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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
渡辺保
2017年7月歌舞伎座
海老蔵奮闘劇 

 海老蔵が昼の部の「加賀鳶」「連獅子」、夜の「秋葉権現廻船噺」の通しと

昼夜六役のほとんど出ずっぱりの奮闘興行である。

 なかでもっともいいのは「連獅子」の親獅子。花があって下手揚幕から出た

ところの、余裕のある風格の大きさ、スッキリした姿で堂々たる歌舞伎座の座

頭である。踊りよりも役者の持ち味で見せる花やかさ。

 対する子獅子は巳之助。踊り始めると自然にそっちへ目が行くのは、この人

の踊りのうまさ、体を十二分に使う、その呼吸のよさである。男女蔵、市蔵の

間狂言をふくめて完成度からいえば、昼夜一番の見ものである。長唄は日吉小

間蔵杵屋勝松。

 この前に右団次の「矢の根」、海老蔵初役の梅吉と道玄二役の「加賀鳶」。

 まず海老蔵の梅吉が序幕木戸前一場だけだがいい。上手町木戸を出た梅吉が、

かつて見た十一代目団十郎(当時海老蔵)の、一寸暗い影があって、しかも色

気と貫目があって、さっそうたる梅吉に生き写しである。せりふが歯切れがい

いのは十一代目以上だが、いささか早口すぎて趣に乏しく、引込みももう一杯

しっかりと見せてほしい。

 二役道玄は目がよく利く御茶ノ水の殺しがいいが、世話物の芸としては、滑

稽さ、愛嬌、太々しさはまだ未完成。しかし二ついいところがある。一つは不

思議な実在感があること。もう一つは松蔵に見顕されてから恐れ入るまでのプ

ロセスが、松緑、勘三郎、富十郎、十二代目団十郎ととかく不明確だったとこ

ろがスッキリしてわかりやすいこと。すなわち松蔵がお朝の書置きを偽筆と見

破ったところでの思い入れでこれが強請であることを認めてしまい居直って

「もとより話の根なし草」になるのがハッキリしていてわかりやすい。松蔵の

指摘に思わず口にくわえていて煙管をポロリと宙ぶらりんにしてしまうところ

がそれである。道玄の「もとより話の根なし草」になる心理が手に取るように

明確になる。これは海老蔵が道玄という人間の行為をキチンと組み立てた結果

である。

そのあとの松蔵に御茶ノ水で拾った煙草入れの証拠の書き出しを突きつけられ

る件でも手を大げさに上下しないのがいい。

 対する松蔵は中車。御茶ノ水の幕切れで煙草入れを闇にかざすのに両手で持

つのはおかしいだろうし、姿が悪い。質見世は面白いとまではいかないが一応

の出来になったのは大進歩である。

 この舞台のおさすりお兼で、右之助が二代目斎入を襲名した。

 勢揃いは、右団次を筆頭に、巳之助、男女蔵、亀鶴以下、九団次、市蔵、権

十郎、団蔵、左団次と手揃いである。

 家橘の伊勢屋与兵衛、お朝は児太郎、太次右衛門は辰禄、猿三郎の大家。

 さて、この狂言の傑作は、笑三郎の道元女房おせつである。しっとりした持

ち味、芝居がしっかりしていて役をうまく仕生かしている。

 右団次の「矢の根」は、揚げ障子が揚がったところで、その隈奴をとった顔

が現代的に見えるのが損である。いずれ芸が進めば隈取が生きて輝くようにな

るだろう。明晰な調子の人なのにせりふ廻しに独特の癖があって、そのために

おせち料理の言立てや七福神の店おろしが聞きとりにくいのは残念。

 十郎は笑也、大薩摩文太夫は九団次。弘太郎の馬士がとぼけた味でいい。

 夜の部は竹田治蔵の「秋葉権現廻船噺」を台本作りのベテラン四人織田紘二、

石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎が集まって補綴演出した通し狂言。原作から

かなりはなれての新脚本といってもいい。

 発端に月本始之助(巳之助)と傾城花月(新悟)の駆け落ちを見せ、月本家

所蔵の紀貫之直筆の秘宝「古今集」を盗んだ日本駄右衛門(海老蔵)と女道楽

のため兄玉島逸当(中車)に勘当をうけた玉島幸兵衛(海老蔵二役)の立ち廻

りがある。発端からして海老蔵が二役早替りを見せるが、長い割には手際が悪

く、さして面白くない。

 序幕が月本館。上使(海老蔵)に化けた駄右衛門が月本家の当主月本円秋

(右団次)に切腹を迫る。そこへ玉島逸当がかけつけて上使が偽せ者と見破ら

れるが、円秋にかわって陰腹を切るという大芝居。

 海老蔵は上使に化けて来たところは、烏帽子、大紋まことにすっきりして駄

右衛門が化けているとは思えず、それが芝居だといえばそれまでだが別人のよ

う。正体をあらわしての御簾斬りが見ものというほかはない。駄右衛門はお家

横領の叔父月本祐明(男女蔵)も殺す。この祐明の側室と見えたのは駄右衛門

一味の女賊牙のお才(児太郎)で、駄右衛門の御簾切りのあと緋無垢の着付の

肌脱ぎになると弁慶縞の浴衣という奇抜さで、児太郎がのびのびとやってこの

幕第一の収穫。

 他では右団次の月本円秋が立派。

 しかし盛沢山すぎて役者の芸の仕どころが少ないのが難である。

 二幕目第一場は、始之助と花月の「落人」を真似たような長唄の道行。ここ

といい前幕の月本円秋の切腹で四段目の判官切腹の真似といい、とかく歌舞伎

の名場面をそのまま持ち込むのが問題である。もとを知らない観客にはなんの

ことかわからず、知っている観客にはああ二番煎じかと思われてオリジナリテ

ィを失う。もっと抽斗ばかり使わずに本当の創造をして貰いたい。

 第二場がお才の茶屋で、やっと芝居らしくなるが、かつて前進座で瀬川菊之

丞が哀愁漂う玉島幸兵衛を見せたのとはかわって、ここも「伊勢音頭」の丸取

り。海老蔵の幸兵衛は、福岡貢のようである。三階立ての大仕掛けの道具もさ

して働かずにつまらぬ。

 第三場が秋葉権現、海老蔵の三役中、この大権現が一番の出来。

 勸玄の白狐がパパの秋葉大権現に抱かれて客席を指さしたりするあどけなさ。

「成田屋」の掛け声、拍手、それこそ超満員の劇場も崩れるばかりで、この父

子宙乗りが、この通し狂言第一の見どころになった。

 大詰三場は例の如き大団円。火事場、亡者の襲撃と趣向沢山の割にはつまらず。

 海老蔵が汗みどろになっての大奮闘にもかかわらず、竹田治蔵の原作がよく

ないために以上の結果。海老蔵の努力、意欲は十分わかるが、今後はもっと骨

格のしっかりしたドラマの原作を取り上げてほしい。               

 

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『渡辺保の歌舞伎劇評』http://homepage1.nifty.com/tamotu/

長谷部浩
【劇評79】海老蔵を活かす復活狂言
歌舞伎劇評 平成二九年七月 歌舞伎座夜の部

歌舞伎座夜の部は、海老蔵と長男勸玄が宙乗りを勤める『駄右衛門花御所異聞』を通す。竹田治蔵作の芝居を復活させた台本(織田絋二、石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎 補綴・演出)で、海老蔵の魅力の源泉をよく理解している。
海老蔵がなぜ歌舞伎で突出した人気を誇るのか。それは荒事の暴力性と和事の柔らかさのあいだを自在に横断する力がそなわっているからだ。また、その振れ幅が大きく、まるで目くらましにあっているかのような幻を観客にもたらす。
海老蔵は、発端から廓遊びに入れ込んだ玉島幸兵衛を演じたかと思うと、一転して、日本駄右衛門に替わって骨太な悪党振りをみせる。この振幅こそが海老蔵の真骨頂だろう。
二幕目第一場は、大井川の場。巳之助の月本始之助と新悟の傾城花月の道行。富士を望む街道をいく。この色模様を所作事で見せるだけの力をふたりがそなえつつあるのに目を見張る。
第二場のお才茶屋で児太郎お才の名にふさわしく才気走った女の魅力を発散する。「こんな金の亡者は見たことがない」との評言が笑いを誘うだけのしたたかさがあって、底を割らない。
九團次のお才の兄長六が金をせびるときのせこい様子、廣松の寺小姓采女の色気もよい組み合わせとなっている。弘太郎の駄右衛門子分早飛もさまになっている。海老蔵の幸兵衛は、ここで廻国修業の僧となって現れるが、やがて殺し場になって、血が流れ、小判が手水鉢からあふれ出る。人間の欲望が全開となる場で、『伊勢音頭恋寝刃』の貢が二重写しになる。
海老蔵を中心に、若手の力を引き出す台本と演出で、新しい世代の歌舞伎を予感させる舞台となった。
さて、お待ちかねは、海老蔵と勸玄の宙乗り、私が見た日は客席に親しい人を見つけたのか、勸玄が指をさして海老蔵に知らせ、手を振る余裕を見せた。花道の出といい舞台度胸がよく満場の喝采を浴びた。これも歌舞伎なのだ、いやこれが歌舞伎なのだと実感させれらる。
大詰は、東山御殿の場から奥庭に続き、さらに御殿にいってこいとなる構成。焔に包まれるなか、ゾンビのような亡者があふれる演出がおもしろい。
繰り返しになるが、海老蔵という役者を活かし抜いた舞台であった。
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