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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
10月22日(日)夜の部
一、沓手鳥孤城落月
 玉三郎の淀の方がとても美しかったのだけど、途中から正気を失ってしまって、感情移入しにくい。七之助の秀頼が美しくて賢いけど家康にしてやられてしまった感。米吉の千姫、児太郎の常盤木がちょっといいな。

二、漢人韓文手管始
 浪花もののせいか、男の嫉妬が実直な男を殺人に追い詰めるのだけど、何かねっちりした描かれ方ですっきり感がない。でも芝翫の悪役は憎々しさが豪華でよい。

三、秋の色種
 玉三郎、梅枝、児太郎の舞。夜の部はこれが一番よい出来だったと思う。

10月23日(月)昼の部
極付印度伝
マハーバーラタ戦記
 序章 神々の場所より
 大詰 戦場まで

 パーカッションが異国情緒溢れて印度歌舞伎っぽいところがよい。ステージの使い方や大道具も現代劇っぽいセンスだったけど、たとえば最終幕の戦いを表現する幕や柱、旗の使い方がとてもよい。衣装も、特に神々がきらきらしくて素敵。
 菊之助の迦楼奈にはうまく感情移入できなかったのは途中居眠りしてしまったからか(汗)。太陽神の子で非の打ち所がない性格なのになぜ戦いに巻き込まれてしまったのか、その辺りの葛藤が今いち。ライバル役、帝釈天の子の阿龍樹雷王子を演じた松也が位負けしてない演技で、今月新橋演舞場『ワンピース』で負傷した猿之助の代役に入った右近などと浅草歌舞伎を盛り上げているだけあって早くもこの世代が主役級を演じられるように育ってきたなぁと感じる。そして何と言っても七之助。新作でスケールの大きい、いっちゃってる王女を美しく演じられる七之助が素晴らしい。


「マハーバーラタ」歌舞伎化でインド神話と源平の無常感融合 歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」
 昼の部一杯を割いて、新作歌舞伎「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」を上演。古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」からバラタ族の王位継承をめぐっていとこ同士の王族たちが争うさまに焦点をあてた。「マハー」とは“偉大な”の意。「マハーバーラタ」歌舞伎化への尾上(おのえ)菊之助の熱情で実現した。青木豪脚本、宮城聰演出。
 象の国(インド)で起こった戦争がついには世界を滅ぼすと憂えた神々は、慈愛に満ちた太陽神の子、迦楼奈(かるな)(菊之助)と武力を培った帝釈天の子、阿龍樹雷(あるじゅら)(尾上松也)を地上で誕生させ、慈愛と力のどちらが争いを止められるか、眺める。現在の世界情勢にも敷衍(ふえん)できるインドの叙事詩の描写は、そのまま源平時代に重なり、戦乱から生まれる無常感は歌舞伎の古典作と通じる。
 菊之助の着眼がそこにあり、本作が肚(はら)にインドの物語を据えつつ、展開はすべて古典歌舞伎の仕様であり意匠である。浄瑠璃、三味線が主導し、ガムラン音楽風な木琴の調べがエスニックな情感を湛(たた)える。両花道を使い、つらね、見得、くどきなど、万全な時代物風味。新作歌舞伎の方向性を指針したのではないか。尾上菊五郎、市川左團次、中村七之助らが出演。
夜。「沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)」。坂東玉三郎が初役で淀の方。和事のおかしみがたっぷりな「漢人韓文手管始(かんじんかんもんてくだのはじまり)」。中村鴈治郎(がんじろう)、中村芝翫(しかん)ら。打ち出しが、玉三郎他で長唄舞踊「秋の色種(いろくさ)」。25日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)
渡辺保の劇評
2017年10月歌舞伎座

歌舞伎版「マハーバーラタ」

 
 インド神話の叙事詩「マハーバーラタ」が歌舞伎化された。
 序幕第一場、屏風絵風の極彩色の背景に高い壇上に黄金の仏像風の菊五郎の
那羅延天を中心に上手へ松也の梵天、下手に菊之助のシヴァ神、楽善の大黒点
が並んで「忠臣蔵」大序の竹本のオロシ、東西声で幕が開き、そこへ本花道か
ら左団次の太陽神、仮花道から鴈治郎の帝釈天が出揃ったその神々しさ、金色
まばゆい豪華絢爛さは目を奪うばかり、さすがにインドの大叙事詩が歌舞伎座
のスケールにはまって拍手喝采であった。
 青木豪脚本、宮城聡演出。
 まずは快調の滑り出しであり、あの長大にして難解複雑な物語が意外にわか
りやすく、むずかしいインドの人名もなんとかこなして、前後幕間をいれて五
時間弱。よくまとまったとは思うが、それでも三つの問題点がある。
 一つは、物語を通すのに急で、役者の仕どころ、観客の側からいえば芝居の
見どころがないこと。これではただの絵巻物であって、芝居としては組まれて
いない。
 二つ目は、人間の性根が描かれていない。
 この作品の主人公は、シヴァ神と菊之助二役の迦楼奈であるが、彼は太陽神
の子として生まれながら人間たちの戦争を止め、世界を救うという宿命を持っ
ている。しかしふとしたことから従兄弟の一人王位につくべき悪女鶴妖だ王女
と友情を結び、実の弟たちと敵対する。自分の運命からいえば、戦争を止めな
ければならない。これが彼の性根であるが、その戦争を止めるといっても大し
た苦労も見せる場がなく、なんでこの場にこの男がいるのかがわからないシー
ンが多い。つまり人間の行動が、モチべーションがきっちり描かれていない。
 三つ目は、せりふが乱暴すぎる。こういう原作である以上、現代人にもわか
りやすい言葉に書かれる必要があるし、現代語が時に入ってくるのはやむを得
ないにしても、その人物の行動や思想を表す言葉が貧しい。たとえば迦楼奈が
自分の運命を悟って、那羅延天に教えを授けられるところは、大詰の白眉であ
るはずだが、原作の哲学がむずかしい上に、せりふがうまく書けていないため
に、見ていてなんのことかよくわからない。
 以上三点。折角の大企画にもかかわらず絵巻物にとどまった理由である。
 菊五郎の那羅延天はさすがに座頭の貫禄。菊之助の二役迦楼奈は凛々しいが、
すでにふれた三点によってドラマとしては彫が浅い。対する松也の阿龍樹雷王
子は力演であるが、実の兄を殺してしまった悔悟と悲しみがうすい。しかしこ
れは台本のせい故、仕方がないか。
 時蔵の汲手姫は、これも性根がもう一つ鮮明でないが、これは時蔵のせいで
はない。梅枝の若き日の汲手も平凡。梅枝はそれよりも二役森鬼飛がいい。
 七之助の悪女鶴妖だは手強くていい。そのほかの役々のうちでは、亀蔵の風
い魔王子が目につく。
 夜の部第一は、玉三郎初役の淀君で「沓手鳥狐城落月」の奥殿、乱戦、糒庫
の三場。
 玉三郎の淀君を期待して行ったが、歌右衛門以来だれも坪内逍遥をうたわな
くなって玉三郎もしかり。きわめて心理的で奥殿など次の糒庫につなげるため
だろうか、後半半分気が狂っているように見えて面白くない。玉三郎ならば堂
々とせりふをうたって、この役の面白さを復活してくれるかと思ったがそうは
ならなかった。それのみならず今夜は二日目の故もあるだろうが滑舌あざやか
ならず、息つぎ、間の取り方も十分ではなかった。その点は日ならずしてなお
るだろうが。
 糒庫になると、さすがに「また来おったか」の第一声から凄味がついて奥殿
よりはいい。「わらはの化粧箱も同然」あたりのスケール、凄味はいいが、そ
の後は平凡である。
 万次郎の正栄尼と彦三郎の氏家内膳がしっかりとしている。児太郎の常盤木
は役に負けているが是非なし。梅枝の饗庭の局,鴈成の大蔵卿の局、松也の大
野修理、米吉の千姫。
 七之助の秀頼がキッパリしているが、母への情愛、豊臣家の崩壊を一身に背
負う悲劇の深さまでは出なかった。
 さて、今月一番の見ものは、次の芝翫、鴈治郎の「唐人殺し」。上方版で序
幕が長崎丸山千歳屋の門口と奥座敷、廻ってもとの門口。二幕目が国分寺客殿
と奥庭殺しの二幕五場。奈河彰輔補綴の台本をさらに整理して一時間半。短く
簡潔になったのはいいのだが、お宝内見の時刻、にわかの出船のいきさつがわ
かりにくい。その混乱はプログラムにも及んで、唐の使節の出船が「都へ向け
て出船」と書いた数行あとに、唐使が「自国へ帰る」とある。「都」といえば
当然京都(実は江戸)であり、「自国」といえば中国だろう。この船はどこへ
行くのか。これでは初心者は混乱する。
 今月これ一役の芝翫の大通辞幸才典蔵がいい。序幕の花道の出から、ごく普
通のいい人という解釈は、これはこれで面白く、なによりも世話の、地の芝居
が確かなのが芝居を盛り上げる。
 伝七に高尾のことを頼むために、フッと持っていた紅葉の扇子を渡しての引
込みの伝七への思い入れも芝居としては十分の出来である。
 もっともその普通の人が、伝七と高尾の仲を知って怒りに燃えるのはいいと
しても、ここでガラリと変わる凄味が少し足りない。「心の闇」という、その
闇が多少うすいからである。
 国分寺になってからも最初はやはり普通の人でいるのが、それはそれで一理
ある解釈だが、もう観客は典蔵の変心を知っているのだから敵役で行った方が、
あとの芝居が盛り上がるだろう。ここでも普通の人でいてガラリといじめにな
る方がいいという考え方だろうが、それでは序幕と同じになってつまらず、こ
こははじめから敵役に徹して奥庭までグイグイ押していくべきだろう。「忠臣
蔵」の師直とは違うのである。
 しかしその難点を差し引いても、芝翫は立派な大敵。線の太さ、スケールと
もにいい典蔵である。
 対する鴈治郎の伝七は、こういう役に色気が出て、ユーモラスなところが自
然に出ている具合がいい。まだまだこれからであるが、この珍しい作品を復活
したのはお手柄である。
 この二人の奥庭の殺しは、昼の「マハーラバタ」の大詰めの立ち廻りにうん
ざりしていた私には一服の清涼剤。歌舞伎はこれでなければならない。
 七之助の高尾は、まだこの役には無理。つい典蔵の情けにほだされて伝七と
の仲を口走ってしまう辺りの芝居の面白さ、女心のはかなさはまだ不十分。
 米吉の名山は、ほとんど飾りものの如く、さすがに高麗蔵の和泉之助が、又
五郎や秀太郎ほどではないが、こういう現代ばなれのしたつつころがしの役を
よくやっている。努力賞。
 下役須藤丹平は、この芝居では大事な役で若い福之助には無理。ワキの端敵
の腕達者がつとめるべきだ。
 亀蔵の呉才官、橘太郎の珍花慶。
 友右衛門の千歳屋の女房、松也の奴光平。
 奥庭の殺しは、今まで純日本風の渡り廊下であったように思うが、今度は朱
塗りの中国風で、序幕の千歳屋との対照を失ってよくない。
 夜の部の最後は、玉三郎の舞踊「秋の色種」。もとより長唄の素の曲として
有名なものだが今度花柳寿応・寿輔の振付で私ははじめて見た。
 踊りとしてはさして面白くはないが、玉三郎の持ち味のあでやかさ、背景の
月や星の美しさ、勝国の三味線の虫の音、それに今度は梅枝と児太郎の二人が
からんで、しかも琴を弾くという大サービス。キレイづくめのムード舞踊。玉
三郎が若い二人に入ってなおだれよりもきれいに見えるのは驚くほかない。二
人の琴がおわると黒の衣裳にかわって、今度は二人の娘の母親という景色もい
い具合である。 

Copyright 2017 Tamotsu Watanabe All rights reserved.
『渡辺保の歌舞伎劇評』http://homepage1.nifty.com/tamotu/
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