新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
平日の通勤時間が長くないので読書ペースは遅いのだが、『未完の多摩共和国 新選組と民権の郷』佐藤文明(凱風社)―リンク先はamazon.co.jp―、たった今読了した。
一言で言えば、実に面白かった。
新選組の通史を多摩の歴史の中から見るだけでなく、明治期の多摩における民権運動の展開が多摩の幕末維新史と切り離せないことがよくわかる。そして、多摩の地方史は、徳川家康が江戸に幕府を開いた時に、腹心の大久保長安が開発した甲州街道(ちなみに、近藤勇が名乗った「大久保剛」の大久保はこの人ゆかりの苗字。また、土方歳三が名乗った「内藤隼人」の内藤も、大久保長安に次ぐ腹心の内藤清成であり、甲州街道に沿った新宿御苑付近「内藤新宿」に屋敷があった)と創設した八王子千人同心の存在が切り離せない。
八王子千人同心の歴史をさらにさかのぼれば、源頼朝を支持した板東武者にいきつく。関東の武士は「一所懸命(goo辞典: 武士が、生活のすべてをその所領にかけること)」という言葉に表されるように、所領を与えられ、平時はその地を開墾し、戦時にはその所領を根拠として主君に武力でもって忠節を尽くす存在だった。時代が下って織田信長の時代には農民と武士がそれぞれ専門化し始め、徳川幕府の時代に分離は完成する。しかし、全国で唯一、平時には土地を耕し、招集がかかれば武士として戦う者たちとして保存されたのが八王子千人同心である。彼らは、板東武者の子孫に武田家遺臣を加えた者たちから成り立っており、韮山代官の江川家の配下にはあったが、江川代官が治める所領は広大であるために支配はかなり緩く、江戸時代を通してかなりの自治権を得ていた。
その多摩独特の歴史が転換点を迎えたのが、幕末、横浜の開港である。街道を通じて横浜とつながっていた多摩は有数の生糸の産地であり、八王子の地名にちなんだ八茶の産地でもあった。幕末から明治に入っても二大輸出商品であった生糸と茶は江戸ではなく横浜の方に流れ、一部の商人と富農層は輸出で儲けたが、急激なインフレによって多摩の経済は混乱する。また、多摩の富を狙って流れてくる犯罪者も増え、多摩の人々は自衛の必要性を感じるようになる。幕臣きっての開明派であり開国派である韮山代官江川英龍の影響下で、多摩の人々は土地の自衛のみならず徳川幕府維持のために農兵の組織化を手がけていく。
そうした背景下で、多摩の中でも有力な名主層のひとりである日野の佐藤彦五郎や小島鹿之助らが登場する。さらに、彼らと義兄弟を誓っている天然理心流宗家の近藤勇が、門人や食客を率いて浪士組に参加する。
以下、新選組ファンにはお馴染みの新選組史となるが、この本の出色は、近藤勇らが浪士組に参加する経緯には江川代官家が関わっていたこと、また浪士組で近藤らと行動を共にして壬生浪士組に加わった神道無念流(江川英龍坦庵の親友であり右腕でもあった斎藤弥九郎の「練兵館」門下)の芹沢鴨らも江川代官家の意向で加わっていた、という説である。実証は難しいだろうが、清河八郎らの不穏な動きを封じるために江川代官家が彼らを送り込んだという説は、道場経営に行き詰まって浪士組に参加したという従来の近藤勇像と違う視点なのが面白い。
ここから歴史に登場してくる土方さん(やっぱり「土方さん」と書いてしまう^_^;)については、既に読書メモその3で雑感を書いているので、詳しくは取り上げない。ただ、名主であるために義兄弟の近藤勇と行動を共にできない佐藤彦五郎が自分の思いを託した相手として、「われ、日野・佐藤に対し、なにひとつ恥ずることなきゆえ、どうかご安心を」という伝言を市村鉄之助に託して戦火に散ったということが、佐藤彦五郎と土方さんの絆、佐藤彦五郎と近藤勇の絆を顕していると思う。この本では、他にも、甲州勝沼戦争に加わった佐藤彦五郎の件を巡って、流山であえて西軍に投降した近藤勇と見送った土方さんの心境について新たな解釈を試みているところも、目を引かれるのだが。
少しさかのぼるが、日野を中心として、多摩の有力地主によって組織された日野農兵隊は、経済混乱によって発生した武州世直し一揆を鎮圧する。京都で新選組が活躍したのと同じ時期に、多摩の彦五郎たちも幕府の側に立って体勢の維持に貢献しようとしていた。これを歴史的にどう評価するかは歴史家ではない白牡丹には難しいが、新選組にも共通する、八王子千人同心に象徴される多摩の徳川幕府への忠誠心の発露と見たい。
しかし、歴史は急転し、多摩では「瓦解」と呼ばれる明治維新が成立する。近藤や土方たち、新選組を創った多摩出身の幹部たちも歴史から姿を消した(涙)。
多摩に残った人々とその子弟は、明治新政府の中央集権的な政治に異を唱える自由民権運動の旗手となっていく。その中でもいろいろな事件があるのだが、首都東京に隣接しながら根強い反政府の風土を形成する多摩の文化圏を切り崩すために、多摩を分割し、一部は東京に、一部は神奈川県に編入させる。さらに、横浜を中心とする神奈川のネットワークと多摩のネットワークが結びつくことを警戒した中央政府は、三多摩を東京に編入する。
もともと藩を持たずに江戸時代を過ごしてきた多摩には、その土地の象徴となる藩主もなく、無数の人々のネットワークによる緩やかな自治によって歴史を築いてきた。しかし、明治期に入って、多摩は段階的に分断解体され、首都東京の近郊の地区に成り下がることを余儀なくされた。著者は、幕末から明治維新、さらに自由民権運動という歴史を通観して、多摩の地方史を見直そうという視点でこの本を書いた。
真っ先に多摩から分断された地区に生まれ育った白牡丹は、しかし日野や八王子といった多摩の文化圏の中心とは遠すぎて一体感を持たずに成長してきたわけですが……この本を読んで、東京よりも多摩に近しさを感じた。多摩の自由民権派の人々が目指した共和制とは、どんなものだったのだろうか、もう少し勉強したくなった。
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一言で言えば、実に面白かった。
新選組の通史を多摩の歴史の中から見るだけでなく、明治期の多摩における民権運動の展開が多摩の幕末維新史と切り離せないことがよくわかる。そして、多摩の地方史は、徳川家康が江戸に幕府を開いた時に、腹心の大久保長安が開発した甲州街道(ちなみに、近藤勇が名乗った「大久保剛」の大久保はこの人ゆかりの苗字。また、土方歳三が名乗った「内藤隼人」の内藤も、大久保長安に次ぐ腹心の内藤清成であり、甲州街道に沿った新宿御苑付近「内藤新宿」に屋敷があった)と創設した八王子千人同心の存在が切り離せない。
八王子千人同心の歴史をさらにさかのぼれば、源頼朝を支持した板東武者にいきつく。関東の武士は「一所懸命(goo辞典: 武士が、生活のすべてをその所領にかけること)」という言葉に表されるように、所領を与えられ、平時はその地を開墾し、戦時にはその所領を根拠として主君に武力でもって忠節を尽くす存在だった。時代が下って織田信長の時代には農民と武士がそれぞれ専門化し始め、徳川幕府の時代に分離は完成する。しかし、全国で唯一、平時には土地を耕し、招集がかかれば武士として戦う者たちとして保存されたのが八王子千人同心である。彼らは、板東武者の子孫に武田家遺臣を加えた者たちから成り立っており、韮山代官の江川家の配下にはあったが、江川代官が治める所領は広大であるために支配はかなり緩く、江戸時代を通してかなりの自治権を得ていた。
その多摩独特の歴史が転換点を迎えたのが、幕末、横浜の開港である。街道を通じて横浜とつながっていた多摩は有数の生糸の産地であり、八王子の地名にちなんだ八茶の産地でもあった。幕末から明治に入っても二大輸出商品であった生糸と茶は江戸ではなく横浜の方に流れ、一部の商人と富農層は輸出で儲けたが、急激なインフレによって多摩の経済は混乱する。また、多摩の富を狙って流れてくる犯罪者も増え、多摩の人々は自衛の必要性を感じるようになる。幕臣きっての開明派であり開国派である韮山代官江川英龍の影響下で、多摩の人々は土地の自衛のみならず徳川幕府維持のために農兵の組織化を手がけていく。
そうした背景下で、多摩の中でも有力な名主層のひとりである日野の佐藤彦五郎や小島鹿之助らが登場する。さらに、彼らと義兄弟を誓っている天然理心流宗家の近藤勇が、門人や食客を率いて浪士組に参加する。
以下、新選組ファンにはお馴染みの新選組史となるが、この本の出色は、近藤勇らが浪士組に参加する経緯には江川代官家が関わっていたこと、また浪士組で近藤らと行動を共にして壬生浪士組に加わった神道無念流(江川英龍坦庵の親友であり右腕でもあった斎藤弥九郎の「練兵館」門下)の芹沢鴨らも江川代官家の意向で加わっていた、という説である。実証は難しいだろうが、清河八郎らの不穏な動きを封じるために江川代官家が彼らを送り込んだという説は、道場経営に行き詰まって浪士組に参加したという従来の近藤勇像と違う視点なのが面白い。
ここから歴史に登場してくる土方さん(やっぱり「土方さん」と書いてしまう^_^;)については、既に読書メモその3で雑感を書いているので、詳しくは取り上げない。ただ、名主であるために義兄弟の近藤勇と行動を共にできない佐藤彦五郎が自分の思いを託した相手として、「われ、日野・佐藤に対し、なにひとつ恥ずることなきゆえ、どうかご安心を」という伝言を市村鉄之助に託して戦火に散ったということが、佐藤彦五郎と土方さんの絆、佐藤彦五郎と近藤勇の絆を顕していると思う。この本では、他にも、甲州勝沼戦争に加わった佐藤彦五郎の件を巡って、流山であえて西軍に投降した近藤勇と見送った土方さんの心境について新たな解釈を試みているところも、目を引かれるのだが。
少しさかのぼるが、日野を中心として、多摩の有力地主によって組織された日野農兵隊は、経済混乱によって発生した武州世直し一揆を鎮圧する。京都で新選組が活躍したのと同じ時期に、多摩の彦五郎たちも幕府の側に立って体勢の維持に貢献しようとしていた。これを歴史的にどう評価するかは歴史家ではない白牡丹には難しいが、新選組にも共通する、八王子千人同心に象徴される多摩の徳川幕府への忠誠心の発露と見たい。
しかし、歴史は急転し、多摩では「瓦解」と呼ばれる明治維新が成立する。近藤や土方たち、新選組を創った多摩出身の幹部たちも歴史から姿を消した(涙)。
多摩に残った人々とその子弟は、明治新政府の中央集権的な政治に異を唱える自由民権運動の旗手となっていく。その中でもいろいろな事件があるのだが、首都東京に隣接しながら根強い反政府の風土を形成する多摩の文化圏を切り崩すために、多摩を分割し、一部は東京に、一部は神奈川県に編入させる。さらに、横浜を中心とする神奈川のネットワークと多摩のネットワークが結びつくことを警戒した中央政府は、三多摩を東京に編入する。
もともと藩を持たずに江戸時代を過ごしてきた多摩には、その土地の象徴となる藩主もなく、無数の人々のネットワークによる緩やかな自治によって歴史を築いてきた。しかし、明治期に入って、多摩は段階的に分断解体され、首都東京の近郊の地区に成り下がることを余儀なくされた。著者は、幕末から明治維新、さらに自由民権運動という歴史を通観して、多摩の地方史を見直そうという視点でこの本を書いた。
真っ先に多摩から分断された地区に生まれ育った白牡丹は、しかし日野や八王子といった多摩の文化圏の中心とは遠すぎて一体感を持たずに成長してきたわけですが……この本を読んで、東京よりも多摩に近しさを感じた。多摩の自由民権派の人々が目指した共和制とは、どんなものだったのだろうか、もう少し勉強したくなった。
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