新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
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お待たせしましたm(_ _)m、また飲み物片手に『新選組!!』における「コンフリクトのマネジメント」分析にお付き合いくだされば幸いです。おつまみの差し入れ、歓迎します(笑)。
第4ラウンドでは、土方さんが「降伏はするな」「俺はあんたの夢に賭けることにする」と強い意志を示して、降伏を決めていた榎本さんの心を動かします。「いいか、これは死ぬための戦いではない。これから俺たちは生きるために戦うんだ」……理屈で説得するというよりは思いの強さで人の心を動かす、というところに土方さん本来の持ち味が見られます。そして、コンフリクトのマネジメント的には、降伏するかしないかという意見の対立を超えた「諦めない」という上位目標を設定することによって協力し合えるところを探っていく土方さんのアプローチが成功しつつあります。
では、山場を越えての第5ラウンド、軍議する土方さんと榎本さんを中心に、土方さんのコンフリクトマネジメントを分析します。すでに土方さんと榎本さんの間では降伏をめぐる意見の対立は解消され、新たな目標=「『新しい国』の夢を諦めずに戦い続ける」に向かって協力が始まっています。
(8) 土方さんvs榎本さん(第五ラウンド)
作戦会議室で「勝ちたい……勝ちたい……」と呟いていた大鳥さんが榎本さん・土方さんの姿に気づき、ジオラマテーブルの下に隠れている状態(笑)で、榎本さんと土方さんの「軍議」が始まります。
榎本「葡萄酒でも飲むかね」
土方「結構。戦に勝ったら、存分に飲ませてもらう」
榎本「もしよかったら、サンドウィッチでも」
土方「話しかけないでもらえるか」
榎本「……失敬」
土方さんの「ここは俺に任せてくれないか」という申し出に「中身次第だな」と総裁らしく保留の判断をしている榎本さんではありますが、気持ちの上では土方さんにすっかり打ち解けてしまっています(笑)。親しさの気持ちを込めて葡萄酒だのサンドウィッチだのをさらに振る舞おうとするですが、作戦立案に集中したい土方さんはけんもほろろです。
榎本「(椅子に腰掛けて)きみは京にいた頃も、そうやって策を練っていたのかい」
土方「ああ」
榎本「池田屋で、大勢の不逞浪士を捕縛した時も?」
土方「あの頃は、俺と山南さんで考えていた」
榎本「(立ち上がる)誰だ?」
土方「江戸にいた頃からの仲間さ。俺が全体の策を立て、そいつが細かい陣割りをする。それが、新選組のやり方だった」
山南さんがそういう役割を担っていたのは上京してから最初の一年間だけだったのですが、土方さんには山南さんとのパートナーシップを「それが、新選組のやり方だった」と断言できるだけの重みを持っていたのですよね……相馬君に「ああ、法度に背いて切腹させられた人ですよね」と言われた時も、土方さんは「……山南総長は、武士の中の武士だ」と最大限の賛辞をもって応じました。土方さんの心における山南さんの存在の重みゆえの、次のやりとり。
榎本「では、今は私がその山南さんの代わりを務めるとしよう(模型を見つめる)」
土方「(榎本さんを見やって)無理だ」
一言の下に「無理だ」と言われて、驚愕し(苦笑)落ち込む榎本さん。とぼとぼと模型の前を離れますが、模型を見つめながら土方さんが言い添えます。
土方「いいんだよ、あんたはあんたで」
不器用な土方さんにしては、なかなかに思いやりのある言葉です。そして、第2ラウンドで「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」と批判した榎本さんに対して「いいんだよ、あんたはあんたで」と、榎本さんの人となりを受け容れ、「馬鹿なろまんち」ぶりを評価しているところが、このドラマにおける土方さんの変容です。
そして、模型を見つめたまま、ふっと笑う土方さん。
榎本「何がおかしい」
……はは、「いいんだよ、あんたはあんたで」と言った直後にふっと笑う(というか、「ぷっと吹き出す」感じですか^_^;)土方さんに、自分が笑われたと思ったわけですね。
土方「いちいちうるさいな」
榎本「すまん」
土方さんに「うるさい」と言われて、しょげる榎本さんがラブリーです。榎本さんにしてみたら、自分が諦めた「新しい国」の夢への情熱を再燃してくれた土方さんに親愛の気持ちを表したくて土方さんに話しかけ続けているのですが、作戦立案に集中したい土方さんには煩わしいんですな(苦笑)。しかし、土方さんが「いちいちうるさいな」とツッコミを入れるのは、試衛館の頃の仲間に対するのと同じくらい、榎本さんに心を開いているところの現れでもありますよね。お互いにとって心地の良い距離を試行錯誤で量っていく「ヤマアラシのジレンマ」を思わせる遣り取りでもあります。
土方さんはそこで相手を突き放すのではなく、模型の地図を指さして自分の心境を説明します。
土方「さんざん見慣れた地図なのに、おかしなもんだ」
榎本「どういうことだ」
土方「俺はこれまで、死ぬための策しか考えてこなかった。今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」
すでに望楼でも「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」と自分の心の秘密を榎本さんに打ち明けている土方さんですが、さらに今回は、そのことに加えて「今は生きるために」と自分の目標が変わっていることを伝えています。榎本さんが諦めていた「新しい国」の夢をもう一度目指すために自分も変容していることを伝えたいのですね。
このあたりが「コンフリクトのマネジメント」的には、とても重要なところだと思います。「諦めない」「新しい国の夢をもう一度目指す」「生きるために戦う」という、榎本さんと共感しあえる上位目標を設定し、かつ、その夢の実現のために自分の態度も変える、それを示す。建設的なコンフリクト解消のために必要な手順を、土方さんはきちんと踏んでいます。
そして、おそらくは、この述懐をする直前には、もう頭の中で作戦はできていたのではないかと思います。作戦が頭の中で形になっていない時に「今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」とは、なかなか言えないだろうと思うので。
この第五ラウンド、すでにコンフリクトは解消しているという意味で勝敗をつける意味はない場面なのですが、「コンフリクトのマネジメント」能力の発揮という点で土方さんに満点をつけたいところです(^^)。
土方「……決まった」
模型のテーブルを回って、榎本さんと向かい合う土方さん。
土方「ではこれより、軍議を行う」
榎本「……お願いします」
土方「名付けて、『桶狭間戦法』」
榎本「桶狭間か。大きく出たな」
どんな作戦が土方さんの口から出てくるものかと緊張していた榎本さんが、驚きと共に笑みを浮かべます。
土方「これまでの策は、攻めてくる薩長に対し、我らは常に守る一方だった。確かに箱館は守りに関しては万全だ。南には天然の城壁箱館山。箱館湾には軍艦がある。そして、町を見渡せるこの陣には新選組がいる。これだけ守りが堅ければ、敵は易々と上陸はできない。ここまではいいか」
榎本「ああ」
土方「だが、もちろん敵も同じことを考えている。そこで奴らは三つに分かれて、北と西から取り囲むように攻めてくる。奴らが目指すのはこの五稜郭」
土方さん、白いマフラーを首から取って地図の上に広げます。
土方「明日の総攻撃で、奴らは帯のように連なって、ここを襲うだろう」
敵軍に見立てたマフラーを模型の五稜郭目がけて寄せます……小道具も使った、うまいプレゼンテーションです(^^)。
榎本「どう防ぐ」
土方「防がない」
榎本「は?」
土方「敵は一万近い大軍勢だ。数で押しつぶすように攻めてくる。数に対して数でぶつかれば、少ない方が負けるに決まっている」
榎本「それで?」
土方「だが、数を破るたったひとつの方法がある」
榎本「(焦れて)……気を持たせるな」
さすが元薬屋の土方さん、人を引きつける口上は上手いんですよね……気むずかしいんで滅多にしないですが(笑)。
榎本さんにマフラーを手に取らせ、胸元から笄(もちろん、芹沢鴨暗殺の時に使った、長州藩の旗印が入ったものとは別物です^_^;)を取り出します。
土方「兵が多ければ多いほど、軍勢が広がれば広がるほど、小さな綻びは見えにくくなる……そこが狙い目だ」
土方さんは、榎本さんの手のマフラーをさらに広げさせ、繕い跡のある綻びの部分を指さします。
土方「俺たちはその軍勢の中の、一番弱い一点を突く」
笄を綻びに突き刺し、マフラーを上下に割く土方さん。さらに、笄をくるっと回すサービスも見せ、プレゼンテーションとしては抜群の演出です(^^)。
土方「信長が今川勢を破った時と同じだ。少ない兵しか持たない軍勢は、守るのではなく、その少なさを利用して攻めるしかない」
榎本「それで桶狭間か」
模型に戻る土方さん。
土方「ここに土地の者しか知らない間道がある」
富川方面への抜け道を示す土方さん。
土方「この間道を一気に走り抜けて、全軍の背後に回る。そして一気に富川の本陣に突っ込み、(笄で敵将に見立てた将棋の駒を突き刺す)敵の頭の首を取る」
榎本「……参謀、黒田了介」
土方「ああ」
この「ああ」と返事する時の表情が、なかなか不敵です。
榎本「兵は」
土方「五十で十分。むしろ少ない方が小回りが利く」
榎本「(頷く)」
土方「敵は大軍であるがゆえに、指揮の乱れは命取り。黒田を斬ったら、即座に俺たちはとって返し、背後から敵を切り崩す。榎本さんは敵の乱れを見たら、五稜郭から攻めて出てくれ……これが、あんたの好きなサンドウィッチだ。敵は前後から挟まれた形になる」
榎本さんの好きなサンドウィッチを口上の中に織り込む土方さん、言葉巧みです。
榎本「なるほど」
さらにダメ押しをかける土方さん。
土方「そこまで来れば、もう戦は数じゃねえ。理屈でもねえ。勢いのある方が勝つって寸法だ」
榎本「……素晴らしい」
抜群のプレゼンテーションに、榎本さん感銘!
土方「気に入ってくれたかい」
榎本「きみの話を聞いていると、勝てそうな気がしてきたよ」
土方「悪いが、俺はこっちに来て、陸《おか》の上ではまだ一度も負けていないんでね」
作戦内容と口上の巧みさで榎本さんを感銘させた上に、「陸の上ではまだ負けていない」という戦上手さをアピール……お見事としか言いようがありません(笑)。
榎本「……よく思いついたね」
と、土方さんを労う榎本さん。
土方「奴らは、薩摩だと長州だの土佐だのが混ざってできた鵺だ。その化け物を最後に人が倒す」
榎本「何の話だ」
土方「……(ふっと我に返って)忘れてくれ」
この土方さんの独り言ですが、榎本さんに自分の作戦案を伝え、賛同を得ているうちに、だんだん山南さんと策を練っていた頃の気分になっていたんでしょうね。試衛館時代のエピソードでは、得意げに鵺の話をしていたところ、山南さんに「鵺は、人の心がつくった想像上の生き物なんじゃないのかなあ」と言われてムッとしていた若き日の土方さん(そして、土方さんのムッとした表情に気付いていない山南さんの天然っぷりも山南さんなのですが……)ですが、鵺より怖いのは人だと言った山南さんの言葉を、ここで受け容れています。
土方「(榎本さんに向き直って)……総裁」
榎本「何だ、改まって」
土方「この戦、勝てる」
榎本「……生きるための戦いだな」
土方「ああ、生きるための」
頷き合う二人。
最後はお互いの共通の目標を確認して、合意……「コンフリクトのマネジメント」的には、満点のプレゼンテーションによる説得、そしてダメ押しの共感的な締めでした。心を通い合わせ、お互いの思いを確認しながら新たな目標に向かっての行動計画を合意し合うプロセス、素晴らしいです。
……そろそろ大鳥さんが出てくる場面になりますから、一旦ここで切ります(笑)。以降の遣り取りはむしろ土方さんvs大鳥さんの第2ラウンドと位置づけたいので。ここでまた、小休止です。
第4ラウンドでは、土方さんが「降伏はするな」「俺はあんたの夢に賭けることにする」と強い意志を示して、降伏を決めていた榎本さんの心を動かします。「いいか、これは死ぬための戦いではない。これから俺たちは生きるために戦うんだ」……理屈で説得するというよりは思いの強さで人の心を動かす、というところに土方さん本来の持ち味が見られます。そして、コンフリクトのマネジメント的には、降伏するかしないかという意見の対立を超えた「諦めない」という上位目標を設定することによって協力し合えるところを探っていく土方さんのアプローチが成功しつつあります。
では、山場を越えての第5ラウンド、軍議する土方さんと榎本さんを中心に、土方さんのコンフリクトマネジメントを分析します。すでに土方さんと榎本さんの間では降伏をめぐる意見の対立は解消され、新たな目標=「『新しい国』の夢を諦めずに戦い続ける」に向かって協力が始まっています。
(8) 土方さんvs榎本さん(第五ラウンド)
作戦会議室で「勝ちたい……勝ちたい……」と呟いていた大鳥さんが榎本さん・土方さんの姿に気づき、ジオラマテーブルの下に隠れている状態(笑)で、榎本さんと土方さんの「軍議」が始まります。
榎本「葡萄酒でも飲むかね」
土方「結構。戦に勝ったら、存分に飲ませてもらう」
榎本「もしよかったら、サンドウィッチでも」
土方「話しかけないでもらえるか」
榎本「……失敬」
土方さんの「ここは俺に任せてくれないか」という申し出に「中身次第だな」と総裁らしく保留の判断をしている榎本さんではありますが、気持ちの上では土方さんにすっかり打ち解けてしまっています(笑)。親しさの気持ちを込めて葡萄酒だのサンドウィッチだのをさらに振る舞おうとするですが、作戦立案に集中したい土方さんはけんもほろろです。
榎本「(椅子に腰掛けて)きみは京にいた頃も、そうやって策を練っていたのかい」
土方「ああ」
榎本「池田屋で、大勢の不逞浪士を捕縛した時も?」
土方「あの頃は、俺と山南さんで考えていた」
榎本「(立ち上がる)誰だ?」
土方「江戸にいた頃からの仲間さ。俺が全体の策を立て、そいつが細かい陣割りをする。それが、新選組のやり方だった」
山南さんがそういう役割を担っていたのは上京してから最初の一年間だけだったのですが、土方さんには山南さんとのパートナーシップを「それが、新選組のやり方だった」と断言できるだけの重みを持っていたのですよね……相馬君に「ああ、法度に背いて切腹させられた人ですよね」と言われた時も、土方さんは「……山南総長は、武士の中の武士だ」と最大限の賛辞をもって応じました。土方さんの心における山南さんの存在の重みゆえの、次のやりとり。
榎本「では、今は私がその山南さんの代わりを務めるとしよう(模型を見つめる)」
土方「(榎本さんを見やって)無理だ」
一言の下に「無理だ」と言われて、驚愕し(苦笑)落ち込む榎本さん。とぼとぼと模型の前を離れますが、模型を見つめながら土方さんが言い添えます。
土方「いいんだよ、あんたはあんたで」
不器用な土方さんにしては、なかなかに思いやりのある言葉です。そして、第2ラウンドで「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」と批判した榎本さんに対して「いいんだよ、あんたはあんたで」と、榎本さんの人となりを受け容れ、「馬鹿なろまんち」ぶりを評価しているところが、このドラマにおける土方さんの変容です。
そして、模型を見つめたまま、ふっと笑う土方さん。
榎本「何がおかしい」
……はは、「いいんだよ、あんたはあんたで」と言った直後にふっと笑う(というか、「ぷっと吹き出す」感じですか^_^;)土方さんに、自分が笑われたと思ったわけですね。
土方「いちいちうるさいな」
榎本「すまん」
土方さんに「うるさい」と言われて、しょげる榎本さんがラブリーです。榎本さんにしてみたら、自分が諦めた「新しい国」の夢への情熱を再燃してくれた土方さんに親愛の気持ちを表したくて土方さんに話しかけ続けているのですが、作戦立案に集中したい土方さんには煩わしいんですな(苦笑)。しかし、土方さんが「いちいちうるさいな」とツッコミを入れるのは、試衛館の頃の仲間に対するのと同じくらい、榎本さんに心を開いているところの現れでもありますよね。お互いにとって心地の良い距離を試行錯誤で量っていく「ヤマアラシのジレンマ」を思わせる遣り取りでもあります。
土方さんはそこで相手を突き放すのではなく、模型の地図を指さして自分の心境を説明します。
土方「さんざん見慣れた地図なのに、おかしなもんだ」
榎本「どういうことだ」
土方「俺はこれまで、死ぬための策しか考えてこなかった。今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」
すでに望楼でも「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」と自分の心の秘密を榎本さんに打ち明けている土方さんですが、さらに今回は、そのことに加えて「今は生きるために」と自分の目標が変わっていることを伝えています。榎本さんが諦めていた「新しい国」の夢をもう一度目指すために自分も変容していることを伝えたいのですね。
このあたりが「コンフリクトのマネジメント」的には、とても重要なところだと思います。「諦めない」「新しい国の夢をもう一度目指す」「生きるために戦う」という、榎本さんと共感しあえる上位目標を設定し、かつ、その夢の実現のために自分の態度も変える、それを示す。建設的なコンフリクト解消のために必要な手順を、土方さんはきちんと踏んでいます。
そして、おそらくは、この述懐をする直前には、もう頭の中で作戦はできていたのではないかと思います。作戦が頭の中で形になっていない時に「今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」とは、なかなか言えないだろうと思うので。
この第五ラウンド、すでにコンフリクトは解消しているという意味で勝敗をつける意味はない場面なのですが、「コンフリクトのマネジメント」能力の発揮という点で土方さんに満点をつけたいところです(^^)。
土方「……決まった」
模型のテーブルを回って、榎本さんと向かい合う土方さん。
土方「ではこれより、軍議を行う」
榎本「……お願いします」
土方「名付けて、『桶狭間戦法』」
榎本「桶狭間か。大きく出たな」
どんな作戦が土方さんの口から出てくるものかと緊張していた榎本さんが、驚きと共に笑みを浮かべます。
土方「これまでの策は、攻めてくる薩長に対し、我らは常に守る一方だった。確かに箱館は守りに関しては万全だ。南には天然の城壁箱館山。箱館湾には軍艦がある。そして、町を見渡せるこの陣には新選組がいる。これだけ守りが堅ければ、敵は易々と上陸はできない。ここまではいいか」
榎本「ああ」
土方「だが、もちろん敵も同じことを考えている。そこで奴らは三つに分かれて、北と西から取り囲むように攻めてくる。奴らが目指すのはこの五稜郭」
土方さん、白いマフラーを首から取って地図の上に広げます。
土方「明日の総攻撃で、奴らは帯のように連なって、ここを襲うだろう」
敵軍に見立てたマフラーを模型の五稜郭目がけて寄せます……小道具も使った、うまいプレゼンテーションです(^^)。
榎本「どう防ぐ」
土方「防がない」
榎本「は?」
土方「敵は一万近い大軍勢だ。数で押しつぶすように攻めてくる。数に対して数でぶつかれば、少ない方が負けるに決まっている」
榎本「それで?」
土方「だが、数を破るたったひとつの方法がある」
榎本「(焦れて)……気を持たせるな」
さすが元薬屋の土方さん、人を引きつける口上は上手いんですよね……気むずかしいんで滅多にしないですが(笑)。
榎本さんにマフラーを手に取らせ、胸元から笄(もちろん、芹沢鴨暗殺の時に使った、長州藩の旗印が入ったものとは別物です^_^;)を取り出します。
土方「兵が多ければ多いほど、軍勢が広がれば広がるほど、小さな綻びは見えにくくなる……そこが狙い目だ」
土方さんは、榎本さんの手のマフラーをさらに広げさせ、繕い跡のある綻びの部分を指さします。
土方「俺たちはその軍勢の中の、一番弱い一点を突く」
笄を綻びに突き刺し、マフラーを上下に割く土方さん。さらに、笄をくるっと回すサービスも見せ、プレゼンテーションとしては抜群の演出です(^^)。
土方「信長が今川勢を破った時と同じだ。少ない兵しか持たない軍勢は、守るのではなく、その少なさを利用して攻めるしかない」
榎本「それで桶狭間か」
模型に戻る土方さん。
土方「ここに土地の者しか知らない間道がある」
富川方面への抜け道を示す土方さん。
土方「この間道を一気に走り抜けて、全軍の背後に回る。そして一気に富川の本陣に突っ込み、(笄で敵将に見立てた将棋の駒を突き刺す)敵の頭の首を取る」
榎本「……参謀、黒田了介」
土方「ああ」
この「ああ」と返事する時の表情が、なかなか不敵です。
榎本「兵は」
土方「五十で十分。むしろ少ない方が小回りが利く」
榎本「(頷く)」
土方「敵は大軍であるがゆえに、指揮の乱れは命取り。黒田を斬ったら、即座に俺たちはとって返し、背後から敵を切り崩す。榎本さんは敵の乱れを見たら、五稜郭から攻めて出てくれ……これが、あんたの好きなサンドウィッチだ。敵は前後から挟まれた形になる」
榎本さんの好きなサンドウィッチを口上の中に織り込む土方さん、言葉巧みです。
榎本「なるほど」
さらにダメ押しをかける土方さん。
土方「そこまで来れば、もう戦は数じゃねえ。理屈でもねえ。勢いのある方が勝つって寸法だ」
榎本「……素晴らしい」
抜群のプレゼンテーションに、榎本さん感銘!
土方「気に入ってくれたかい」
榎本「きみの話を聞いていると、勝てそうな気がしてきたよ」
土方「悪いが、俺はこっちに来て、陸《おか》の上ではまだ一度も負けていないんでね」
作戦内容と口上の巧みさで榎本さんを感銘させた上に、「陸の上ではまだ負けていない」という戦上手さをアピール……お見事としか言いようがありません(笑)。
榎本「……よく思いついたね」
と、土方さんを労う榎本さん。
土方「奴らは、薩摩だと長州だの土佐だのが混ざってできた鵺だ。その化け物を最後に人が倒す」
榎本「何の話だ」
土方「……(ふっと我に返って)忘れてくれ」
この土方さんの独り言ですが、榎本さんに自分の作戦案を伝え、賛同を得ているうちに、だんだん山南さんと策を練っていた頃の気分になっていたんでしょうね。試衛館時代のエピソードでは、得意げに鵺の話をしていたところ、山南さんに「鵺は、人の心がつくった想像上の生き物なんじゃないのかなあ」と言われてムッとしていた若き日の土方さん(そして、土方さんのムッとした表情に気付いていない山南さんの天然っぷりも山南さんなのですが……)ですが、鵺より怖いのは人だと言った山南さんの言葉を、ここで受け容れています。
土方「(榎本さんに向き直って)……総裁」
榎本「何だ、改まって」
土方「この戦、勝てる」
榎本「……生きるための戦いだな」
土方「ああ、生きるための」
頷き合う二人。
最後はお互いの共通の目標を確認して、合意……「コンフリクトのマネジメント」的には、満点のプレゼンテーションによる説得、そしてダメ押しの共感的な締めでした。心を通い合わせ、お互いの思いを確認しながら新たな目標に向かっての行動計画を合意し合うプロセス、素晴らしいです。
……そろそろ大鳥さんが出てくる場面になりますから、一旦ここで切ります(笑)。以降の遣り取りはむしろ土方さんvs大鳥さんの第2ラウンドと位置づけたいので。ここでまた、小休止です。
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