新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
ようやく、先週から読み始めていた『新選組の遠景』野口武彦(集英社)―リンク先はamazon.co.jp―を読み終えた。
野口武彦氏が何者であるのか、すべての著作を読んではいない白牡丹には表現しがたいのだが……時代とか、文化を超えて、文明の視点で歴史を見据えることができる思想家であって哲学者、かな。それでいて、時代時代の世間の諸相から、その時代精神を感じ取ることができる著述家。歴史が専門ではないが、史料を渉猟して消化する能力は、歴史学者に比肩するかも知れない(と言っても、歴史を専門に勉強していない白牡丹の感覚で言っているのだが^_^;)。野口氏の『幕末気分』『幕末伝説』は、幕藩体制が崩壊寸前の中で、征長戦に動員された旗本がいかに大坂で厭戦気分で遊び狂ったか、前記の2作と併せて『幕府歩兵隊』を含めた3作では社会や経済からはみ出た無頼の徒が幕府の徴募に応じて近代化された軍隊に組み込まれることによる騒動を始めとするプロセスが歴史の流れと共に描かれて、すこぶる面白かった。
その野口氏による、新選組論。それは読まなきゃ損だわな、と、書店で見かけてすぐに購入。しかも、表紙は黒鉄ヒロシ氏だし……^_^;。
☆★☆★
いやー、久しぶりに読みごたえのある新選組論だった。最近、大河ドラマ『新選組!』の影響で従来から新選組について書いている著述家の方が続々本を出しているのは新選組ファンとして嬉しくないはずはないが、たまにブームに当て込んだ薄っぺらい本に出会った時には真剣に「もうこの人の本は読まむもんか……」と落ち込むこともあるぐらい、思い入れがあるだけに、万を持して発刊された、この本は嬉しかった。
てなわけで、書評でアマゾンに書くには字数制限を超えてしまうかも知れないし、まだ整理できていないので、ここで書評もどきを書いてみる。
「第一章 新選組遠景」
白牡丹が膝を打ったのは「新選組のことは、新選組だけを見たのではわからない」という一文である。新選組ファンは、どうしたって新選組内部を中心に見るが、新選組が清河八郎の献策の鬼っ子として生まれた背景に始まって、幕府や会津藩に属する警察組織として誕生し得たことの背景を、清河八郎の思想、試衛館が江戸の剣術道場の復権ブームの中でどのような立ち位置にあったか、芹澤鴨らをどう取り除いていったのかを、新選組の外からの視点で語る。
細かい歴史の解釈においてはこれでいいのかなーと思うところがあるが、全体としては白牡丹の一番の好み。
「第二章 池田屋事件私考」
ここでは、明治の後年以降に小説や講談の世界で脚色化された新選組像と、史実の新選組像のギャップを語る。その視点においては、すでにいくつか著作が出ているが、野口氏の視点で見た池田屋事件はやはり読んでいて面白い。
「第三章 沖田総司伝説」
前二章とアプローチを変えて、なぜ70年代に『新選組血風録』『燃えよ剣』の島田順司に象徴される沖田総司ブームが起こったのか、その時代背景を探る章。
白牡丹は70年代前半の学生運動をリアルタイムで理解できるほどの齢ではなかったし、結束信二脚本で栗塚旭が土方歳三を演じ島田順司が沖田総司を演じる『新選組血風録』『燃えよ剣』はここ数年にビデオを取り寄せて見ただけ。だが、福田定良『新選組の哲学』を引用しながら語る沖田総司論は、幸いにして『新選組の哲学』を読んでいるからにして、ついてきやすい。
薄幸なヒーローの条件として、天性の才能、魅力的な性格、夭折の悲運という三大条件を提示していることが、白眉である。白牡丹的に解釈するなら、沖田総司は幕末における源義経なのだ。
「第四章 内山彦五郎殺し」
またアプローチを変えて、史料を駆使して、大坂西町奉行の筆頭与力であった内山彦五郎を暗殺したのは新選組ではない可能性が高いと結論づけている。白牡丹個人が感覚的にそう思っていたことを、史料の裏付けや当時の歴史的な背景を含めて論証している。
かなり読みごたえがあるし、史料の裏付けなどきちんとしているので、歴史家の意見が楽しみな論であ。
「第五章 七条油小路の血闘」
伊東甲子太郎ら深川伊東道場の面々がどういう経緯で新選組に合流し、なぜ分離したか、その敵対関係をどう清算したか、という章。朝廷に征討命令を下された幕府に対して長州がいかに自藩を守ったか、ということと並行して、伊東甲子太郎の新選組を離れた行動が描かれる。
史実の土方ファンでありつつも、史実の伊東甲子太郎も決して悪人ではないと思っている白牡丹には、土方さんが伊東暗殺を決めた根拠が伊東さんら高台寺寺党が近藤勇暗殺を目論んだからではなく、「伊東甲子太郎が柳原前光に建白書を出し、薩摩藩と気脈を通じているという情報をもたらした」ことによる、という意見は大歓迎。
新選組から分離して独自の勤王活動を始めたものの、反幕府側は元新選組だと容易に信じない、その苦労はわかるものの、それで伊東さんが近藤勇を暗殺することで反幕府の歓心を買おうとして、それをスパイとして内通していた斎藤一が新選組に伝えて暗殺に至る……という描かれ方が典型的なのだが、史実の伊東甲子太郎を多少なりとも知っている白牡丹的には、不満だった。元新選組という前歴が枷《かせ》になっているとはいっても、それを払拭するために暗殺を企てるようには、史実の伊東先生が見えないから。
だから、野口氏の、新選組から見たら、倒幕派に回った薩摩藩に利する行為までやり過ぎてしまった伊東先生が邪魔になってきて、新選組が暗殺を決意する、という流れの方が説得力を持っている(あくまで私は土方ファンですが、近藤さん暗殺を企てていると知って伊東暗殺を決意する土方さんより、ついやり過ぎて新選組に敵対する行動を取った伊東先生を暗殺する土方さん、それを支持する近藤さん、の方がしっくりする……いや、あくまで個人的にですが)。
「第六章 千両松の戦い」
ここでは近代戦に巻き込まれた新選組が、軍の近代化に遅れたために薩長の銃火の前にいかに無力だったかが語られる。池田屋事件で剣の戦いにおいては無敵だった新選組だが、禁門の変で前線に投入されなかったために、銃砲での戦いが主流となり始めていた時代に乗れず、奮闘しつつも敗れ去り、甲州勝沼では茶番のような敗戦を喫するところが俯瞰されている。
「第七章 北辺に散る」
野口氏による、土方歳三レクイエムの章。特に目新しいところはないが、白牡丹は二股口の戦いで二股口を守りきった幕府脱走軍において、酒樽を持って兵士たちを慰撫した指揮官の言葉を野口氏が前線の兵士にわかる言葉で翻訳している場面が大好き。
「よくやってるぞ。大した《てぇした》もんだ。官軍は武士《さむれえ》だし、数も多い。おめえらは歩兵だがひけ(#「ひけ」に傍点)は取っていねえ。長岡じゃあ五日五夜、ぶっ通しでがんばった。あんなにつれえ(#「つれえ」に傍点)戦はなかったじゃねえか。今日のなんざあ子どもの遊びみてえなものよ。もう一回景気をつけてやる。一杯《いっぺえ》だけだぞ。酔っ払って暴れちゃならねえぞ」
野口氏の以前のエッセイでは土方さんの言葉として語らせているが、今回の著作では副官の唐津藩士・大野右仲の言葉として語らせている……いや、白牡丹的には、大した違いはないと思っている。もしも、史実的には大野右仲さんの言葉であったとしても、前線の兵士に、彼らが腹に落ちる言葉で語りかけられるのは、百姓(富農だが)の末弟に生まれ、壬生浪士組から新選組を立ち上げ、鳥羽伏見の戦から戊辰戦争を経て近代的な戦術を身につけながらも「兵が慕うこと赤子が母を慕うがごとし」と言われた土方さんが、一兵卒に至るまでも思いやって魂から発した言葉だと信じているから。
野口武彦氏が何者であるのか、すべての著作を読んではいない白牡丹には表現しがたいのだが……時代とか、文化を超えて、文明の視点で歴史を見据えることができる思想家であって哲学者、かな。それでいて、時代時代の世間の諸相から、その時代精神を感じ取ることができる著述家。歴史が専門ではないが、史料を渉猟して消化する能力は、歴史学者に比肩するかも知れない(と言っても、歴史を専門に勉強していない白牡丹の感覚で言っているのだが^_^;)。野口氏の『幕末気分』『幕末伝説』は、幕藩体制が崩壊寸前の中で、征長戦に動員された旗本がいかに大坂で厭戦気分で遊び狂ったか、前記の2作と併せて『幕府歩兵隊』を含めた3作では社会や経済からはみ出た無頼の徒が幕府の徴募に応じて近代化された軍隊に組み込まれることによる騒動を始めとするプロセスが歴史の流れと共に描かれて、すこぶる面白かった。
その野口氏による、新選組論。それは読まなきゃ損だわな、と、書店で見かけてすぐに購入。しかも、表紙は黒鉄ヒロシ氏だし……^_^;。
☆★☆★
いやー、久しぶりに読みごたえのある新選組論だった。最近、大河ドラマ『新選組!』の影響で従来から新選組について書いている著述家の方が続々本を出しているのは新選組ファンとして嬉しくないはずはないが、たまにブームに当て込んだ薄っぺらい本に出会った時には真剣に「もうこの人の本は読まむもんか……」と落ち込むこともあるぐらい、思い入れがあるだけに、万を持して発刊された、この本は嬉しかった。
てなわけで、書評でアマゾンに書くには字数制限を超えてしまうかも知れないし、まだ整理できていないので、ここで書評もどきを書いてみる。
「第一章 新選組遠景」
白牡丹が膝を打ったのは「新選組のことは、新選組だけを見たのではわからない」という一文である。新選組ファンは、どうしたって新選組内部を中心に見るが、新選組が清河八郎の献策の鬼っ子として生まれた背景に始まって、幕府や会津藩に属する警察組織として誕生し得たことの背景を、清河八郎の思想、試衛館が江戸の剣術道場の復権ブームの中でどのような立ち位置にあったか、芹澤鴨らをどう取り除いていったのかを、新選組の外からの視点で語る。
細かい歴史の解釈においてはこれでいいのかなーと思うところがあるが、全体としては白牡丹の一番の好み。
「第二章 池田屋事件私考」
ここでは、明治の後年以降に小説や講談の世界で脚色化された新選組像と、史実の新選組像のギャップを語る。その視点においては、すでにいくつか著作が出ているが、野口氏の視点で見た池田屋事件はやはり読んでいて面白い。
「第三章 沖田総司伝説」
前二章とアプローチを変えて、なぜ70年代に『新選組血風録』『燃えよ剣』の島田順司に象徴される沖田総司ブームが起こったのか、その時代背景を探る章。
白牡丹は70年代前半の学生運動をリアルタイムで理解できるほどの齢ではなかったし、結束信二脚本で栗塚旭が土方歳三を演じ島田順司が沖田総司を演じる『新選組血風録』『燃えよ剣』はここ数年にビデオを取り寄せて見ただけ。だが、福田定良『新選組の哲学』を引用しながら語る沖田総司論は、幸いにして『新選組の哲学』を読んでいるからにして、ついてきやすい。
薄幸なヒーローの条件として、天性の才能、魅力的な性格、夭折の悲運という三大条件を提示していることが、白眉である。白牡丹的に解釈するなら、沖田総司は幕末における源義経なのだ。
「第四章 内山彦五郎殺し」
またアプローチを変えて、史料を駆使して、大坂西町奉行の筆頭与力であった内山彦五郎を暗殺したのは新選組ではない可能性が高いと結論づけている。白牡丹個人が感覚的にそう思っていたことを、史料の裏付けや当時の歴史的な背景を含めて論証している。
かなり読みごたえがあるし、史料の裏付けなどきちんとしているので、歴史家の意見が楽しみな論であ。
「第五章 七条油小路の血闘」
伊東甲子太郎ら深川伊東道場の面々がどういう経緯で新選組に合流し、なぜ分離したか、その敵対関係をどう清算したか、という章。朝廷に征討命令を下された幕府に対して長州がいかに自藩を守ったか、ということと並行して、伊東甲子太郎の新選組を離れた行動が描かれる。
史実の土方ファンでありつつも、史実の伊東甲子太郎も決して悪人ではないと思っている白牡丹には、土方さんが伊東暗殺を決めた根拠が伊東さんら高台寺寺党が近藤勇暗殺を目論んだからではなく、「伊東甲子太郎が柳原前光に建白書を出し、薩摩藩と気脈を通じているという情報をもたらした」ことによる、という意見は大歓迎。
新選組から分離して独自の勤王活動を始めたものの、反幕府側は元新選組だと容易に信じない、その苦労はわかるものの、それで伊東さんが近藤勇を暗殺することで反幕府の歓心を買おうとして、それをスパイとして内通していた斎藤一が新選組に伝えて暗殺に至る……という描かれ方が典型的なのだが、史実の伊東甲子太郎を多少なりとも知っている白牡丹的には、不満だった。元新選組という前歴が枷《かせ》になっているとはいっても、それを払拭するために暗殺を企てるようには、史実の伊東先生が見えないから。
だから、野口氏の、新選組から見たら、倒幕派に回った薩摩藩に利する行為までやり過ぎてしまった伊東先生が邪魔になってきて、新選組が暗殺を決意する、という流れの方が説得力を持っている(あくまで私は土方ファンですが、近藤さん暗殺を企てていると知って伊東暗殺を決意する土方さんより、ついやり過ぎて新選組に敵対する行動を取った伊東先生を暗殺する土方さん、それを支持する近藤さん、の方がしっくりする……いや、あくまで個人的にですが)。
「第六章 千両松の戦い」
ここでは近代戦に巻き込まれた新選組が、軍の近代化に遅れたために薩長の銃火の前にいかに無力だったかが語られる。池田屋事件で剣の戦いにおいては無敵だった新選組だが、禁門の変で前線に投入されなかったために、銃砲での戦いが主流となり始めていた時代に乗れず、奮闘しつつも敗れ去り、甲州勝沼では茶番のような敗戦を喫するところが俯瞰されている。
「第七章 北辺に散る」
野口氏による、土方歳三レクイエムの章。特に目新しいところはないが、白牡丹は二股口の戦いで二股口を守りきった幕府脱走軍において、酒樽を持って兵士たちを慰撫した指揮官の言葉を野口氏が前線の兵士にわかる言葉で翻訳している場面が大好き。
「よくやってるぞ。大した《てぇした》もんだ。官軍は武士《さむれえ》だし、数も多い。おめえらは歩兵だがひけ(#「ひけ」に傍点)は取っていねえ。長岡じゃあ五日五夜、ぶっ通しでがんばった。あんなにつれえ(#「つれえ」に傍点)戦はなかったじゃねえか。今日のなんざあ子どもの遊びみてえなものよ。もう一回景気をつけてやる。一杯《いっぺえ》だけだぞ。酔っ払って暴れちゃならねえぞ」
野口氏の以前のエッセイでは土方さんの言葉として語らせているが、今回の著作では副官の唐津藩士・大野右仲の言葉として語らせている……いや、白牡丹的には、大した違いはないと思っている。もしも、史実的には大野右仲さんの言葉であったとしても、前線の兵士に、彼らが腹に落ちる言葉で語りかけられるのは、百姓(富農だが)の末弟に生まれ、壬生浪士組から新選組を立ち上げ、鳥羽伏見の戦から戊辰戦争を経て近代的な戦術を身につけながらも「兵が慕うこと赤子が母を慕うがごとし」と言われた土方さんが、一兵卒に至るまでも思いやって魂から発した言葉だと信じているから。
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