一方の意見・利益を通す(攻撃・譲歩)
・妥協・痛み分け
・問題解決(対決あるいは協力による)
・玉虫色の決着
・資源の拡大
・権威機関の命令
・人間を変える
・組織の組み替え
・共通の敵の認識
・上位目標の設定
最初の4点は「コンフリクト対処の5パターン」で解説した通りです。
次の「玉虫色の解決」は一時的な気休めで、双方の顔を一旦立てるにはいいですが、問題の先送りです。「資源の拡大」は、たとえば予算の配分を巡るケースで考えられる解決策のひとつですが、いつも可能という訳ではないでしょう。「権威機関の命令」は、たとえば訴訟や調停に持ち込むケースです。「人間を変える」は、担当者を別の人に交替させるケース、あるいは当事者の行動や態度を改めさせるというケースが考えられます……人間の行動や態度を改めさせるというのは、決して簡単なことではないですが。「組織の組み替え」というのは、たとえば現場と管理部門で意見の対立が激しい時に同じ部門に編成し直したりすることですが……経験的には、組織の組み替えは別の対立構造を産んだりすることもあり、副作用もあると思います。「共通の敵の認識」は、同じ組織内で対立している時に「そもそも我々は○○社(競合他社)を抜くことが目標ではないのか」と視線を外に向けるケースがそれに当たります。そういうケースなら有効かも知れませんが、社内の別の部署とか特定の人を共通の敵として認識するケースだったりすると、どうなんでしょうね(苦笑)。まぁ使い方に注意したいものです。
「上位目標の設定」については、もう少し詳しく説明します。ちょっと抽象論が続いて眠くなった人も出てくる頃かと思いますので(苦笑)、『新選組!! 土方歳三最期の一日』から例を取って説明しますね。
【五稜郭・榎本と土方の会話
土方「あんたは、じわじわと開拓を進め、力を蓄えて、最後には独立を目指すと、俺に打ち明けてくれた。薩長に張り合って、日本にもう一つ新しい国を造ろうとあんたは言った……無茶な話だ。だから俺は乗った」
榎本「あんたが乗ってくれたお陰でね、その後、兵士の士気が一段と上がったよ」
土方「しかし、あんただって、腹の底では、それが夢でしかないことはわかっていたはずだ。本当に新しい国を造ろうなんて思っちゃいなかった……でもそれで良かったんだ。俺たちの思いは、ただ一つ。薩長に一泡吹かせること。このまますんなり薩長の新しい世の中になるのが許せなかった。だからこそ、俺は榎本武揚に賭けた」
榎本「……」】
この場面の土方さんは、「薩長に一泡吹かせること」を大きな目標と捉え、「新しい国を造る」という企ては薩長に対抗するための手段、あるいは榎本さんの方便と捉えています。つまり、「薩長に一泡吹かせること」が「新しい国を造ること」の上位目標にあるという捉え方をしているということです。
コンフリクトの解消において「上位目標の設定」を使う時は、たとえば「薩長に一泡吹かせること」が上位目標であることでふたりの意見が一致した場合、その手段についてお互いの意見を見直し、折り合えるところを探すわけです。まぁ、この話では、榎本さんの本心は必ずしも「薩長に一泡吹かせること」が上位目標にあるわけではないので、「たとえば」という仮定で出したのですが。
この「上位目標の設定」という言葉、後の場面で土方さんが榎本さんを説得する場面でも例を挙げて説明しますので、覚えておいてくださいね。コンフリクトを建設的に解消する方法として有効なやり方であることを、解説したいと思っています。
さて、長くなってきましたので、もう一回、小休止を取りましょう。休憩が終わったら、土方さんを中心に、続編における「コンフリクトのマネジメント」の実例を見ながら分析したいと思います。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3
その4
その5 本稿
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
コンフリクト対処の5パターン
土方さんを中心にコンフリクトのケースを見ていく前に、基本的な対処の5パターンについて解説します。
(1) 回避
これは、コンフリクトの存在に目をつぶる、あるいは我慢するという対処方法です。
「それは対処方法にならないのではないか」とツッコミが入りそうですが、私たちは日常的にこの方法を使っています。たとえば満員電車の中で近くの人のイヤフォンから漏れるシャカシャカ音が煩わしいと思っても、注意する人は少ないと思います。耳障りだけど自分の健康が損なわれるほど迷惑でもない限り、「どうせ電車を降りるまでの辛抱だから」と我慢してしまう人が多いのではないでしょうか。
そのように被害が大きくない場合、一過性の問題だと思われる場合、あるいは重大で緊急な他の問題に先に対処しなければならない場合、人は小さなコンフリクトを無視したり我慢したりして切り抜けます。あるいは、先送りします。「回避」が有効な場合もあるわけです。
一方で、先送りばかりしていても向かないケースもあります。先送りすることによって悪化させるリスクもありますし。
(2) 譲歩
これは、相手の言い分や利益を優先させることによって解決を図るという方法です。
コンフリクトの相手にもよりますが、相手を立てなければならない時、相手の気持ちや意見や利益を優先させることが長期的に自分にとっても有利になる時には有効です。
ただ、いつもいつも相手の言い分を聞き入れるわけにはいきませんよね。自己犠牲が続くと、自分の気持ちもネガティブになってきますし。これも、短期的には有効ですが、長期的に使える対処法ではないでしょう。
(3) 攻撃・対決
譲歩の反対で、自分の言い分や利益を主張し相手に呑ませる対処方法です。
緊急の課題、自分側の主張が正しい場合、自分側の方が優位にあって相手に譲歩させることができる場合には、それもアリでしょうね。
ただ、このパターンばかり続けていると、相手に確実に嫌われます(苦笑)。また、こちらの言い分を押し通すことによって、長期的には組織全体にとって必ずしも最善の解決方法にはなっていない可能性もあります。
(4) 妥協
相手の主張と自分の主張の折衷案で折り合うという対処方法です。
お互いに5割得て5割損するというわけで、感情的には双方にそこそこの納得感が得られます。
ただ、真っ向から利害や意見が対立する場合には、お互いの利益や意見を5割ずつというのは難しいケースも多々あるでしょう。それに、「双方痛み分け」が根本的な問題解決にならないケースもありますね。
(5) 協力
互いの視点を全部出し合って、お互いにとって建設的な解決方法を探るという解決方法です。
根本的かつ長期的な問題の解決にはベストの解決方法ですが、時間がかかりますので緊急の課題には向いていないかも知れません。また、様々な関係者の意向を反映させようとして「妥協」になってしまうリスクも含まれています。
ただ、協力し合うことによって、双方が自己の利益を追求している内には考えつかなかった建設的・創造的な解決方法が生まれてくる可能性があります。
コンフリクトの解決方法
一般化は難しいですが、あえて一般化します。
・回避
・一方の意見・利益を通す(攻撃・譲歩)
・妥協・痛み分け
・問題解決(対決あるいは協力による)
・玉虫色の決着
・資源の拡大
・権威機関の命令
・人間を変える
・組織の組み替え
・共通の敵の認識
・上位目標の設定
最初の4点は「コンフリクト対処の5パターン」で解説した通りです。
次の「玉虫色の解決」は一時的な気休めで、双方の顔を一旦立てるにはいいですが、問題の先送りです。「資源の拡大」は、たとえば予算の配分を巡るケースで考えられる解決策のひとつですが、いつも可能という訳ではないでしょう。「権威機関の命令」は、たとえば訴訟や調停に持ち込むケースです。「人間を変える」は、担当者を別の人に交替させるケース、あるいは当事者の行動や態度を改めさせるというケースが考えられます……人間の行動や態度を改めさせるというのは、決して簡単なことではないですが。「組織の組み替え」というのは、たとえば現場と管理部門で意見の対立が激しい時に同じ部門に編成し直したりすることですが……経験的には、組織の組み替えは別の対立構造を産んだりすることもあり、副作用もあると思います。「共通の敵の認識」は、同じ組織内で対立している時に「そもそも我々は○○社(競合他社)を抜くことが目標ではないのか」と視線を外に向けるケースがそれに当たります。そういうケースなら有効かも知れませんが、社内の別の部署とか特定の人を共通の敵として認識するケースだったりすると、どうなんでしょうね(苦笑)。まぁ使い方に注意したいものです。
「上位目標の設定」については、もう少し詳しく説明します。ちょっと抽象論が続いて眠くなった人も出てくる頃かと思いますので(苦笑)、『新選組!! 土方歳三最期の一日』から例を取って説明しますね。
【五稜郭・榎本と土方の会話
土方「あんたは、じわじわと開拓を進め、力を蓄えて、最後には独立を目指すと、俺に打ち明けてくれた。薩長に張り合って、日本にもう一つ新しい国を造ろうとあんたは言った……無茶な話だ。だから俺は乗った」
榎本「あんたが乗ってくれたお陰でね、その後、兵士の士気が一段と上がったよ」
土方「しかし、あんただって、腹の底では、それが夢でしかないことはわかっていたはずだ。本当に新しい国を造ろうなんて思っちゃいなかった……でもそれで良かったんだ。俺たちの思いは、ただ一つ。薩長に一泡吹かせること。このまますんなり薩長の新しい世の中になるのが許せなかった。だからこそ、俺は榎本武揚に賭けた」
榎本「……」】
この場面の土方さんは、「薩長に一泡吹かせること」を大きな目標と捉え、「新しい国を造る」という企ては薩長に対抗するための手段、あるいは榎本さんの方便と捉えています。つまり、「薩長に一泡吹かせること」が「新しい国を造ること」の上位目標にあるという捉え方をしているということです。
コンフリクトの解消において「上位目標の設定」を使う時は、たとえば「薩長に一泡吹かせること」が上位目標であることでふたりの意見が一致した場合、その手段についてお互いの意見を見直し、折り合えるところを探すわけです。まぁ、この話では、榎本さんの本心は必ずしも「薩長に一泡吹かせること」が上位目標にあるわけではないので、「たとえば」という仮定で出したのですが。
この「上位目標の設定」という言葉、後の場面で土方さんが榎本さんを説得する場面でも例を挙げて説明しますので、覚えておいてくださいね。コンフリクトを建設的に解消する方法として有効なやり方であることを、解説したいと思っています。
さて、長くなってきましたので、もう一回、小休止を取りましょう。休憩が終わったら、土方さんを中心に、続編における「コンフリクトのマネジメント」の実例を見ながら分析したいと思います。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3
その4
その5 本稿
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
しかも、サイト名が変わっていた……(また驚)。
「新選組!!ロマンチ!!!サイト!!!!」
びっくりマークが増えてる。しかも「ロマンチ」サイト(笑)。
「番組は終わりましたが、『新選組は終わらない!』という『ロマンチ』な人々が集える場として、これまで以上にご利用ください」……しかも特別企画などもあるそうで、今後も楽しみです。
「新選組!!ロマンチ!!!サイト!!!!」
びっくりマークが増えてる。しかも「ロマンチ」サイト(笑)。
「番組は終わりましたが、『新選組は終わらない!』という『ロマンチ』な人々が集える場として、これまで以上にご利用ください」……しかも特別企画などもあるそうで、今後も楽しみです。
去年の2月にサントラ第2弾発売が中止されたらしいと聞いた時、「これはひょっとして続編が出るのではないか?」と思ったものだが……そのサントラ第2弾が出るらしい。
ジェネオン 『新選組!! 土方歳三最期の一日』
……うわ〜、同時発売だって(;O;)感涙。
『新選組!』サウンドトラック第1弾に収録されていない曲と『新選組!!』で新たに収録された曲2本を含めての30曲だそうだ……何が収録されて何が漏れたか、気になるなぁ。『新選組!!』からは「希望のワルツ」当確として、後は何だろう……薩長進軍のテーマ、とか?(汗)
まぁ、山南さん切腹・平助の闘死の時にかかったあのBGMはきっと入っているんじゃないか、とか、池田屋のBGMは入るだろうね、それから「流山」の女声コーラスも入れないはずがない、と今から期待。
「たのみこむ」にはまだ反映されてないようですね……まぁ、近日中には告知されるでしょう。
で、どこで買おうか迷うのだな。「たのみこむ」に反映されたら、こちらに第2弾をリクエストした関係もあるので、こちらから買うことになると思うのだけど。
ジェネオン 『新選組!! 土方歳三最期の一日』
……うわ〜、同時発売だって(;O;)感涙。
『新選組!』サウンドトラック第1弾に収録されていない曲と『新選組!!』で新たに収録された曲2本を含めての30曲だそうだ……何が収録されて何が漏れたか、気になるなぁ。『新選組!!』からは「希望のワルツ」当確として、後は何だろう……薩長進軍のテーマ、とか?(汗)
まぁ、山南さん切腹・平助の闘死の時にかかったあのBGMはきっと入っているんじゃないか、とか、池田屋のBGMは入るだろうね、それから「流山」の女声コーラスも入れないはずがない、と今から期待。
「たのみこむ」にはまだ反映されてないようですね……まぁ、近日中には告知されるでしょう。
で、どこで買おうか迷うのだな。「たのみこむ」に反映されたら、こちらに第2弾をリクエストした関係もあるので、こちらから買うことになると思うのだけど。
ども、またまた懲りずに講師役を買って出た白牡丹です。
今回は土方さんのコンフリクトを分析すると共に、コンフリクトにどう対処するかという「コンフリクトのマネジメント」についても解説したいと思います。大鳥さん・榎本さんのケース分析よりちょっと長くなりそうですので、お飲み物やお菓子・おつまみをご用意の上(笑)、ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。
その3 土方歳三のケース
まずは、土方さんのコンフリクトを分析してみます。
一番目につくコンフリクトは、大鳥さん・榎本さんのケースでも出てきましたように、「降伏する」という旧幕府軍の方針と「降伏には反対。薩長と戦い続けたい」という土方さんの思いの衝突です。これが今回のドラマの核になっています。
しかし、もう少し土方さんの内面に目を向けてみましょう。土方さんのスタンスは「降伏には反対。薩長と戦い続けたい」なのですが、土方さんの内面はもう少し複雑です。
ちょっとビデオ再生します。降伏の方針を永井様に伝えられた土方さんが激しく反発する場面です。
【土方「俺が何のために今日まで生き続けてきたと思うんですか! すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んで俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは近藤勇を罪人のままでしておくわけにはいかなかったからです! 今薩長に白旗を揚げたら俺は何と言って詫びたらいいんですか!」】
『新選組!!土方歳三最期の一日』の中でも名台詞のひとつに挙げたい言葉ですね(うるうる)。
そして、このこの台詞の中で明らかにされる土方さんのひとつの思いは「近藤勇に対する罪人という汚名を雪ぐ《そそぐ》まで、近藤勇を罪人にした薩長と戦い続ける」という決意です。この決意というか、土方さんが生き続ける唯一のよりどころが「降伏」という榎本さんの方針と相容れないため、土方さんは榎本さんに決定を覆させるために談判に(永井様には「榎本を斬る」と言ってますが^_^;)行くことになります。
この場面における永井様とのやりとりについては、また後ほど、「コンフリクトのマネジメント」のところでもご紹介する予定です。
もう一方の思いは、すでに榎本さんのケース分析でも触れていますが、切腹を覚悟していた榎本さんが他の誰もが気付かなかった土方さんの内面を指摘する場面に出てきます。ここもドラマの名場面のひとつだと思いますので、ビデオで鑑賞しましょう。
【五稜郭・榎本の部屋
土方「俺に百人の兵を預けてくれ。必ず形勢をひっくり返してみせる」
榎本「それは無理だ」
土方「なぜだ」
榎本「なぜだか教えてやろうか……それはな、お前さんには端《はな》から勝つ気なんてまるでねぇからね」
土方「そんなことはない」
榎本「口では強気なことを言っているが、この戦、すでに勝敗が決まっているということを一番よく知っているのは、誰よりも勝ち方を知っている土方さんだ……あんた、死にたいんだろ。一日も早く、戦でさ」】
この場面の前に、土方さんが大鳥さんに「俺ぁてっきり今夜はな、あんたらが死ぬ覚悟で別れの杯を交わしているのかと思っていた。ところが実際はどうだ、降伏を前にしての宴じゃねぇか。手前ら生き延びるつもりで酒食らってたのか。そんなところにのこのこ顔出してみろ、土方歳三末代までの恥になるところだった」とかみつくのを聞いて、榎本さんがふっと微笑む場面がありますね。これは榎本さんが後で言う「君と大鳥は愉快だねぇ、顔を合わせればいつでもいがみ合っている」と面白がっているだけでなくて、すでに土方さんの本心に気付いていて「降伏に反対しに来たな」という微笑みなんですよね……畏るべし、榎本武揚。
……で、土方さんの本心なんですが。再びビデオ再生します。
【榎本「いろいろご託を並べちゃいるが、要は死に場所を求めているだけだ。そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」】
すでに榎本さんのケースでも分析した通り、もうこれ以上味方からひとりも死者は出さないと決意した榎本さんだからこそ、こういう一喝ができるわけですね。
で、五稜郭望楼の場面で土方さんが榎本さんに「……あんたが言う通り、俺は今まで死に場所を探していた」と打ち明けます。榎本さんの指摘は当たっていたわけですが、なぜ土方さんが「一日も早く戦で死にたい」とか「死に場所を探している」という心境になっていたのかはドラマでは明確に触れられていません。
そこをもう少し掘り下げてみましょう。
先にご覧いただいた永井様との場面で「すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んで俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは近藤勇を罪人のままでしておくわけにはいかなかったからです!」と叫んだのも土方さんの本心でしょう。近藤さんの汚名を雪ぐためには薩長と戦い続けるしかない、でなければ近藤さんに合わせる顔がないと思う土方さんが一方にいて、なぜでしょうね。
榎本さんとの会話の場面で考えられるひとつの解釈は、その薩長との戦いも負けが見えている、降伏して生き延びることは近藤さんに合わせる顔がないから戦が続いている内に戦死して侍としての矜持と近藤さんに対する面目を貫きたい、という土方像です……これは、私が続編を見る前に続編に関する情報が入ってきて、土方さんを演じる山本耕史さんが土方から「生きる意思が感じられない」という発言をインタビューで目にした時に見たくないなぁと思っていた土方像なんですが(苦笑)。
ただ、続編を何度か見るうちに、ふっと閃いたことがありました。三谷さん脚本で吉川邦夫さんディレクターのこの続編で、土方さんが第48話「流山」でのエピソードをまったく口にしないんですよね。さらに、土方さんが試衛館時代を回想する場面に、近藤さんの姿がまったく出てこない。
途中までは、「回想場面で近藤さんの姿が出てこないのは近藤さんの中の人のスケジュールの都合だろうな。でも回想場面で近藤さんが出て来なくても、試衛館の仲間たちの目線や表情で近藤さんの存在感は伝わってくるなぁ」と暢気に思っていたわけです。
でも、ふっと閃いたのです。これは、土方さんの回想です(自分の記憶を回想する場面でなぜ土方さんの姿が第三者の目で見えるのか、というツッコミは置いておいて下さいね……苦笑)。回想ですら、土方さんは近藤さんの姿を思い浮かべることを禁じるぐらい、流山で近藤さんに投降するように説得し、結果的には近藤勇を薩長に罪人として処刑させてしまった自分に対して罪の意識を感じているのではないかと。
続編での榎本さんとの会話でも、互いの本音が語り合えるようになって初めて「俺はもうひとりの馬鹿なろまんちを日本一の侍にするために人生を費やした」と、土方さんは漏らします。その「もうひとりの馬鹿なろまんち」である近藤さん自身は、土方さんが新見錦を切腹に追い込んだ時に「俺は多摩に帰る」と言い出したぐらいに出世欲はなかったのを、土方さんは「駄目だ。多摩には返さない」と引き留めるほどに強い思いだったのでした(ずっと後の大阪城の場面でも、俺はかっちゃんを大名にするまでは多摩に帰らないと誓ったんだ、と近藤さんに言ってましたし……)。
幼なじみであり、親友であり、盟友であり、自分が人生を費やすだけに足ると思いこむほど、その真っ直ぐな思いに惚れ込んでいた近藤さん。その近藤さんが流山で自分の身元が薩長側に知られてしまったと知って切腹すると言い出したのを、土方さんは「残った俺たちのため、死んでいったあいつらのためにも、生きてもらわねばならねぇんだよ」と必死で引き留めます。
土方さんにしてみれば、切腹すると言い出した近藤勇を思いとどまらせるための、その場で思いついた必死の理屈だったでしょう。しかし、結果的に、近藤さんは「残った俺たち、死んでいったあいつらのため」に罪人として首をはねられるという死を迎えてしまった。
続編では、土方さんは、そのことについて一切触れていません。しかし、私は臨床心理学や精神病理の方は専門でないので単なる視聴者としての直感ですが、だからこそ続編の土方さんは深いトラウマに陥っているのではないか、自分に近藤さんの姿を思い浮かべることすら禁じるぐらいに深い罪悪感なのではないか、と思うのです。そして、「死に場所のことしか考えていなかった」という心理の裏には、自分の人生を賭けるほどに惚れ込んだ友を死なせてしまった自分を許せない、罰したい、という心理が働いていたのではないかと。
長くなりましたのでまとめてみますと、土方さんの内面でのコンフリクトは、近藤さんの汚名を雪ぐためには生きている限り薩長と戦い続けなければならないという使命感、しかし一方では近藤さんを死なせてしまった自分を許せない、罰したい、罰されなければならないという罪の意識ではないか、というのが私の解釈です。そのふたつの気持ちを解消する方法として、「一日も早く戦場で死にたい」という思いに繋がったのではないかと。
しかし、五稜郭で榎本さんと話し込んでいくうちに、土方さんは近藤勇を亡くして以来失っていた希望、生きる目標を見いだします。榎本さんが諦めてしまった「新しい国」の夢をもう一度取り出し、乾坤一擲の戦いに身を投じることに。そして、彼岸の近藤さんに「近藤さん、悪いがあんたのところに行くのはもう少し先になりそうだな」と語りかけます……土方さんの心の中では、誰かの夢のために尽くす「ろまんち」な思いが蘇ってきて、自分が死なせてしまった近藤さんに対してもう少し待ってくれと猶予を申し出ているのでしょう。ここではまだ近藤さんの姿は出てきませんが、この続編では初めて土方さんが近藤さんに語りかける場面です。
そして、新たな目標を見つけ、乾坤一擲の策が敗れてなお最善を尽くすために函館の新選組を救援に向かう土方さんに、皮肉にも「その時」がやってきます……そして、銃弾に貫かれ、なお戦い続けようとして力尽きて斃れる土方さんは、ようやく自分に、近藤勇が迎えに来る姿を見ることを許したんじゃないか……と、あの場面を見て思うわけです。
合掌……。
……えーと、長くなりましたので、ここで小休止しましょう。小休止した後は、土方さんを中心に、「コンフリクトのマネジメント」について皆さんと考えたいと思います。
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その11
その12
その13
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今回は土方さんのコンフリクトを分析すると共に、コンフリクトにどう対処するかという「コンフリクトのマネジメント」についても解説したいと思います。大鳥さん・榎本さんのケース分析よりちょっと長くなりそうですので、お飲み物やお菓子・おつまみをご用意の上(笑)、ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。
その3 土方歳三のケース
まずは、土方さんのコンフリクトを分析してみます。
一番目につくコンフリクトは、大鳥さん・榎本さんのケースでも出てきましたように、「降伏する」という旧幕府軍の方針と「降伏には反対。薩長と戦い続けたい」という土方さんの思いの衝突です。これが今回のドラマの核になっています。
しかし、もう少し土方さんの内面に目を向けてみましょう。土方さんのスタンスは「降伏には反対。薩長と戦い続けたい」なのですが、土方さんの内面はもう少し複雑です。
ちょっとビデオ再生します。降伏の方針を永井様に伝えられた土方さんが激しく反発する場面です。
【土方「俺が何のために今日まで生き続けてきたと思うんですか! すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んで俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは近藤勇を罪人のままでしておくわけにはいかなかったからです! 今薩長に白旗を揚げたら俺は何と言って詫びたらいいんですか!」】
『新選組!!土方歳三最期の一日』の中でも名台詞のひとつに挙げたい言葉ですね(うるうる)。
そして、このこの台詞の中で明らかにされる土方さんのひとつの思いは「近藤勇に対する罪人という汚名を雪ぐ《そそぐ》まで、近藤勇を罪人にした薩長と戦い続ける」という決意です。この決意というか、土方さんが生き続ける唯一のよりどころが「降伏」という榎本さんの方針と相容れないため、土方さんは榎本さんに決定を覆させるために談判に(永井様には「榎本を斬る」と言ってますが^_^;)行くことになります。
この場面における永井様とのやりとりについては、また後ほど、「コンフリクトのマネジメント」のところでもご紹介する予定です。
もう一方の思いは、すでに榎本さんのケース分析でも触れていますが、切腹を覚悟していた榎本さんが他の誰もが気付かなかった土方さんの内面を指摘する場面に出てきます。ここもドラマの名場面のひとつだと思いますので、ビデオで鑑賞しましょう。
【五稜郭・榎本の部屋
土方「俺に百人の兵を預けてくれ。必ず形勢をひっくり返してみせる」
榎本「それは無理だ」
土方「なぜだ」
榎本「なぜだか教えてやろうか……それはな、お前さんには端《はな》から勝つ気なんてまるでねぇからね」
土方「そんなことはない」
榎本「口では強気なことを言っているが、この戦、すでに勝敗が決まっているということを一番よく知っているのは、誰よりも勝ち方を知っている土方さんだ……あんた、死にたいんだろ。一日も早く、戦でさ」】
この場面の前に、土方さんが大鳥さんに「俺ぁてっきり今夜はな、あんたらが死ぬ覚悟で別れの杯を交わしているのかと思っていた。ところが実際はどうだ、降伏を前にしての宴じゃねぇか。手前ら生き延びるつもりで酒食らってたのか。そんなところにのこのこ顔出してみろ、土方歳三末代までの恥になるところだった」とかみつくのを聞いて、榎本さんがふっと微笑む場面がありますね。これは榎本さんが後で言う「君と大鳥は愉快だねぇ、顔を合わせればいつでもいがみ合っている」と面白がっているだけでなくて、すでに土方さんの本心に気付いていて「降伏に反対しに来たな」という微笑みなんですよね……畏るべし、榎本武揚。
……で、土方さんの本心なんですが。再びビデオ再生します。
【榎本「いろいろご託を並べちゃいるが、要は死に場所を求めているだけだ。そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」】
すでに榎本さんのケースでも分析した通り、もうこれ以上味方からひとりも死者は出さないと決意した榎本さんだからこそ、こういう一喝ができるわけですね。
で、五稜郭望楼の場面で土方さんが榎本さんに「……あんたが言う通り、俺は今まで死に場所を探していた」と打ち明けます。榎本さんの指摘は当たっていたわけですが、なぜ土方さんが「一日も早く戦で死にたい」とか「死に場所を探している」という心境になっていたのかはドラマでは明確に触れられていません。
そこをもう少し掘り下げてみましょう。
先にご覧いただいた永井様との場面で「すべては近藤さんの無念を晴らすため。あの人が死んで俺の人生も終わった、それでも俺が死ななかったのは近藤勇を罪人のままでしておくわけにはいかなかったからです!」と叫んだのも土方さんの本心でしょう。近藤さんの汚名を雪ぐためには薩長と戦い続けるしかない、でなければ近藤さんに合わせる顔がないと思う土方さんが一方にいて、なぜでしょうね。
榎本さんとの会話の場面で考えられるひとつの解釈は、その薩長との戦いも負けが見えている、降伏して生き延びることは近藤さんに合わせる顔がないから戦が続いている内に戦死して侍としての矜持と近藤さんに対する面目を貫きたい、という土方像です……これは、私が続編を見る前に続編に関する情報が入ってきて、土方さんを演じる山本耕史さんが土方から「生きる意思が感じられない」という発言をインタビューで目にした時に見たくないなぁと思っていた土方像なんですが(苦笑)。
ただ、続編を何度か見るうちに、ふっと閃いたことがありました。三谷さん脚本で吉川邦夫さんディレクターのこの続編で、土方さんが第48話「流山」でのエピソードをまったく口にしないんですよね。さらに、土方さんが試衛館時代を回想する場面に、近藤さんの姿がまったく出てこない。
途中までは、「回想場面で近藤さんの姿が出てこないのは近藤さんの中の人のスケジュールの都合だろうな。でも回想場面で近藤さんが出て来なくても、試衛館の仲間たちの目線や表情で近藤さんの存在感は伝わってくるなぁ」と暢気に思っていたわけです。
でも、ふっと閃いたのです。これは、土方さんの回想です(自分の記憶を回想する場面でなぜ土方さんの姿が第三者の目で見えるのか、というツッコミは置いておいて下さいね……苦笑)。回想ですら、土方さんは近藤さんの姿を思い浮かべることを禁じるぐらい、流山で近藤さんに投降するように説得し、結果的には近藤勇を薩長に罪人として処刑させてしまった自分に対して罪の意識を感じているのではないかと。
続編での榎本さんとの会話でも、互いの本音が語り合えるようになって初めて「俺はもうひとりの馬鹿なろまんちを日本一の侍にするために人生を費やした」と、土方さんは漏らします。その「もうひとりの馬鹿なろまんち」である近藤さん自身は、土方さんが新見錦を切腹に追い込んだ時に「俺は多摩に帰る」と言い出したぐらいに出世欲はなかったのを、土方さんは「駄目だ。多摩には返さない」と引き留めるほどに強い思いだったのでした(ずっと後の大阪城の場面でも、俺はかっちゃんを大名にするまでは多摩に帰らないと誓ったんだ、と近藤さんに言ってましたし……)。
幼なじみであり、親友であり、盟友であり、自分が人生を費やすだけに足ると思いこむほど、その真っ直ぐな思いに惚れ込んでいた近藤さん。その近藤さんが流山で自分の身元が薩長側に知られてしまったと知って切腹すると言い出したのを、土方さんは「残った俺たちのため、死んでいったあいつらのためにも、生きてもらわねばならねぇんだよ」と必死で引き留めます。
土方さんにしてみれば、切腹すると言い出した近藤勇を思いとどまらせるための、その場で思いついた必死の理屈だったでしょう。しかし、結果的に、近藤さんは「残った俺たち、死んでいったあいつらのため」に罪人として首をはねられるという死を迎えてしまった。
続編では、土方さんは、そのことについて一切触れていません。しかし、私は臨床心理学や精神病理の方は専門でないので単なる視聴者としての直感ですが、だからこそ続編の土方さんは深いトラウマに陥っているのではないか、自分に近藤さんの姿を思い浮かべることすら禁じるぐらいに深い罪悪感なのではないか、と思うのです。そして、「死に場所のことしか考えていなかった」という心理の裏には、自分の人生を賭けるほどに惚れ込んだ友を死なせてしまった自分を許せない、罰したい、という心理が働いていたのではないかと。
長くなりましたのでまとめてみますと、土方さんの内面でのコンフリクトは、近藤さんの汚名を雪ぐためには生きている限り薩長と戦い続けなければならないという使命感、しかし一方では近藤さんを死なせてしまった自分を許せない、罰したい、罰されなければならないという罪の意識ではないか、というのが私の解釈です。そのふたつの気持ちを解消する方法として、「一日も早く戦場で死にたい」という思いに繋がったのではないかと。
しかし、五稜郭で榎本さんと話し込んでいくうちに、土方さんは近藤勇を亡くして以来失っていた希望、生きる目標を見いだします。榎本さんが諦めてしまった「新しい国」の夢をもう一度取り出し、乾坤一擲の戦いに身を投じることに。そして、彼岸の近藤さんに「近藤さん、悪いがあんたのところに行くのはもう少し先になりそうだな」と語りかけます……土方さんの心の中では、誰かの夢のために尽くす「ろまんち」な思いが蘇ってきて、自分が死なせてしまった近藤さんに対してもう少し待ってくれと猶予を申し出ているのでしょう。ここではまだ近藤さんの姿は出てきませんが、この続編では初めて土方さんが近藤さんに語りかける場面です。
そして、新たな目標を見つけ、乾坤一擲の策が敗れてなお最善を尽くすために函館の新選組を救援に向かう土方さんに、皮肉にも「その時」がやってきます……そして、銃弾に貫かれ、なお戦い続けようとして力尽きて斃れる土方さんは、ようやく自分に、近藤勇が迎えに来る姿を見ることを許したんじゃないか……と、あの場面を見て思うわけです。
合掌……。
……えーと、長くなりましたので、ここで小休止しましょう。小休止した後は、土方さんを中心に、「コンフリクトのマネジメント」について皆さんと考えたいと思います。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
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ども、再び講師でしゃしゃり出た白牡丹です。「『組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント」、今日は榎本武揚のケースです。下戸でなければ、赤ワインを片手に聴いていただきたいところです……お供はチーズのサンドウィッチで。下戸の方は、もちろん、お茶でもコーヒーでもお好きな飲み物片手にどうぞ。
その2 榎本武揚のケース
『組!!』の榎本さんは、内心のコンフリクト、すなわち葛藤をいったん克服した人物として登場します。
コンフリクトの一方の極には、榎本さんの理想や夢があります。すなわち、薩長を中心とする新政府軍のあり方に対しての憤り、自分ならば違う形で新しい「素晴らしい国」を興して見せられるという気概、そしてその「素晴らしい国」の豊かさの源として農業や牧畜や鉱業を発展させ、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくり日本人の食卓に届けるという夢です。
もう一方の極には、現実があります。旧徳川軍を束ねて蝦夷地に渡ったまではよいが、悪天候によって海軍の主力を失い、物量ともに勝る新政府軍に攻め込まれて圧倒的に不利になり、敗戦を間近に控えているという現実。そして、全滅を免れてはいるものの、決戦まで引き延ばせば今後の日本にとって有為な人材を失うことになるだろうという見通し。
この内心の葛藤を克服する過程で榎本さんが選択したのは、降伏という方針、そして自分の夢に力を貸してくれた人たちを「ひとりとして死なせはしない」という決意、その命乞いの為に切腹するという覚悟です。
最初の登場場面で丹念に髭を手入れする場面で大鳥さんに「私は徳川軍を率いる男だよ。兵士の前にみっともない姿を曝せると思うかい」と言うところがありますが、この言葉も、翌日には降伏して部下たちの命と引き換えに切腹する覚悟をしていると知らないで見ると単なる西洋かぶれの洒落者にしか見えませんね……でも、その覚悟を知ってから改めて遡って見ると、だからこそ部下たちにみすぼらしい姿を見せたくないと自分を演出しようとしているようにも見えますが、皆さんにはどう見えたでしょう?
榎本さんの降伏・切腹という決意は、降伏の意思を覆せと土方さんが五稜郭に乗り込んでも、最初は揺るぎませんでしたね。刀を突きつけられても「斬りたきゃ斬るがいいさ」と動じません。むしろ、「そう来たか」とディスカッションを楽しんでいる余裕すら伺えます。さらに、切腹を覚悟している人間の持てる洞察力の鋭さでしょうか、「お前さんには勝つ気なんか端からねぇからね」「あんた、死にたいんだろ、一日でも早く、戦でさ……」と土方さんの強硬な態度の裏にある内心の願望まで見抜いています。さらに「そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」と一喝し、逆に土方さんを「だったら俺はどうすればいいんだ!」と動揺させます。
土方さんが動揺して本心を見せたのと軌を一にして、榎本さんも自分の胸襟を開き始めます。ワインやサンドウィッチを勧める榎本さんに、土方さんも自分の本音を語り出します。「あんたという人がわからない」「だからこそ俺は榎本武揚に賭けた」「俺ははっきり言ってあんたに失望した」「一時でもあんたに近藤勇を重ねた自分が恥ずかしい」と。
……でもねぇ、もし自分が榎本さんの立場だったら、信頼している有能な部下である土方さんに、いくら本音で語ってもらうのが嬉しいとは言え、ここまで言われたら普通は落ち込むと思うんですよ(苦笑)。私だったら、三日は寝込んでしまうぐらい落ち込みます、確実に。そういう状況で「当たり前だ。俺は榎本武揚だ」と開き直れるのは、自分の能力に自信があって、なおかつ、切腹を覚悟して新政府軍と決着をつけると腹をくくっている榎本さんだから言える言葉だなぁと、つくづく思いますね……(汗)。
そして、榎本さんは「あの時私は本気だった」「蝦夷地に新しい国を」と、さらに胸襟を開いて、自分が内心の葛藤(コンフリクト)の末に諦めた夢を語り出します。新しい国づくりの壮大な構想とともに、何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくるという個人的な夢も。
この辺りが、三谷さん脚本でうまいなぁと感心するところです。「コンフリクトのマネジメント」編が終わったら「リーダーシップ」編で詳しく語ろうと思っているのですが(と、さりげなく次回の構想を宣伝^_^;)、リーダーには大きなビジョンなり高い理想なりを示すことも大事なのですが、そのビジョンの中で自分がどういう仕事をしているかというところも大事なのですよ。ここで、榎本さんが「新しい国」の中で権力を手にする自分ではなく何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくっている自分を語ることで、壮大な理想、遠大な夢がある一方で、権力には余り野心がない榎本さんの素朴さが見て取れます……だからこそ土方さんも「……あんた、馬鹿だ」とくさしつつ、内心では惚れ直すわけです(笑)。
……そして、いったんは内心の葛藤を克服したと思っていた榎本さんが、再び揺らぎます。そのひとつには、降伏を宣言した相手の部下たちが「我々はまだまだ戦えます! なんで薩長の奴らに降伏しなきゃならないんですか」「総裁! 最後まで戦いましょう!」とすがりついて来たことです。もうひとつには、土方さんが「降伏はするな」「ようやく気付いたよ。俺は死に場所のことしか考えてなかった。そしてあんたの頭の中には降伏のことしかなかった。俺たちは大事なことを忘れていたようだ」「あきらめない、ってことだ」「俺たちは、これから生きるために戦うんだ」と、自分の心の底から榎本さんの夢をもう一度復活させようとして説得したことにあります。
さらに、土方さんが乾坤一擲の策として「桶狭間戦法」を提案した時には、すでに榎本さんはいったん選んだ降伏という選択を捨てて起死回生の土方さんの策に賭けることを決意していたのでした……その顛末は、ドラマをご覧になっている方には自明なのですが(しくしく)。
……さて、今日の榎本さん編はいかがでしたか? できれば、前回よりも居眠りしている人が少ないといいんですがねぇ……(どきどき)。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3 本稿
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その2 榎本武揚のケース
『組!!』の榎本さんは、内心のコンフリクト、すなわち葛藤をいったん克服した人物として登場します。
コンフリクトの一方の極には、榎本さんの理想や夢があります。すなわち、薩長を中心とする新政府軍のあり方に対しての憤り、自分ならば違う形で新しい「素晴らしい国」を興して見せられるという気概、そしてその「素晴らしい国」の豊かさの源として農業や牧畜や鉱業を発展させ、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくり日本人の食卓に届けるという夢です。
もう一方の極には、現実があります。旧徳川軍を束ねて蝦夷地に渡ったまではよいが、悪天候によって海軍の主力を失い、物量ともに勝る新政府軍に攻め込まれて圧倒的に不利になり、敗戦を間近に控えているという現実。そして、全滅を免れてはいるものの、決戦まで引き延ばせば今後の日本にとって有為な人材を失うことになるだろうという見通し。
この内心の葛藤を克服する過程で榎本さんが選択したのは、降伏という方針、そして自分の夢に力を貸してくれた人たちを「ひとりとして死なせはしない」という決意、その命乞いの為に切腹するという覚悟です。
最初の登場場面で丹念に髭を手入れする場面で大鳥さんに「私は徳川軍を率いる男だよ。兵士の前にみっともない姿を曝せると思うかい」と言うところがありますが、この言葉も、翌日には降伏して部下たちの命と引き換えに切腹する覚悟をしていると知らないで見ると単なる西洋かぶれの洒落者にしか見えませんね……でも、その覚悟を知ってから改めて遡って見ると、だからこそ部下たちにみすぼらしい姿を見せたくないと自分を演出しようとしているようにも見えますが、皆さんにはどう見えたでしょう?
榎本さんの降伏・切腹という決意は、降伏の意思を覆せと土方さんが五稜郭に乗り込んでも、最初は揺るぎませんでしたね。刀を突きつけられても「斬りたきゃ斬るがいいさ」と動じません。むしろ、「そう来たか」とディスカッションを楽しんでいる余裕すら伺えます。さらに、切腹を覚悟している人間の持てる洞察力の鋭さでしょうか、「お前さんには勝つ気なんか端からねぇからね」「あんた、死にたいんだろ、一日でも早く、戦でさ……」と土方さんの強硬な態度の裏にある内心の願望まで見抜いています。さらに「そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」と一喝し、逆に土方さんを「だったら俺はどうすればいいんだ!」と動揺させます。
土方さんが動揺して本心を見せたのと軌を一にして、榎本さんも自分の胸襟を開き始めます。ワインやサンドウィッチを勧める榎本さんに、土方さんも自分の本音を語り出します。「あんたという人がわからない」「だからこそ俺は榎本武揚に賭けた」「俺ははっきり言ってあんたに失望した」「一時でもあんたに近藤勇を重ねた自分が恥ずかしい」と。
……でもねぇ、もし自分が榎本さんの立場だったら、信頼している有能な部下である土方さんに、いくら本音で語ってもらうのが嬉しいとは言え、ここまで言われたら普通は落ち込むと思うんですよ(苦笑)。私だったら、三日は寝込んでしまうぐらい落ち込みます、確実に。そういう状況で「当たり前だ。俺は榎本武揚だ」と開き直れるのは、自分の能力に自信があって、なおかつ、切腹を覚悟して新政府軍と決着をつけると腹をくくっている榎本さんだから言える言葉だなぁと、つくづく思いますね……(汗)。
そして、榎本さんは「あの時私は本気だった」「蝦夷地に新しい国を」と、さらに胸襟を開いて、自分が内心の葛藤(コンフリクト)の末に諦めた夢を語り出します。新しい国づくりの壮大な構想とともに、何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくるという個人的な夢も。
この辺りが、三谷さん脚本でうまいなぁと感心するところです。「コンフリクトのマネジメント」編が終わったら「リーダーシップ」編で詳しく語ろうと思っているのですが(と、さりげなく次回の構想を宣伝^_^;)、リーダーには大きなビジョンなり高い理想なりを示すことも大事なのですが、そのビジョンの中で自分がどういう仕事をしているかというところも大事なのですよ。ここで、榎本さんが「新しい国」の中で権力を手にする自分ではなく何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくっている自分を語ることで、壮大な理想、遠大な夢がある一方で、権力には余り野心がない榎本さんの素朴さが見て取れます……だからこそ土方さんも「……あんた、馬鹿だ」とくさしつつ、内心では惚れ直すわけです(笑)。
……そして、いったんは内心の葛藤を克服したと思っていた榎本さんが、再び揺らぎます。そのひとつには、降伏を宣言した相手の部下たちが「我々はまだまだ戦えます! なんで薩長の奴らに降伏しなきゃならないんですか」「総裁! 最後まで戦いましょう!」とすがりついて来たことです。もうひとつには、土方さんが「降伏はするな」「ようやく気付いたよ。俺は死に場所のことしか考えてなかった。そしてあんたの頭の中には降伏のことしかなかった。俺たちは大事なことを忘れていたようだ」「あきらめない、ってことだ」「俺たちは、これから生きるために戦うんだ」と、自分の心の底から榎本さんの夢をもう一度復活させようとして説得したことにあります。
さらに、土方さんが乾坤一擲の策として「桶狭間戦法」を提案した時には、すでに榎本さんはいったん選んだ降伏という選択を捨てて起死回生の土方さんの策に賭けることを決意していたのでした……その顛末は、ドラマをご覧になっている方には自明なのですが(しくしく)。
……さて、今日の榎本さん編はいかがでしたか? できれば、前回よりも居眠りしている人が少ないといいんですがねぇ……(どきどき)。
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『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3 本稿
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その1 大鳥圭介のケース
……まぁ、脱線に脱線を重ねて今頃やっと本論じゃ、居眠りしたくなっちゃう人もいますわな(しくしく)。では、眠気醒ましを兼ねて、ここで正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』の一部を録画再生して、観ていただくことにしましょう。
コンフリクトのケースとして最初に選んだのは、大鳥圭介です。このドラマでは、箱館奉行所に立てこもる旧幕府軍の幹部のひとり、陸軍奉行という立場にあります。
え、なぜ、主人公の土方歳三や、土方さんと議論する榎本武揚を選ばなかったのか? それは、このふたりについては追々取り上げて行きたいからでして(苦笑)。
今回は、大鳥さんを題材にして、まず、彼のコンフリクトは何から生じているのかということを分析してみましょう。
では、ちょっと録画を再生します。
【五稜郭会議室の場面。
土方「降伏するのが陸軍奉行の仕事か。負けてもいないのになぜ降伏する」
大鳥「全滅を避けるためだ」】
大鳥さんの第一のコンフリクトは、土方さんと旧幕府軍の降伏を巡る意見の対立です。大鳥さんは、旧幕府軍を束ねる総裁・榎本さんの副官的立場(このドラマの設定では、ということですが……)で、榎本さんの方針に従って降伏を推進する立場にあります。そして、降伏に反対する土方さんと対立します。
あ、大鳥さんの本心がどこにあるかは第二のコンフリクトで取り扱いますので一旦は流します。ここでは、土方さんとの対立を中心に見ていきましょう。
土方さんとのコンフリクトは、単に降伏を巡る意見の対立だけではありません。このドラマでは既に描かれたように、総裁の榎本さんが全軍の幹部に降伏を告げる最後の宴会に現れない土方さんに対して大鳥さんは「ああっ、またあの男か」と苛立ちを隠していませんし、土方さんが京都で新選組を率いていた時に乱暴狼藉を働いてきたではないかと批判的です。その批判に対しては、京都で新選組と接触があった旧幕府高官・永井さんに事実関係を指摘され窘められて、それ以上は言いませんでしたが。
同じ軍を率いる陸軍奉行と陸軍奉行並という、一応、上官・副官という位置づけ(しつこいですが、このドラマでは、という限定付きで)ですが、戦局の見方にも違いがあります。大鳥さんは、降伏を推進する榎本さんの方針を守りつつも、この後の会話で「降伏は申し入れるが、薩長の出方次第では私は再び奴らと戦うつもりでいる」と、ぼろっと本音を漏らしますが、土方さんには「甘い!」と一蹴された上に「学者さん、もっと人の心を読めよ」と大鳥さんの楽観的な籠城策を粉砕されてしまいます。その背景には、土方さんの方が戦局を悲観的に読んでいるということがありますね。
もうひとつ、戦闘の局面での得意なパターンの違いが読み取れます。この場面で土方さんが大鳥さんの指示を「俺たちが薩長軍を蹴散らしている時に、退却を命じたのは誰だ!」と食ってかかりますし、後の場面では大鳥さんが「守りの固めは俺の専門だ」と言うように、大鳥さんは味方の損傷をなるべく少なくして退却したり守りを固めたりするのが得意なんですね。一方、土方さんは、この場面で後世に言うゲリラ戦を主張したり、後の場面で「桶狭間戦法」を起案したりするように、寡兵で乾坤一擲の攻撃を仕掛けて相対的な不利をひっくり返すのが得意。お互いの得意技を認め合って協力できればいいんですが……榎本さんに「大鳥は、君がいつも自分には思いもよらない戦をして、そして勝ちを収めているんでやっかんでるんだよ。あれも根っからの戦好きなんでね」と評されるのが公正な意見かどうかは別として(汗)、戦術のエキスパートである「学者さん」にとって、土方さんが自分の知っている戦法の定石を外した戦い方で勝つのを見るのは、面白くないでしょうね(苦笑)。
気が合わないというのは英語でも「ケミストリーが合わない」という表現があります。「There's no chemistry between that guy and me. あいつとは肌が合わない」……みたいに。戦闘の現場で自分の感覚を重視する土方さん、後方で作戦を練る方が合っている大鳥さん。寡兵で乾坤一擲の勝負に出るのが得意で大鳥さんに「ただの戦好きとは違うのだ」と言われてしまう土方さん、できるだけ損傷を少なくして守りを固めるのが得意で土方さんに「学者さん」と言われてしまう大鳥さん。お互いの長所を認め合ったら榎本さんが言う「日本最強の軍隊」になれたかどうかは……わかりませんが(汗)、互いの弱みを補い合える組み合わせですよね。なかなか、そういかないのが「気が合わない」という感覚が先に立ってしまうからなんですが。
そして、土方さんの降伏反対論と一応は対立してますが、大鳥さんには第二のコンフリクトがあります。総裁である榎本さんの降伏路線を進める立場でありながら、本心では薩長と戦い続けて「勝ちたい」と思っている、立場と内心との対立ですね。
土方さんの「小さな戦を何度も仕掛けるんだ」というゲリラ戦の案を最初は嘲笑していましたが、土方さんが「全滅はさせねぇ。俺が約束する」と強気で出ると、その案の是非について論じるのを放棄して「私はここでは陸軍奉行だ。指示に従ってもらおう」とポジションパワーで押さえつけようとします。うがちすぎかも知れませんが、土方さんの策に内心では魅力を感じつつも、榎本総裁の方針を徹底しなければならないという立場ゆえに内心のコンフリクトを押しつぶしたように見えましたね……白牡丹的には(苦笑)。
さて、大鳥さんの二重のコンフリクトがどう解消されたかは、榎本さんのコンフリクト分析の後、土方さんのコンフリクト分析の時にコンフリクトの対処や解消の方法論を語る時に、一緒に語ろうと思います。
ということで、今日はこの辺で……って、おーい、安眠されてらっさる方が多いような気がするんですが(滝汗)。
☆★☆★
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その1
その2 本稿
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その13
その14
……まぁ、脱線に脱線を重ねて今頃やっと本論じゃ、居眠りしたくなっちゃう人もいますわな(しくしく)。では、眠気醒ましを兼ねて、ここで正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』の一部を録画再生して、観ていただくことにしましょう。
コンフリクトのケースとして最初に選んだのは、大鳥圭介です。このドラマでは、箱館奉行所に立てこもる旧幕府軍の幹部のひとり、陸軍奉行という立場にあります。
え、なぜ、主人公の土方歳三や、土方さんと議論する榎本武揚を選ばなかったのか? それは、このふたりについては追々取り上げて行きたいからでして(苦笑)。
今回は、大鳥さんを題材にして、まず、彼のコンフリクトは何から生じているのかということを分析してみましょう。
では、ちょっと録画を再生します。
【五稜郭会議室の場面。
土方「降伏するのが陸軍奉行の仕事か。負けてもいないのになぜ降伏する」
大鳥「全滅を避けるためだ」】
大鳥さんの第一のコンフリクトは、土方さんと旧幕府軍の降伏を巡る意見の対立です。大鳥さんは、旧幕府軍を束ねる総裁・榎本さんの副官的立場(このドラマの設定では、ということですが……)で、榎本さんの方針に従って降伏を推進する立場にあります。そして、降伏に反対する土方さんと対立します。
あ、大鳥さんの本心がどこにあるかは第二のコンフリクトで取り扱いますので一旦は流します。ここでは、土方さんとの対立を中心に見ていきましょう。
土方さんとのコンフリクトは、単に降伏を巡る意見の対立だけではありません。このドラマでは既に描かれたように、総裁の榎本さんが全軍の幹部に降伏を告げる最後の宴会に現れない土方さんに対して大鳥さんは「ああっ、またあの男か」と苛立ちを隠していませんし、土方さんが京都で新選組を率いていた時に乱暴狼藉を働いてきたではないかと批判的です。その批判に対しては、京都で新選組と接触があった旧幕府高官・永井さんに事実関係を指摘され窘められて、それ以上は言いませんでしたが。
同じ軍を率いる陸軍奉行と陸軍奉行並という、一応、上官・副官という位置づけ(しつこいですが、このドラマでは、という限定付きで)ですが、戦局の見方にも違いがあります。大鳥さんは、降伏を推進する榎本さんの方針を守りつつも、この後の会話で「降伏は申し入れるが、薩長の出方次第では私は再び奴らと戦うつもりでいる」と、ぼろっと本音を漏らしますが、土方さんには「甘い!」と一蹴された上に「学者さん、もっと人の心を読めよ」と大鳥さんの楽観的な籠城策を粉砕されてしまいます。その背景には、土方さんの方が戦局を悲観的に読んでいるということがありますね。
もうひとつ、戦闘の局面での得意なパターンの違いが読み取れます。この場面で土方さんが大鳥さんの指示を「俺たちが薩長軍を蹴散らしている時に、退却を命じたのは誰だ!」と食ってかかりますし、後の場面では大鳥さんが「守りの固めは俺の専門だ」と言うように、大鳥さんは味方の損傷をなるべく少なくして退却したり守りを固めたりするのが得意なんですね。一方、土方さんは、この場面で後世に言うゲリラ戦を主張したり、後の場面で「桶狭間戦法」を起案したりするように、寡兵で乾坤一擲の攻撃を仕掛けて相対的な不利をひっくり返すのが得意。お互いの得意技を認め合って協力できればいいんですが……榎本さんに「大鳥は、君がいつも自分には思いもよらない戦をして、そして勝ちを収めているんでやっかんでるんだよ。あれも根っからの戦好きなんでね」と評されるのが公正な意見かどうかは別として(汗)、戦術のエキスパートである「学者さん」にとって、土方さんが自分の知っている戦法の定石を外した戦い方で勝つのを見るのは、面白くないでしょうね(苦笑)。
気が合わないというのは英語でも「ケミストリーが合わない」という表現があります。「There's no chemistry between that guy and me. あいつとは肌が合わない」……みたいに。戦闘の現場で自分の感覚を重視する土方さん、後方で作戦を練る方が合っている大鳥さん。寡兵で乾坤一擲の勝負に出るのが得意で大鳥さんに「ただの戦好きとは違うのだ」と言われてしまう土方さん、できるだけ損傷を少なくして守りを固めるのが得意で土方さんに「学者さん」と言われてしまう大鳥さん。お互いの長所を認め合ったら榎本さんが言う「日本最強の軍隊」になれたかどうかは……わかりませんが(汗)、互いの弱みを補い合える組み合わせですよね。なかなか、そういかないのが「気が合わない」という感覚が先に立ってしまうからなんですが。
そして、土方さんの降伏反対論と一応は対立してますが、大鳥さんには第二のコンフリクトがあります。総裁である榎本さんの降伏路線を進める立場でありながら、本心では薩長と戦い続けて「勝ちたい」と思っている、立場と内心との対立ですね。
土方さんの「小さな戦を何度も仕掛けるんだ」というゲリラ戦の案を最初は嘲笑していましたが、土方さんが「全滅はさせねぇ。俺が約束する」と強気で出ると、その案の是非について論じるのを放棄して「私はここでは陸軍奉行だ。指示に従ってもらおう」とポジションパワーで押さえつけようとします。うがちすぎかも知れませんが、土方さんの策に内心では魅力を感じつつも、榎本総裁の方針を徹底しなければならないという立場ゆえに内心のコンフリクトを押しつぶしたように見えましたね……白牡丹的には(苦笑)。
さて、大鳥さんの二重のコンフリクトがどう解消されたかは、榎本さんのコンフリクト分析の後、土方さんのコンフリクト分析の時にコンフリクトの対処や解消の方法論を語る時に、一緒に語ろうと思います。
ということで、今日はこの辺で……って、おーい、安眠されてらっさる方が多いような気がするんですが(滝汗)。
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その1
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その6
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その10
その11
その12
その13
その14
ご挨拶
ども、遅くなりました(汗)。よせばいいのに講師役を買って出た白牡丹です、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m。
「『新選組!!』で学ぶ組織心理学」なんて大層な題をつけてしまいましたが、高い壇上から振りかぶって論じるのは性に合わないので、まぁお気楽にしてください。アメリカの大学では「ブラウンバッグレクチャー」と言って、昼休みに弁当持ち込み可で講師を招いて話を聴くという企画がよくありました。茶色の紙袋の中にはベーグルとかサンドイッチ、それにスタバのコーヒーというところですね、そんなノリで聴いていただければ。黒ゴマ煎餅にお茶を用意していただくもよし、チーズサンドウィッチに赤ワインなんて方も大歓迎です(笑)。
三谷幸喜さん脚本のドラマや映画や舞台を全部見ているというわけではありませんが、「組織と人のマネジメント」を専門にしている私には三谷さんの描く群像劇に引き込まれてしまうことがよくあります。『王様のレストラン』しかり、『12人の優しい日本人』しかり。『新選組!』も『新選組!!』も、ドラマそのものを視聴者として楽しむと同時に、組織論や組織の中にいる人の心理や言動について考えてしまう場面がいくつもありました。
こんなお話をしてみようと思いましたのも、前例があります。9年前に三谷さん脚本のドラマ『王様のレストラン』を題材に『「王様のレストラン」の経営学入門』という本を甲南大学経営学助教授(現・大阪市立大学大学院経営学研究科助教授)の川村尚也さんが書かれてまして、本は残念なことに絶版になってしまっているんですが、私はこの本が大好きでして。面白いドラマを見ながら、同時にリーダーシップや成長するチームづくりの方法も学べてしまうというお得な趣向です。川村助教授のようにはとてもいきませんが、私も同じ三谷さん脚本の『新選組!! 土方歳三最期の一日』を題材に、ちょっと真似事をしてみたくなったのです。まぁ素人の試みですから、行き届かない点は多々あると思いますが、その点はご意見いただくとして、まずは冒険させてみてください。
今回、「組織心理学」という言葉を使いました。これが一番わかりやすかろうと思ったのですが、経営学のひとつの領域です。古くは「産業心理学」と呼ばれてました。最近はorganizational behaviorを直訳して「組織行動学」とも呼ばれてますが、ちょっとわかりにくいですね。「組織における人の行動」に関する研究ということです。組織の中における人のモチベーション、チームやグループにおける人間関係や生産性、リーダーシップ、組織の文化や企業風土、変革のマネジメント、企業や組織におけるジェンダーの問題やメンタルマネジメント、異文化間コミュニケーションなどテーマは幅広く雑多です。組織における人の心理や言動行動に関するテーマであれば何でもアリというところ、また、いろいろな分析モデルはありますがどんな場合にでも通用する公式があるわけでもないという捉えどころのないところが面白くもあり、また難しくもありますね。
え、蘊蓄はもういい? ……失礼しました(滝汗)。それでは、本日の主題である「コンフリクトのマネジメント」という言葉についての解説に移らせていただきます(苦笑)。
「コンフリクト」とは
「コンフリクト」という言葉を聞いたことのある方は何人ぐらいいらっしゃいますか? ……ひぃふぅみぃ、と、あまり多くないですね。ぴったりした訳語がないので、英語をそのまま片仮名で持ってきました。IT用語だと「リソースのコンフリクトが起こって……」などと使われているようですね。平たく言うと「ふたつ、またはそれ以上の複数のものがお互いに相容れない状態」がコンフリクトです。
組織心理学の「コンフリクト」という言葉を日本語にすると、近いのは「対立」「葛藤」です。利害が合わない、意見が合わない、気が合わない、全部「コンフリクト」です。ただ、利害が合わない状態でも調整によって解消可能なケースは「コンフリクト」が強い状態とは言いません。
利害がぶつかる上に感情が絡まってしまっているようなケースが典型的な「コンフリクト」です……まず利害と感情が二者の間で対立するケース。たとえば、少し古い話になりますが、ライブドアがフジテレビを買収しようとした時のフジテレビ幹部の反応の中には、単に買収を仕掛けられたという危機感だけではなく、Tシャツで記者会見をするような30代のトッぽい(死語ですが^_^;)兄ちゃんが伝統ある我が社の最大株主になるなど論外、なんて反応が見られたと思います。たとえばで例として出したまでですが、ああいう感情的な反発を含む対立状態が典型的なコンフリクトですね。
コンフリクトは人対人の状態だけを指すのではなく、人の内面でも起こります。これも例を出しますが、「おいしいものをお腹いっぱい食べたい」という気持ちと「痩せたい」という気持ちが心の中で対立する状態……私なんぞにはよく起こるんですが(苦笑)、皆さんにもありませんか? これも、ひとりの人間の中で起こるコンフリクトです。心理学では「ジレンマ」という表現も使われますね。人の内面で起こるコンフリクトには、たとえば「チョコレートケーキもいいけど、ショートケーキも捨てがたい。あぁ、だけどフルーツパイも魅力的だわ……」といった好ましい選択肢の間で迷うケースと、「働かずに暮らせればいいけど、暮らすには金は必要だし」といった望ましくない選択肢の間で迷うケースのふたつがあります。
さらに、組織の中でよく起きるコンフリクトのみっつめのパターンが、環境や状況が人の希望や欲求や価値観に沿わないという状態です。これは仮の例ということで例を示しますが、たとえば某建設会社の営業マンが自分の売っているマンションが耐震強度計算を偽装していると知っていたとして、お客さんにそれを隠して売らねばならなかったとしたら……そして、それが建築基準法にも自分の倫理基準にも合わないと認識していて悩んでいるとしたら……それもコンフリクトです。耐震強度設計偽装事件でそういう立場にある営業マンがいたかどうかわかりませんが、もし道理とか自分の価値基準に合わないことを強いられていると悩んだケースがあったとしたらそうだと言えます。もちろん、「自分は会社に命じられて売るのが仕事だ」と割り切っているケースは、コンフリクトとはいえませんが。
社会正義や倫理観と葛藤するような大きなケースはともかく、もっと小さなケースは皆さんにも日常的に経験があると思います。たとえば、上司が嫌なヤツで、今日もムッとするようなことを言われた、「そういう言い方は止めて下さい」って言いたいんだけど、上司と言い合いになるのが面倒臭いから言わなかったとか、怖くて言えないとか……そういうこと、皆さんにもありませんか? これもコンフリクトのケースです。
……えーと、また脱線しちゃいましたね(苦笑)。「コンフリクト」の解説はこれで終わりです。「コンフリクトのマネジメント」と言葉を足しているのは、そういうコンフリクトにどう対処するのがいいのか、いろいろな状況に照らして考えてみようかということです。望ましくない例ばかり出しましたが、コンフリクトがすべて悪いってわけではありません。意見の違いは、時には新たな発想や素晴らしい解決策を産むこともあります。コンフリクト自体をなくすことはできなくても、その状況と折り合う方法もあります。それに、コンフリクトがどうやって生じるかを知っていれば、話し合う相手の感情を逆撫ですることなく、話し合って円満に解決するということもできることがあるかも知れませんし。
で、コンフリクトとその対処を、正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』を題材に考えてみよう、というのが今日のレクチャーです……って、やっと本論に辿り着いたら、何人か寝ちゃってませんか……おーい(涙)。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
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その4
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その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
ども、遅くなりました(汗)。よせばいいのに講師役を買って出た白牡丹です、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m。
「『新選組!!』で学ぶ組織心理学」なんて大層な題をつけてしまいましたが、高い壇上から振りかぶって論じるのは性に合わないので、まぁお気楽にしてください。アメリカの大学では「ブラウンバッグレクチャー」と言って、昼休みに弁当持ち込み可で講師を招いて話を聴くという企画がよくありました。茶色の紙袋の中にはベーグルとかサンドイッチ、それにスタバのコーヒーというところですね、そんなノリで聴いていただければ。黒ゴマ煎餅にお茶を用意していただくもよし、チーズサンドウィッチに赤ワインなんて方も大歓迎です(笑)。
三谷幸喜さん脚本のドラマや映画や舞台を全部見ているというわけではありませんが、「組織と人のマネジメント」を専門にしている私には三谷さんの描く群像劇に引き込まれてしまうことがよくあります。『王様のレストラン』しかり、『12人の優しい日本人』しかり。『新選組!』も『新選組!!』も、ドラマそのものを視聴者として楽しむと同時に、組織論や組織の中にいる人の心理や言動について考えてしまう場面がいくつもありました。
こんなお話をしてみようと思いましたのも、前例があります。9年前に三谷さん脚本のドラマ『王様のレストラン』を題材に『「王様のレストラン」の経営学入門』という本を甲南大学経営学助教授(現・大阪市立大学大学院経営学研究科助教授)の川村尚也さんが書かれてまして、本は残念なことに絶版になってしまっているんですが、私はこの本が大好きでして。面白いドラマを見ながら、同時にリーダーシップや成長するチームづくりの方法も学べてしまうというお得な趣向です。川村助教授のようにはとてもいきませんが、私も同じ三谷さん脚本の『新選組!! 土方歳三最期の一日』を題材に、ちょっと真似事をしてみたくなったのです。まぁ素人の試みですから、行き届かない点は多々あると思いますが、その点はご意見いただくとして、まずは冒険させてみてください。
今回、「組織心理学」という言葉を使いました。これが一番わかりやすかろうと思ったのですが、経営学のひとつの領域です。古くは「産業心理学」と呼ばれてました。最近はorganizational behaviorを直訳して「組織行動学」とも呼ばれてますが、ちょっとわかりにくいですね。「組織における人の行動」に関する研究ということです。組織の中における人のモチベーション、チームやグループにおける人間関係や生産性、リーダーシップ、組織の文化や企業風土、変革のマネジメント、企業や組織におけるジェンダーの問題やメンタルマネジメント、異文化間コミュニケーションなどテーマは幅広く雑多です。組織における人の心理や言動行動に関するテーマであれば何でもアリというところ、また、いろいろな分析モデルはありますがどんな場合にでも通用する公式があるわけでもないという捉えどころのないところが面白くもあり、また難しくもありますね。
え、蘊蓄はもういい? ……失礼しました(滝汗)。それでは、本日の主題である「コンフリクトのマネジメント」という言葉についての解説に移らせていただきます(苦笑)。
「コンフリクト」とは
「コンフリクト」という言葉を聞いたことのある方は何人ぐらいいらっしゃいますか? ……ひぃふぅみぃ、と、あまり多くないですね。ぴったりした訳語がないので、英語をそのまま片仮名で持ってきました。IT用語だと「リソースのコンフリクトが起こって……」などと使われているようですね。平たく言うと「ふたつ、またはそれ以上の複数のものがお互いに相容れない状態」がコンフリクトです。
組織心理学の「コンフリクト」という言葉を日本語にすると、近いのは「対立」「葛藤」です。利害が合わない、意見が合わない、気が合わない、全部「コンフリクト」です。ただ、利害が合わない状態でも調整によって解消可能なケースは「コンフリクト」が強い状態とは言いません。
利害がぶつかる上に感情が絡まってしまっているようなケースが典型的な「コンフリクト」です……まず利害と感情が二者の間で対立するケース。たとえば、少し古い話になりますが、ライブドアがフジテレビを買収しようとした時のフジテレビ幹部の反応の中には、単に買収を仕掛けられたという危機感だけではなく、Tシャツで記者会見をするような30代のトッぽい(死語ですが^_^;)兄ちゃんが伝統ある我が社の最大株主になるなど論外、なんて反応が見られたと思います。たとえばで例として出したまでですが、ああいう感情的な反発を含む対立状態が典型的なコンフリクトですね。
コンフリクトは人対人の状態だけを指すのではなく、人の内面でも起こります。これも例を出しますが、「おいしいものをお腹いっぱい食べたい」という気持ちと「痩せたい」という気持ちが心の中で対立する状態……私なんぞにはよく起こるんですが(苦笑)、皆さんにもありませんか? これも、ひとりの人間の中で起こるコンフリクトです。心理学では「ジレンマ」という表現も使われますね。人の内面で起こるコンフリクトには、たとえば「チョコレートケーキもいいけど、ショートケーキも捨てがたい。あぁ、だけどフルーツパイも魅力的だわ……」といった好ましい選択肢の間で迷うケースと、「働かずに暮らせればいいけど、暮らすには金は必要だし」といった望ましくない選択肢の間で迷うケースのふたつがあります。
さらに、組織の中でよく起きるコンフリクトのみっつめのパターンが、環境や状況が人の希望や欲求や価値観に沿わないという状態です。これは仮の例ということで例を示しますが、たとえば某建設会社の営業マンが自分の売っているマンションが耐震強度計算を偽装していると知っていたとして、お客さんにそれを隠して売らねばならなかったとしたら……そして、それが建築基準法にも自分の倫理基準にも合わないと認識していて悩んでいるとしたら……それもコンフリクトです。耐震強度設計偽装事件でそういう立場にある営業マンがいたかどうかわかりませんが、もし道理とか自分の価値基準に合わないことを強いられていると悩んだケースがあったとしたらそうだと言えます。もちろん、「自分は会社に命じられて売るのが仕事だ」と割り切っているケースは、コンフリクトとはいえませんが。
社会正義や倫理観と葛藤するような大きなケースはともかく、もっと小さなケースは皆さんにも日常的に経験があると思います。たとえば、上司が嫌なヤツで、今日もムッとするようなことを言われた、「そういう言い方は止めて下さい」って言いたいんだけど、上司と言い合いになるのが面倒臭いから言わなかったとか、怖くて言えないとか……そういうこと、皆さんにもありませんか? これもコンフリクトのケースです。
……えーと、また脱線しちゃいましたね(苦笑)。「コンフリクト」の解説はこれで終わりです。「コンフリクトのマネジメント」と言葉を足しているのは、そういうコンフリクトにどう対処するのがいいのか、いろいろな状況に照らして考えてみようかということです。望ましくない例ばかり出しましたが、コンフリクトがすべて悪いってわけではありません。意見の違いは、時には新たな発想や素晴らしい解決策を産むこともあります。コンフリクト自体をなくすことはできなくても、その状況と折り合う方法もあります。それに、コンフリクトがどうやって生じるかを知っていれば、話し合う相手の感情を逆撫ですることなく、話し合って円満に解決するということもできることがあるかも知れませんし。
で、コンフリクトとその対処を、正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』を題材に考えてみよう、というのが今日のレクチャーです……って、やっと本論に辿り着いたら、何人か寝ちゃってませんか……おーい(涙)。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1 本稿
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
携帯電話からNHKメロディファイルに接続して、『新選組!! 土方歳三最期の一日』テーマ曲「希望のワルツ」をダウンロード……うーん、これは聴いていたら泣いちゃいそうだな(苦笑)。
曲名が「希望のワルツ」だと知ったのも割と最近。何というネーミングなんだろう……あのシーン、この場面、流れていたBGMが「希望のワルツ」と知ると、ますます物悲しく、ますます切なくなってしまうのは間違いない。
『新選組!』サントラ第2弾、まだあきらめていない。『新選組!!』サントラと二枚組にして出して欲しいですね。
たのみこむ 『新選組!』サントラ第2弾
曲名が「希望のワルツ」だと知ったのも割と最近。何というネーミングなんだろう……あのシーン、この場面、流れていたBGMが「希望のワルツ」と知ると、ますます物悲しく、ますます切なくなってしまうのは間違いない。
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