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ビッグコミックオリジナルで連載されている尾瀬あきら『どうらく息子』が連載100回&単行本第10集ということで記念落語会となりました。
冒頭のトークによると、尾瀬あきらさんは友人知人を20人ぐらい集めてらくごカフェで開催する当初構想だったようですが、監修の柳家三三さん、慣習に声をかけられていたけど実現しなかったらしい談春さんのビックネームが収容千人規模のよみうりホールを満員御礼にしました。
初めて落語会にお誘いした友人、前日に『どうらく息子』10巻を読んで予習してきたとのこと。素晴らしい、そのパッションがあれば今日の落語会は十分に楽しんでいただけるでしょう。
鼎談
当初20分の予定が50分に伸びるほどトーク炸裂。大ネタ2本を抱えている上、かの小三治師匠も超えられなかった「8時50分」終演の壁(延長できない)がよみうりホールに。トーク内容はあと1時間でも飽きなかったくらい弾けてました。
鰍沢/三三
難易度の高い屈指の大ネタ、すでに三三師匠が何箇所かで口演していたのは知っていましたので、とても楽しみにしていました。四十代で『鰍沢』を聴かせる落語家さんは限られてます。
突然の雪が旅人を深い山中に迷わせる情景の描写、旅人に一夜の宿を提供する苫屋の女主人がいろりの火に浮かび上がる様子、女主人が勧める玉子酒で暖を取った旅人が疲労と眠気に襲われて床をとる中で展開する、旅人に手持ちの酒を飲ませてしまったので近所に酒を買いに行くお熊→お熊とすれ違いに帰宅した亭主がお熊の不在と飲み残しの玉子酒に悪態をつきながら飲み干す→帰宅したお熊、迎え入れようとして倒れ、痙攣する亭主→お熊が旅人の旅銀を奪おうと玉子酒にしびれ薬を盛っていたことを告白、こときれる亭主→逃げ出す旅人、しびれ薬に苦労しながらも見延参りのため盛っていた毒消しでことなきを得る→しかし道に迷って鰍沢の川にそそり立つ断崖絶壁へ→亭主の仇討ちと口封じのために鉄砲を持ったお熊が旅人に照準を向ける、という火サスなみのサスペンス展開。そして、三三さん演じるところの「月輪のお熊」「鉄砲のお熊」の妖艶な悪女ぶりが際立ちます。いやー、はらはらどきどき。
紺屋高尾/談春
談春版のマクラはおなじみ「日本に"I love you"という言葉が入った時、二葉亭四迷という作家は「あなたとならば死んでもいいわ」と訳したそうでございます」。
そこまで言って突然「業務連絡」のアナウンス。トークタイムに行った抽選で案内した当選者の座席番号は実在しないものでした……(汗)。
大爆笑させて、そこから「紺屋高尾」の世界に全員を戻してくれる談春師、いつも以上に久蔵と親方のやりとりは軽妙で、時々出てくる女将さんも久蔵の縁談を進めたがる取り持ち婆ぁで亭主に知恵をつける(でもダメだと白を切る)強烈なキャラクター。実直で働き者の紺屋の職人久蔵が、兄弟子に連れられて入った吉原で見た花魁道中で、最後に登場した当時全盛の花魁高尾に一目惚れ。現実的にあきらめさせようとする親方に失意で生きる気力をなくす久蔵。しかたなく親方は一生懸命に三年働いて金を貯めろと励ます(そのうちに忘れたりあきらめたりしてくれることを願いつつ)。しかし久蔵は三年経ったら高尾に会えるという思いだけで働きづめになり、三年で十八両二分を貯めてしまう。親方は、あと一両八分貯めたら、親元にいったん帰して晴れ姿を見せろ、それで千葉湊に住むのもいいが江戸に戻りたかったら久蔵に嫁を取らせて夫婦養子とし、店を継がせてやるという。しかし、久蔵はいまだ忘れられない高尾太夫に一目でも会えることを願って十五両を使うことを選ぶ。親方は長屋の裏手で医者としての腕は藪中の藪だが贔屓筋の付き合いで吉原は裏も表も知り尽くしているという藪井竹庵に相談する。竹庵の入れ知恵で、まげや着物を若旦那風にあらため、野田の醤油問屋の若旦那というふれこみで茶屋にあがろうということに。紺屋職人の証である藍色に染まった爪や指先は決して一目にださないこと。運よく、先客の突然のキャンセルで身が開いた高尾太夫は、いつも気の張るお客様ばかり相手をしているので「たまにはそのような初心な若旦那はんのお相手をしとおす」と久蔵に遭ってくれた上、初会は口もきかないというのが普通の作法であるにも関わらず、床をともに過ごすことに。高尾に身も心も惚れてしまった久蔵は、「今度はいつ来てくれるんざます」との問いかけに嘘がいえず、自分の身分を明かし、身を偽ったことを詫び、また働いて金を貯めて会いに来ますと頭を下げる。高尾は、嘘偽りの多い吉原に稀な純情さや一途さに心を打たれ、「来年三月十五日に年季《ねん》が明けたらぬしのもとにいきとうおざんすが、わちきのようなものでも女房はんにしてくんなますか?」と。そして年明けて三月十五日、眉を落として鉄漿《かね》で歯を染め、島田髷と質素な着物と職人の女房にふさわしい姿に身を変えた高尾が、吉原から引き手駕籠に乗って、神田お玉が池の久蔵のもとへやってくる。親方から暖簾分けしてもらい、高尾と夫婦になって紺屋をはじめた久蔵。吉原で全盛の花魁だった高尾が紺屋のおかみさんになって接客や染め物の手伝いをするという江戸中の男たちの噂になり、紺屋は大繁盛。久蔵と高尾は子宝にも恵まれ、末永く幸せに暮らしたそうです……。
今日の談春さんはところどころに時事ネタのくすぐりを入れたり、三三「鰍沢」の出来を褒めてちょっと悔しがったり、いつもより軽めで笑いの多い仕上がりで聴かせてくれました。
今年はまだ26席しか聴いていないのですが、トーク、両師匠の大ネタ、すべて今年一番の高座でした。会場との一体感も素晴らしく、落語の神様がどこかから下りてきたような一夜。
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