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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
 定期購読しているビジネス雑誌『WO$KS』(リクルート)最新号のある対談で、江戸時代の奉公人制度について言及されていました。

 大店《おおだな》の奉公人制度、少年期にいとう松坂屋に奉公したと伝わる土方さんのファンにはご存じのことも多いかと思いますが……うまく整理されているので、自分用のメモも兼ね、一部引用して紹介します。

対談「江戸~昭和恐慌 : 時代に必要な変化を不況が否応なしに促す」
斎藤 修氏(一橋大学経済研究所 教授)× 大久保幸夫(ワークス研究所 所長)

大久保: (中略) そこで改めて押さえておきたいのは、戦後に発達した日本の雇用システムの原型が、いつの時代に生まれたのか、という点です。先生は、その原型が江戸時代の商家が持っていた奉公人制度にある、というお考えですね。

斎藤: ええ。江戸時代に多くの人材を雇用していた企業は非常に少ないのですが、それでも、「三井家」(呉服商)、「鴻池家」(両替商)などは、現代の中堅企業に匹敵するほどの規模があったと言われています。しかも、世界のほとんどの製造業が一工場一企業というシンプルな構造をとっていたにもかかわらず、複数の支店を持つ多店舗構造であったということです。

大久保: そうした企業構造は、雇用の仕組みにも影響していますね。

斎藤: 当時の採用はおおまかに言うと、長期雇用を前提とするキャリア組と下男・下女などノンキャリア組に分かれていました。10代前半で丁稚に入るキャリア組は、17、8歳で手代に昇進します。そこからさらに優秀な人材が選抜されて、30代~40歳にかけて番頭になる仕組みです。興味深いのは、当時からキャリア組は現地採用せず、すべて本店で採用していたことです。つまり、多店舗といっても、店舗ごとに独自に採用する仕組みではなく、中央集権的な人材の採用とジョブローテーションによる育成の仕組みが存在していた。

大久保: 出世競争も非常に厳しかったようですね。

斎藤: 記録を読むと、丁稚から手代に昇進するまでに約半数が脱落。番頭にまで上り詰めるのは、現代の大企業に入社した新入社員が役員になる以上に難しかったと思います。

大久保: 江戸の後期には、度重なる飢饉が起こり、経済も停滞していきます。不況の時期、奉公人制度はどのように変化したのでしょうか。

斎藤: 経営判断としてまず、拡大路線から既存の店舗だけでどうやりくりするのかという戦略の転換があったように思います。その結果、年季奉公が明けて10年すると許されていた「のれん分け」も、次第に許されなくなっていきます。

大久保: つまり、不況をきっかけに独立ではなく、内部昇進して番頭になることが最終目標になっていくわけですね。当時、解雇された人々はどこに吸収されたのでしょうか?

斎藤: 資料がないので想像するほかないのですが、おそらく親元に帰って家業を手伝ったりしていたのではないか、と考えられます。

大久保: 当時、中途採用は非常に少なかったですからね。

斎藤: ええ。「中年者」と呼ばれて、あまり重要な仕事は任せてもらえませんでした。ただし、中には例外もいます。例えば、三井家の重鎮として知られた三野村利左衛門。幕末から明治にかけて、江戸時代に隆盛を誇った大店が次々と潰れ、あるいは吸収されていきますが、三井が生き残ったのは、この三野村の功績が大きかったと言われています。危機の時代には、新しいアイディアを入れるという意味で、中途採用は重要なのかも知れません。

大久保: なるほど。丁稚奉公による内部昇進型のシステムで組織は安定したけれども、環境変化への適応力は弱まった。その幕末の危機を救ったのはが、数少ない中途採用者だった、ということですね。


 土方家に伝わる伝承では、土方さんは二度奉公(いとう松坂屋、大伝馬町の木綿問屋)を経験したことになってましたね。上記の記事を読んだ感想は、以下(思いついたまま、つらつら書いてますので、独り言モードです)。

・基本的に「本店採用」なんですよね、松坂屋の場合、やはりキャリア組の主流の出身は名古屋~伊勢方面となるのかな? キャリア採用となると人物への信用も重要となるから縁故重視(親戚筋の紹介となると悪いことをしたら親戚筋に迷惑がかかる、と心理的に歯止めがかかる……ってところでしょうか)。いとう松坂屋の場合、上野広小路の店(リンク先は松坂屋の歴史のページ)は江戸の店を買収したという経緯がありますが、だからこそキャリア組は本店採用の人材を送り込むことが多かったと思うのですよ。

・その中で、土方さん(リンク先は松坂屋の歴史のページ)は数少ない現地採用のキャリア組だったんじゃないでしょうか。「入社」できるだけでも、縁故関係に相当強力なルートがあったのでは。直感的には、日野寄場名主の佐藤家、小野路の小島家などの親戚筋に加えて、他にも縁故があったんじゃないかと感じます……うーん、八王子が関東の生糸の集積地であったことが土方さんの親戚筋につながれば、全国的な呉服商にもコネになりそうな気がするのですが、八王子近辺では親戚筋の話は今までないよね(汗)。

・いずれにしても、土方さんが10歳でいとう松坂屋に奉公に出たというエピソードは、現代の感覚でとらえる以上に、大きくて近代的・合理的な組織に身を置いた経験と置き換えた方がいいのかも(というのは、対談で触れられている通り、当時は製造業も家内工業で、大店のような規模がなかった)。新選組を組織するに当たって土方さんが発揮した組織力って、時代の先を行くものだったんじゃないかという直感は前からあったのだけど、すぐに脱落したとはいえ、やはり商家への奉公経験は大きかったのかなぁ。

・奉公人は手代になるまでに「半数が脱落」とあるけど、今まで読んだ本のどれかのどこかに、脱落者の理由の第一が病気、その次が素行不良だったという記憶(汗)。土方さんは原因不明ながら結果的に「脱走」したってことになるんでしょうか……でも、この記事によると、江戸末期は優秀な番頭に「のれん分け」が許されなくなった不況期で番頭になることが最終目標となったという縮小気味な商家において、出世や生き残りのために内部競争が一層激しくなったり、立場の弱い者に対していじめがあったり、という職場環境になりやすい経済環境であっただろうとは、現在の経済環境からでも想像できるなぁ。

・ふと、松坂屋の歴史ページを見ていたら、「江戸大伝馬町に木綿問屋亀店を開業」って項目……人別帳の記録をもとに4歳~24歳の10年間に奉公に出ていたと近年推定されているそうですが(リンク先はwikipedia「土方歳三」の項)、この記事の中に「17歳の時には松坂屋上野店の支店である江戸伝馬町の木綿問屋(上野店の鶴店に対し、亀店(かめだな)と称された)に奉公に出され」とあるではないですか(汗)。となると、いとう松坂屋の上野広小路店でなく、伝馬町の亀店のキャリア組(ただし現地採用)ってことになるんでしょうか。この辺りについては、今後の史料発見があるといいなぁ……いずれにしても上記の記事でいう「中年者」で採用されたというのは、土方さんの人物や能力以前に、店に対する強力な縁故があったんだろうと想像されますね(うーん、木綿問屋となると、上に書いた八王子を始めとする多摩の「絹の道」ネットワークはあまり関係ないのかも……^_^;)。

・土方さんのその後の人生を考えると、商人として大店の内部競争を勝ち抜いて番頭になることが人生の最終目標にはなり得なかったんだろうなと思う。でも一方で、現代の言葉でいう組織感覚の鋭さって、やっぱり、その時代にしては大規模な組織に身を置いた経験があったからじゃないかな。商家での奉公経験、もっと肯定的に評価してもいいと思う。




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