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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
 表題の句は、ご存知の方も多いと思うが、豊玉宗匠こと土方さんが上洛前に多摩に残した『豊玉発句集』の一句である。巧拙はともかく、鬱勃たるエネルギーをくすぶらせて青春時代を送った土方さんが自分の生きる道を模索する中での一句だったと思う白牡丹、好きな句のひとつだ。

 史実における山南敬助がどのような経緯で死に至ったのかは諸説あって確定していないが、大河ドラマ『新選組!』の山南さんが脱走そして切腹という選択をしたのは、この句のような思いがあったからではあるまいか……昨日から、白牡丹はそう思いつづけている。

 山南さんをこよなく愛する方々の中には、土方さんのこの句を山南さんに捧げることに抵抗がある方もいるだろう。ごめんなさい。でも、白牡丹は、大河ドラマ『新選組!』においては土方さんと信頼関係を築きながら、次第に自らのいるべき場所を見失った山南さんに、哀しみと愛しさを込めて、あえてこの句を選んだ。



第一幕 第26話「新選組誕生」



 山登りには、登り坂と頂点と下り坂がある。ちょっとした山なら、頂点を示す看板がある。だが、人生には、どこが頂点かという道標はなく、下り坂を歩いていることに気づいて、あれが頂点だったのだと後からしかわからない。

 そして、人生の頂点に立った時に、下り坂に進む要因もまた潜んでいることが多々ある。

 山南さんにとっての人生の頂点は、土方さんと組んで新見さんを切腹に追い込み、芹澤さん達を除き、近藤さんを頂点とする新選組を築いた夜だった。



 そして、そこに伏線が引かれる。恩情から、あるいは詰めの甘さから、原因はいくつかあるかも知れないが、山南さんは平間さんも平山さんも斬れなかった。左之助が援護してくれなかったら、反撃する平山さんに斬られていたかも知れない、隙だらけの一瞬。

「戦じゃな、ためらった方が負けなんだよ、先生」

 修羅場では百戦錬磨の槍の使い手、左之助が言う。左之助には、山南さんを傷つける意図はなかったろう。だが、北辰一刀流の免許皆伝で、初めて修羅場に身を投じた山南さんは、道場では指導者としても優れたものを持ちながら、命の遣り取りをする修羅場では戦えない自分の限界を知る。

 ……いや、それは、自らがそれを限界と自分を規定してしまった瞬間かも知れない。



第二幕 第33話「友の死」岩木升屋事件



 時系列的には、この事件が池田屋事件に先行する。浪士たちが暴れているという情報を掴んで、大坂にいた山南さん・土方さん・斎藤さんが現場に踏み込む。



 浪士との斬り合いで大刀を折られ、脇差しを抜くこともできずに追い詰められ、観念する山南さん。その危機を、土方さんが背後から浪士を斬って救う……芹澤鴨さんに止めを刺す一撃を奮うことによって生死を分ける修羅場を乗り越えた土方さんと、乗り越えられなかった山南さんとの、明らかな戦闘能力の差。

 土方さんは当然のように手を差し出し、山南さんも微笑すら浮かべて、土方さんの手を握り返した。だが、土方さんは、おそらく本能的に気づいてしまった。北辰一刀流免許皆伝の山南さんが、命を遣り取りする戦場では戦えないということを。



第三幕 池田屋〜禁門の変



 第28話「そして池田屋へ」、軍議の場面で山南さんが珍しく声を荒げる。

「あらゆる事態に備えて策を練っておくのが軍議ではないか!」

 普段は穏やかだけど一度怒ったら怖い山南さんの性格を表している場面。だが、白牡丹は、自分が実戦では役に立たないかも知れないという予感を抱きつつ、軍議では自分の力を尽くしたいという山南さんの焦りもあったのではないかと思う……とは言え、武田さんに論理的に状況を説明されて打つべき手を示されると、納得して引っ込んでしまうのだが。



 そして、池田屋と禁門の変という、ふたつの大きな戦(禁門の変は、新選組は余り活躍していないが)において、山南さんは後方に回る。

 初めて「山南君」と「君」づけで(白牡丹の記憶では、初めてなのだが、もし間違っていたら訂正していただきたい)山南さんに屯所の守りを頼む土方さん。土方さんにしてみれば、非常時には河合さんや尾形さんも含めて実戦部隊を編成して指揮する副長としての依頼かも知れないが、山南さんを後方に回したいという庇い方と甘えの両方の気持ちが見えたような呼び方だと白牡丹は聞こえた。



第四幕 建白書事件〜葛山武八郎切腹



 土方さんとの組織観の違いが際立った下りで、ドラマの山南さんにとっては自分のいるべき場所がなくなったと感じ始める、無力感の生じる場面なのだが、白牡丹は既にここについては分析し尽くしていると思うので、割愛させていただく。

 だが、再三述べているように、土方さんは山南さんと意見でぶつかりあってはいるが、新選組と近藤さんを盛り立てるために泥をかぶる共犯者でいて欲しいのだ。葛山さんの遺体を見て衝撃を受ける山南さんに、「奴を殺したのは、俺とお前だ」と言う場面には、白牡丹はそう感じてしまう。

 だが、土方さんが古くからの同志との付き合いを振り切って組織として新選組をどうするかという命題に向き合っているのとは反対に、山南さんは自分のいるべき場所が狭くなっていると感じてしまう。



第五幕 第32話「山南脱走」



 土方さんが実戦の場から山南さんを外そうとしたのは、山南さんもその意図を薄々とはわかっていたかも知れない。だからこそ、新選組を戦闘集団としてつくり変えようとする土方さんの打ち手の各論では反論しても、土方さんが過激に走らないようにチェック機能を果たすという居場所はあっただろう。

 だが、伊東甲子太郎さんが新選組に加わった時に、山南さんが「文武両道」の「武」に自信喪失していたことに加えて、「文」でも自分の居所を見失った。

 ちなみに、白牡丹は『新選組!』の山南さんも伊東先生も好きである。伊東先生が「山南殿は雄弁だが、詰めが甘い。案外、情に流されやすいのではありませんか」は、伊東先生にもあてはまることだと思うのだが……それは、また、別の話(from『王レス』ナレーション)。



山南さんが新選組の中に自分の居場所を見失って脱走する動機は、連れ戻された壬生で近藤さんと向き合って語る言葉の中に十分に尽くされていると思う。「……私はあなたと出会い、そしてあなたに賭けた。近藤勇のため、新選組のためにこの身を捧げてきました。……しかしそれはもう、私の手の届かないところに行ってしまった」

 文武両道でありながら、武でも文でも自分の限界ゆえに新選組の中に居所を見失った山南さんに、涙。



終幕 「願ふとこあるかもしらず火取虫」



 そして、追い詰められた人間は、その人生で自分ができないと思っていたことを、意外にもできてしまうのが、皮肉である。

 自分の意見は持っているけれど、自分の意見に人を動かすすべを知らなかった山南さんは、脱走に際して永倉新八っつぁんと左之助に協力を要請し(彼らがそれによって罪を問われるかも知れないという可能性もわかっていながら)、脱走後に屯所に連れ戻されてからは、自分が抜けようとした新選組にとって彼らの存在意義を説き、新選組と近藤勇を見守って欲しいと自分の思いを託す。



 さらに、書物からの知識は万全だが、生きた知恵を身につけていない山南さんが、串に残ったふたつの団子の食べ方について、いかにも天然な明里さんに教えを請う。

 そして、さらに、この季節に菜の花は咲かないという山南さんの知識に対して、おそらくは壬生周辺を走り回っていたであろう明里さんが差し出す菜の花に、「私の負けだ」と、山南さんは、おそらく生涯で初めて、自分の負けを言葉で認める……清々しく。



 山南さんはおそらく知らなかっただろうけど、死病を内に抱えた総司君にとっては理不尽な、山南さんの選択。「誰にとっても望んじゃいない」切腹に向かって、山南さんは「願ふこと あるかもしらず 火取虫」の句そのままに、突き進む。今までほとんど我が儘を言ったことのない人生において、これが人生最初で最後の我が儘だと言わんばかりに、誰もが逃がそうとしている場面で、律儀に、それらの協力を拒み、律儀に切腹して、死んでゆく。



 自分の居場所がなくなったと思い詰めてしまったかも知れない山南さんにとっては、脱走した自分が切腹するということで新選組の規律を引き締められるという理由づけは、後付だったかも知れない。だけど、あえて自分を見逃すつもりで総司君を派遣した近藤さんや土方さんの思いを知った時に、ふたりにとって最も悔いが残る形で自分の人生に決着をつけたのが『新選組!』の山南さんである。

 火の灯りに誘われて、自らを焼き尽くすとわかっていて火の中に飛び込む火取虫……山南ファンには残酷な例えだとわかっていつつも、脱走し、あえて屯所に戻って切腹という手段を選んだ山南さんには、まさに「火取虫」だという感慨を持たざるを得ない。



 そして、残された人々に、自らを火に投じて燃える火取虫の残像が眼に焼き付いたかのように、新選組の中からは火取虫のように火に自らを投じる結果になる人々生き様死に様が続いていく……。



☆★☆★



……まとめ記事にしては中途半端^^;なので、続きを金曜日にでも書きます。
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