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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
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 「『新選組!!』に学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント」も、とうとう「その10」に突入してしまいました^_^;。講師自身が予定していた以上に長くなってまして(汗)、皆さんが居眠りこいてないかと、ちょっと心配です(^^ゞ。



 第2ラウンドの勝敗は、あえてつける必要はないでしょう。ディスカッションの勝敗ではなく、土方さんも榎本さんに本音で語り合い始めたことが、このラウンドの重要なところですから。



 それでは、第3ラウンドの分析、やってみますね。望楼に向かうシーンからです。



(6) 土方さんvs榎本さん(第三ラウンド)



 望楼に向かう通路で、榎本さんは土方さんに話しかけます。



榎本「君は、案外リアリストなのかも知れないね」

土方「りありすと?」

榎本「君のように、夢に溺れず、現実をしっかりと見つめる人のことだ。確かに戦場においては、的確な状況の判断が何よりも大切だ。夢を追っている場合ではないな」

土方「……」

榎本「しかし私は違う」

土方「……あんたはなんだ」

榎本「間抜けなロマンチストさね」



 対立から始まった第1ラウンドで榎本さんが切腹の覚悟を土方さんに語り、土方さんもまた「だったら俺はどうしたらいい!」と動揺を見せることで対立関係が変わりました。第2ラウンドではワインを傾け合ってラポールを築き、自分が相手に対して思っていることをかなり本音の部分で伝え合うようになりました。自分自身について語ること、自分が抱いている感情を相手に伝えることを心理学では「自己開示」といいますが、この場面では榎本さんがさらに自己開示を続けています。



 ここでは「ロマンチスト」に「間抜けな」という形容詞をつけているところがポイントでしょうね。第2ラウンドで土方さんに「俺ははっきり言って、あんたに失望した」「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」と言われた榎本さんは、自分が自分をどう見ているのかを土方さんに伝えようとしています。新しい国を造るという、土方さんの目には「無茶な話だ」と思えた構想を本気で実現しようとした自分の「ロマンチスト」ぶりに、その夢が破れたことに対する思いを「間抜けな」と自嘲のこもった言葉で表現しているのだと私は思いますが、いかがでしょうか。



 階段を上りながら、薩長のやり方を「徳川の力を奪い取り、その財産を山分けしてるだけじゃねえか」と批判する榎本さん。

 望楼から箱館の夜景を土方さんに示し「見たまえ、この豊かな広々とした土地を。水は清く、土も良く、そしてその下には鉄や銅や石炭が計り知れぬほど眠っている。この地を踏んだ時、私はここなら新しい国が生み出せるに違いないと思った」「(私は)およそサムライらしからぬ侍だったが、それでもあの日は気持ちが高ぶったものだ。薩長に張り合って、この地に新しい国を造る、我ら自身の手で」と、失われた夢を語る榎本さんの表情は、確かにロマンチストです。



 そして、失われた夢を語る榎本さんの背後に立っていた土方さんは、榎本さんの横に移りながら、ぽつりと言います。

土方「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」

土方「その横であんたは今の今まで、本気で薩長に勝つつもりでいたのか」

榎本「もちろんだ」

土方「……あんた、馬鹿だ」

榎本「お褒めの言葉と受け取っておくよ」

 この一連の遣り取りは、土方さんと榎本さんの関係を変える決定的な場面だと思います。第1ラウンドで榎本さんに「あんた、死にたいんだろ。一日も早く、戦でさ」と言われてから、土方さんが自分の口ではっきりと榎本さんの見立てを初めて認め「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」と語ります。土方さんにとっては最大の自己開示と言える、本音の本音です。土方さんの心中を推し量れば、尾関や島田ら古参の新選組隊士たちですら気付いてなかった土方さんの心の奥を見抜いて言い当てた榎本さんだから、また、部下の将兵たちの命と引き換えに切腹する覚悟ができる榎本さんだから、自分の内心のコンフリクトの一端である一日も早く戦場で死にたい気持ちをさらけ出すことができたのだと思います。

 また、榎本さんに対して「その横であんたは今の今まで、本気で薩長に勝つつもりでいたのか」と問いかけるのは、相手をもっとよく理解したいと思う土方さんの気持ちの表れですね。最前線で活躍しながら勝敗は決したと見抜き、死に場所を求める土方さんを将のひとりとして抱えながらも、土方さんは信じていなかった「新しい国」の夢を本気で信じていた榎本さんに、この瞬間に土方さんは「もうひとりの馬鹿なろまんち」を発見しました。

 そして、土方さんの「……あんた、馬鹿だ」に、榎本さんは「お褒めの言葉と受け取っておくよ」と、実に的確に理解しています(笑)。榎本さんの賢さと懐の深さを印象づける言葉でもありますね。

 この場面から徐々に、榎本さんと土方さんそれぞれのコンフリクト(この時点では、榎本さんはまだ「終わった」と諦めているのですが)が解消に向けて動き出します。そのきっかけが、榎本さんにとっては失った夢についての告白であり、土方さんにとっては死に場所を求めていたという本音の本音の告白である、という点は、示唆に富んでいると思います。



 しかし、一方で、榎本さんは自称「間抜けなロマンチスト」ですが、夢破れた現実に向かい合う勇気も持っています。

榎本「しかし夢は醒めた。醒めたからには、私は潔く白旗を揚げる。これからは、私の夢に力を貸してくれた人々をいかに救うかが、私の仕事だ」

土方「……」

 この場面で土方さんは何も言いませんが、何を考えていたのでしょうか。根拠なしの直感ですが、榎本武揚という人物に「一時でも近藤勇を重ね合わせていた自分」の気持ちが何であったのか、榎本武揚の何に近藤勇を重ね合わせて気持ちを動かされたのか、をもう一度振り返っていたのではないかと思います。



 ところで土方さんは「『ろまんち』って、一体何のことだ?」と疑問に思わなかったのでしょうかね(苦笑)。まぁ「リアリスト」については榎本さんに解説されてますし、それに対比された形で榎本さんは自分を「ロマンチスト」だと言い、続けて破れた夢の話をしていますから、生きた知恵で状況判断に優れた土方さんになら、「ろまんち」の意味を嗅ぎ取ったことだと思いますが。



 閑話休題。榎本さんは「実を言うとね」から、破れた夢の話の続きで、その夢の中で自分がどうなりたいかを語ります。

榎本「実を言うとね、私は、戦が終われば、この地で牛を飼うつもりでいたんだ」

土方「うし……?」

榎本「ああ。何万頭もの牛だ」

土方「……でかい話だな」

榎本「牛の乳を飲んだことがあるかね」

土方「……ない。飲みたくもない」

榎本「西洋人にとっては、それは大きな滋養の素だ。そして牛の乳からはバターやチーズがつくられる」

土方「……ちーず?」

榎本「さっき食べたサンドウィッチの中に挟まっていたものだ」

土方「……牛の乳だったのか」

榎本「うまかったろ」

土方「……ああ」

榎本「やがてこの国の人々も、それを食するようになるだろう。その時のために私は、この土地に牧場《まきば》をつくり、牛を育てるつもりでいた。この広い大地を開拓し、牧畜や農業を盛んにして人々を豊かにする。そしてやがては薩長がつくる国よりも、はるかに我々のつくる国を素晴らしいものにしてみせる」

土方「……」

 榎本さんにチーズの原料が牛の乳だったと知らされてちょっと驚く土方さん。愛読するマンガ『風雲児たち』で、漂流してロシアに辿り着いた大黒屋光太夫たちの一行がロシアの住民に差し出されたシチューを喜んで食べ、後でシチューの材料が牛の乳だと知って動転する場面を思い出しました……牛乳を口にしていたとは思いもよらなかった土方さんですが、案外冷静に受け止めているのは、新しいものでも理にかなったものは受け容れるという気風からでしょうか。

 まぁ、人に対してあまり素直になれない土方さん(苦笑)が榎本さんに「うまかったろ」と聞かれて「……ああ」と素直に答えるぐらい、その時のチーズが美味しかったからだと思います(爆)。

 チーズ談義はさておき、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくるという榎本さんの具体的な夢は、土方さんの心に響きます……もともと、抽象的な思想よりも、具体的な行動や形で思いや気持ちを表すことの方が、土方さんにはしっくり来るんでしょうね。そして、新しい国という夢の中で、榎本さんが、権力の座に就くことではなくて、人々のために牛を飼ってバターやチーズをつくるという素朴なこと願っていたということが、土方さんの心に触れたと思います。



 しかし、土方さんの心を動かした榎本さんの夢は、榎本さん自身が打ち消します。

榎本「……すべては、夢に終わった」

土方「……」

 ただ、榎本さん自身が諦めた自分の夢に、土方さんは手がかりを見いだしたように、視線を動かしています。



 そこにやって来た大鳥さんが榎本さんに、戻ってきた将兵が降伏の噂を聞いて先のことを不安に思っているのでスピーチをして欲しいと依頼します。榎本さんは快く引き受け、土方さんに「君も付き合ってくれ」と言います。土方さんは無言で了解します。

 「君も付き合ってくれ」と言った榎本さんの気持ちは、どんなものだったんでしょうかね……これまた直感ですが、自分が諦めた「新しい国」の夢を再び思い出し、しかしそれを葬らねばならない立場を思い出して、土方さんに立ち会ってもらいたいと思ったのではないかと私は思います。



 第3ラウンドも、コンフリクトのマネジメントという観点から見たら、榎本さんと土方さんには勝敗ということはないと思います。しかし、第2ラウンド以上に、お互いの人となりを知り合った(特に、土方さんが今まで知らなかった榎本さんの「新しい国」に賭けた思いのたけを知った)ことが、ふたりのコンフリクトにとってひとつのブレークスルー(突破口)の種を蒔いたと言えそうです。



 ……また、長々と語ってしまいましたね(汗)。では、また、小休止と致しましょう。



☆★☆★



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9

 その10 本稿

 その11

 その12

 その13

 その14
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