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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
どこで間違ったか17時開演を19時開演と思い込んで余裕あると東急本店の書籍コーナーをブラブラしていた。コクーン入り口を17時5分過ぎ覗き込んだら何かシーンとしているので確認したらもう開演してた(汗)。すみません、開演してから係員の方に案内してもらって入場する駄目な客です。。

端の方ではありましたが前から3列目で役者さんたちの生の姿が見えるところでしたので強烈でした。演出上かなり客席側に役者さんが登場することも多かったので七之助さんや梅枝さんが近いところで見られて眼福です。

いいところのボンボンで美男子で放蕩癖がある与三郎が木更津に流れてきて、主ある花のお富と出会って恋に落ちたのが運の尽きで、後はひたすら転落する人生。親分と手下に見つかって袋だたきに遭った。拾ってくれた蝙蝠安とともにゆすりたかりで食べていくしかない。その中でお富と再会し、お富を預かっている旦那は立ち直れるようぽんとお金を出してくれるがすぐにお富と金を使い果たし、次は殺人に巻き込まれる。掴まって島送り。島抜けに成功するものの……。

墜ちていくのに内面がどこかピュアな(お育ちがいいということなのか、ラストで明らかになる素性ゆえのピュアさなのか)与三郎が七之助さんに似合う。

お富さんはひたすら美しい。でも妾稼業で収入のある男に頼らないと生きていけない。与三郎を愛していることと世過ぎの手段は別。

笹野さんのじいやと蝙蝠安の二役も強烈。

歌舞伎じゃなくてコクーン歌舞伎だからか、何か喉にひっかかるような異物感がある。与三郎はリアルの江戸じゃなくて心の中の江戸に焦がれて死んだのかな。。


渡辺保
2018年5月コクーン歌舞伎孤独な与三郎
 エピローグの与三郎の姿が目に沁みる。

晴れ渡った青空、白い雲の湧く下で、たった一人七之助の与三郎が舞台に座っ

て、天に向かって「しがねえ恋の情が仇」という名セリフをつぶやく。

 周囲には誰もいない。お富も安も多左衛門も。むろん装置もない。ついさっ

きまで舞台いっぱいにひしめいていた捕り手の無数の提灯も当時は世界第一の

百万都市であった江戸の群衆もここにはいない。与三郎はたった一人である。

たった一人にならざるを得ない運命を生きて来たからである。人間は本来孤独

だというような話ではない。与三郎だけが一人ぽっち。痛切な孤独感である。

それが身に沁みる。

 こういう与三郎をはじめて見た。原作は「与話情浮名横櫛」であるが、こう

いう与三郎の肖像は、原作にも歌舞伎の舞台にもない。串田和美(演出・美術)

木ノ下祐一(補綴)のつくった「異本」である

 もう一つ私が感心したのは、与三郎の「傷」である。今度の本では二幕目嬲

り斬りにあった与三郎が蝙蝠安に助けられてコンビになる。その時、安はこの

与三郎の傷を強調して人を脅かすことを思いつく。どんなに強がっている人間

も与三郎の傷を一目見るとギョッとしてたちまち安の要求をのむ。余りに無惨

な傷跡だからある。原作では与三郎自身が源氏店で「傷がもつけの幸いに」脅

迫強請をしたといっているのと、次の和泉屋の店先で手代たちがおびえる件り

が書かれているだけだが、今度の台本ではこの傷を看板にした脅迫が無言のう

ちにうまく描かれていてその後にいつもの「源氏店」になる。つまりこの傷の

恐ろしさが強調されている。原作を読めばわかるが、この傷こそが与三郎を孤

独にした原因なのである。

 しかし最近は美男の二枚目役者十五代目羽左衛門の与三郎以来、与三郎の傷

は細く小さく美しくさえなっているが、初演の与三郎の八代目団十郎の弟九代

目団十郎の写真を見ると、この傷は不気味でグロテスクで恐ろしいものなので

ある。

 その傷がドラマの根本にあるのが明確になったのは台本の功績である

 以上二点、私が感心したところである。後は順を追って書いて行こう。

 今度の舞台は三幕仕立て(原作は九幕十八場である)。今度の序幕発端は、

扇雀、亀蔵、  笹野高史らが、原作の序幕のいきさつを口上風にまとめて話

すシーン。つづいて木更津見染め、逢引、嬲り斬りの三場。ここは七之助の与

三郎、真那胡敬三の赤間源左衛門、亀蔵の海松杭の松、いずれもさしたること

もない。梅枝のお富は意外に艶っぽさがうすい。有名な「いい景色だねえ」を、

与三郎と二人っきりでいうのが散文的である。あれは与三郎を見て思わず「い

い男だねえ」というところを周囲の人に気づいて「景色」といいまぎらすとこ

ろに色気が出るので、二人っきりでは気が抜ける。しかしこの序幕はテンポよ

く手早く済んで観客大助かりである。

 十分の幕間で、前述の与三郎が蝙蝠安に救われるところがあって源氏店にな

る。

 七之助の与三郎は序幕はともかくも二幕目になるとどう考えても、女形のこ

の人にはムリな配役であるが、それをとにもかくにも与三郎らしく見せたのは

串田和美の功績である。たとえばあの傷の一件を描いてこれはいつもの与三郎

とは違う、一人の青年の運命としてみせる布石もそうだし、源氏店になると「し

がねえ恋」を歌舞伎調でいわせておいて、「命の綱の切れたのを」で音楽を入

れて途端にせりふはリアルにするという工夫もその一つである。この演出で七

之助は大いに助かっている。それとは別に七之助のいいのは、カドカドの見得

で一度きまってもう一度顔を振り込む、その角度のよさである。いずれも絵に

なっていて、この最後の瞬間にいつもの与三郎らしい味わいを見せたのは偉い。

大手柄である。

 梅枝のお富、扇雀の多左衛門、亀蔵の藤八、笹野高史の安、いずれも大過な

く、異本は異本なりに、源氏店らしくなった。

 次が和泉屋の強請で(この場を「和泉屋兄妹の場」というのは、多左衛門と

お富が兄妹だとわかるからだろうが、この場割の名称は違和感がある)、源氏

店からここにかけては原作を膨らませて一日中一番の見どころである。

 しかしそこからがいささか脱線する。会津屋という男が突然出て来て、お富

に惚れ、与三郎はお富を会津屋の妾にする。ところがそれを弟分のつん助がば

らしてしまうので、与三郎はこれを殺す。「与三郎初殺しの場」というのもお

かしいし、そのあと与三郎の実の母小笹(この女の正体も千葉家のお家騒動を

全面カットした以上、観客にはわからない)が病死するのを蝙蝠安に殺しと見

られ、その安を追っているうちに安は橋から落ちて死んでしまう。そこで捕り

手にかこまれて与三郎逮捕。ここまでが二幕目で、その後に十五分の幕間になる。

 源氏店から和泉屋まではいいが、この脱線は無理がある。第一この一件は逢

引の二番煎じめいているし、芝居としても面白くない。思うに与三郎島流しの

原因に殺人四件(会津屋、小笹、つん助、安)をもって来ようとしたのだろう

が、たとえ冤罪でも四人殺せば打ち首獄門で、島へ流されるはずがない。

 三幕目は原作の「島の為朝」をカットして島抜け、元山町伊豆屋、観音久次

の内、そしてエピローグにつながる。

 島抜けはスペクタクルで、与三郎が大浪のなかを脱出するところ、舞台端に

並んだ岩だか捕手だかの人間たち十数人の人間を与三郎が跳び箱のように飛び

越すと拍手がおこる。人間スペクタクルというべきか。

 元山町伊豆屋は、私にはかつて見た十一代目団十郎の与三郎、三代目左団次

の忠助の別れの、哀切きわまりない舞台がよみがえるが、笹野高史の忠助、七

之助の与三郎ともにあっさりしている。伊豆屋喜兵衛は勘之丞。

 最後の「観音久次」の内は、私ははじめて見たが、原作のくどいところを整

理して、扇雀の久次が舞台を締めている。

 こうしてみるとお富は、与三郎に劣らず有為転変の人生を送っていることが

よくわかるが、梅枝のお富はそのかわり目があまり鮮明ではなかった。もっと

もこれは梅枝のせいというよりも台本、演出の問題かもしれない。

 以上、全篇三時間十五分という大長編である。

 

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『渡辺保の歌舞伎劇評』http://homepage1.nifty.com/tamotu/
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