新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
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ども、再び講師でしゃしゃり出た白牡丹です。「『組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント」、今日は榎本武揚のケースです。下戸でなければ、赤ワインを片手に聴いていただきたいところです……お供はチーズのサンドウィッチで。下戸の方は、もちろん、お茶でもコーヒーでもお好きな飲み物片手にどうぞ。
その2 榎本武揚のケース
『組!!』の榎本さんは、内心のコンフリクト、すなわち葛藤をいったん克服した人物として登場します。
コンフリクトの一方の極には、榎本さんの理想や夢があります。すなわち、薩長を中心とする新政府軍のあり方に対しての憤り、自分ならば違う形で新しい「素晴らしい国」を興して見せられるという気概、そしてその「素晴らしい国」の豊かさの源として農業や牧畜や鉱業を発展させ、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくり日本人の食卓に届けるという夢です。
もう一方の極には、現実があります。旧徳川軍を束ねて蝦夷地に渡ったまではよいが、悪天候によって海軍の主力を失い、物量ともに勝る新政府軍に攻め込まれて圧倒的に不利になり、敗戦を間近に控えているという現実。そして、全滅を免れてはいるものの、決戦まで引き延ばせば今後の日本にとって有為な人材を失うことになるだろうという見通し。
この内心の葛藤を克服する過程で榎本さんが選択したのは、降伏という方針、そして自分の夢に力を貸してくれた人たちを「ひとりとして死なせはしない」という決意、その命乞いの為に切腹するという覚悟です。
最初の登場場面で丹念に髭を手入れする場面で大鳥さんに「私は徳川軍を率いる男だよ。兵士の前にみっともない姿を曝せると思うかい」と言うところがありますが、この言葉も、翌日には降伏して部下たちの命と引き換えに切腹する覚悟をしていると知らないで見ると単なる西洋かぶれの洒落者にしか見えませんね……でも、その覚悟を知ってから改めて遡って見ると、だからこそ部下たちにみすぼらしい姿を見せたくないと自分を演出しようとしているようにも見えますが、皆さんにはどう見えたでしょう?
榎本さんの降伏・切腹という決意は、降伏の意思を覆せと土方さんが五稜郭に乗り込んでも、最初は揺るぎませんでしたね。刀を突きつけられても「斬りたきゃ斬るがいいさ」と動じません。むしろ、「そう来たか」とディスカッションを楽しんでいる余裕すら伺えます。さらに、切腹を覚悟している人間の持てる洞察力の鋭さでしょうか、「お前さんには勝つ気なんか端からねぇからね」「あんた、死にたいんだろ、一日でも早く、戦でさ……」と土方さんの強硬な態度の裏にある内心の願望まで見抜いています。さらに「そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」と一喝し、逆に土方さんを「だったら俺はどうすればいいんだ!」と動揺させます。
土方さんが動揺して本心を見せたのと軌を一にして、榎本さんも自分の胸襟を開き始めます。ワインやサンドウィッチを勧める榎本さんに、土方さんも自分の本音を語り出します。「あんたという人がわからない」「だからこそ俺は榎本武揚に賭けた」「俺ははっきり言ってあんたに失望した」「一時でもあんたに近藤勇を重ねた自分が恥ずかしい」と。
……でもねぇ、もし自分が榎本さんの立場だったら、信頼している有能な部下である土方さんに、いくら本音で語ってもらうのが嬉しいとは言え、ここまで言われたら普通は落ち込むと思うんですよ(苦笑)。私だったら、三日は寝込んでしまうぐらい落ち込みます、確実に。そういう状況で「当たり前だ。俺は榎本武揚だ」と開き直れるのは、自分の能力に自信があって、なおかつ、切腹を覚悟して新政府軍と決着をつけると腹をくくっている榎本さんだから言える言葉だなぁと、つくづく思いますね……(汗)。
そして、榎本さんは「あの時私は本気だった」「蝦夷地に新しい国を」と、さらに胸襟を開いて、自分が内心の葛藤(コンフリクト)の末に諦めた夢を語り出します。新しい国づくりの壮大な構想とともに、何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくるという個人的な夢も。
この辺りが、三谷さん脚本でうまいなぁと感心するところです。「コンフリクトのマネジメント」編が終わったら「リーダーシップ」編で詳しく語ろうと思っているのですが(と、さりげなく次回の構想を宣伝^_^;)、リーダーには大きなビジョンなり高い理想なりを示すことも大事なのですが、そのビジョンの中で自分がどういう仕事をしているかというところも大事なのですよ。ここで、榎本さんが「新しい国」の中で権力を手にする自分ではなく何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくっている自分を語ることで、壮大な理想、遠大な夢がある一方で、権力には余り野心がない榎本さんの素朴さが見て取れます……だからこそ土方さんも「……あんた、馬鹿だ」とくさしつつ、内心では惚れ直すわけです(笑)。
……そして、いったんは内心の葛藤を克服したと思っていた榎本さんが、再び揺らぎます。そのひとつには、降伏を宣言した相手の部下たちが「我々はまだまだ戦えます! なんで薩長の奴らに降伏しなきゃならないんですか」「総裁! 最後まで戦いましょう!」とすがりついて来たことです。もうひとつには、土方さんが「降伏はするな」「ようやく気付いたよ。俺は死に場所のことしか考えてなかった。そしてあんたの頭の中には降伏のことしかなかった。俺たちは大事なことを忘れていたようだ」「あきらめない、ってことだ」「俺たちは、これから生きるために戦うんだ」と、自分の心の底から榎本さんの夢をもう一度復活させようとして説得したことにあります。
さらに、土方さんが乾坤一擲の策として「桶狭間戦法」を提案した時には、すでに榎本さんはいったん選んだ降伏という選択を捨てて起死回生の土方さんの策に賭けることを決意していたのでした……その顛末は、ドラマをご覧になっている方には自明なのですが(しくしく)。
……さて、今日の榎本さん編はいかがでしたか? できれば、前回よりも居眠りしている人が少ないといいんですがねぇ……(どきどき)。
☆★☆★
『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント
その1
その2
その3 本稿
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その2 榎本武揚のケース
『組!!』の榎本さんは、内心のコンフリクト、すなわち葛藤をいったん克服した人物として登場します。
コンフリクトの一方の極には、榎本さんの理想や夢があります。すなわち、薩長を中心とする新政府軍のあり方に対しての憤り、自分ならば違う形で新しい「素晴らしい国」を興して見せられるという気概、そしてその「素晴らしい国」の豊かさの源として農業や牧畜や鉱業を発展させ、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくり日本人の食卓に届けるという夢です。
もう一方の極には、現実があります。旧徳川軍を束ねて蝦夷地に渡ったまではよいが、悪天候によって海軍の主力を失い、物量ともに勝る新政府軍に攻め込まれて圧倒的に不利になり、敗戦を間近に控えているという現実。そして、全滅を免れてはいるものの、決戦まで引き延ばせば今後の日本にとって有為な人材を失うことになるだろうという見通し。
この内心の葛藤を克服する過程で榎本さんが選択したのは、降伏という方針、そして自分の夢に力を貸してくれた人たちを「ひとりとして死なせはしない」という決意、その命乞いの為に切腹するという覚悟です。
最初の登場場面で丹念に髭を手入れする場面で大鳥さんに「私は徳川軍を率いる男だよ。兵士の前にみっともない姿を曝せると思うかい」と言うところがありますが、この言葉も、翌日には降伏して部下たちの命と引き換えに切腹する覚悟をしていると知らないで見ると単なる西洋かぶれの洒落者にしか見えませんね……でも、その覚悟を知ってから改めて遡って見ると、だからこそ部下たちにみすぼらしい姿を見せたくないと自分を演出しようとしているようにも見えますが、皆さんにはどう見えたでしょう?
榎本さんの降伏・切腹という決意は、降伏の意思を覆せと土方さんが五稜郭に乗り込んでも、最初は揺るぎませんでしたね。刀を突きつけられても「斬りたきゃ斬るがいいさ」と動じません。むしろ、「そう来たか」とディスカッションを楽しんでいる余裕すら伺えます。さらに、切腹を覚悟している人間の持てる洞察力の鋭さでしょうか、「お前さんには勝つ気なんか端からねぇからね」「あんた、死にたいんだろ、一日でも早く、戦でさ……」と土方さんの強硬な態度の裏にある内心の願望まで見抜いています。さらに「そんな物騒な奴に俺の兵を預けられるか!」と一喝し、逆に土方さんを「だったら俺はどうすればいいんだ!」と動揺させます。
土方さんが動揺して本心を見せたのと軌を一にして、榎本さんも自分の胸襟を開き始めます。ワインやサンドウィッチを勧める榎本さんに、土方さんも自分の本音を語り出します。「あんたという人がわからない」「だからこそ俺は榎本武揚に賭けた」「俺ははっきり言ってあんたに失望した」「一時でもあんたに近藤勇を重ねた自分が恥ずかしい」と。
……でもねぇ、もし自分が榎本さんの立場だったら、信頼している有能な部下である土方さんに、いくら本音で語ってもらうのが嬉しいとは言え、ここまで言われたら普通は落ち込むと思うんですよ(苦笑)。私だったら、三日は寝込んでしまうぐらい落ち込みます、確実に。そういう状況で「当たり前だ。俺は榎本武揚だ」と開き直れるのは、自分の能力に自信があって、なおかつ、切腹を覚悟して新政府軍と決着をつけると腹をくくっている榎本さんだから言える言葉だなぁと、つくづく思いますね……(汗)。
そして、榎本さんは「あの時私は本気だった」「蝦夷地に新しい国を」と、さらに胸襟を開いて、自分が内心の葛藤(コンフリクト)の末に諦めた夢を語り出します。新しい国づくりの壮大な構想とともに、何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくるという個人的な夢も。
この辺りが、三谷さん脚本でうまいなぁと感心するところです。「コンフリクトのマネジメント」編が終わったら「リーダーシップ」編で詳しく語ろうと思っているのですが(と、さりげなく次回の構想を宣伝^_^;)、リーダーには大きなビジョンなり高い理想なりを示すことも大事なのですが、そのビジョンの中で自分がどういう仕事をしているかというところも大事なのですよ。ここで、榎本さんが「新しい国」の中で権力を手にする自分ではなく何万頭もの牛を飼ってバターやチーズをつくっている自分を語ることで、壮大な理想、遠大な夢がある一方で、権力には余り野心がない榎本さんの素朴さが見て取れます……だからこそ土方さんも「……あんた、馬鹿だ」とくさしつつ、内心では惚れ直すわけです(笑)。
……そして、いったんは内心の葛藤を克服したと思っていた榎本さんが、再び揺らぎます。そのひとつには、降伏を宣言した相手の部下たちが「我々はまだまだ戦えます! なんで薩長の奴らに降伏しなきゃならないんですか」「総裁! 最後まで戦いましょう!」とすがりついて来たことです。もうひとつには、土方さんが「降伏はするな」「ようやく気付いたよ。俺は死に場所のことしか考えてなかった。そしてあんたの頭の中には降伏のことしかなかった。俺たちは大事なことを忘れていたようだ」「あきらめない、ってことだ」「俺たちは、これから生きるために戦うんだ」と、自分の心の底から榎本さんの夢をもう一度復活させようとして説得したことにあります。
さらに、土方さんが乾坤一擲の策として「桶狭間戦法」を提案した時には、すでに榎本さんはいったん選んだ降伏という選択を捨てて起死回生の土方さんの策に賭けることを決意していたのでした……その顛末は、ドラマをご覧になっている方には自明なのですが(しくしく)。
……さて、今日の榎本さん編はいかがでしたか? できれば、前回よりも居眠りしている人が少ないといいんですがねぇ……(どきどき)。
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