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新選組・土方歳三を中心に取り上げるブログ。2004年大河ドラマ『新選組!』・2006正月時代劇『新選組!! 土方歳三最期の一日』……脚本家・制作演出スタッフ・俳優陣の愛がこもった作品を今でも愛し続けています。幕末関係のニュースと歴史紀行(土方さんに加えて第36代江川太郎左衛門英龍、またの名を坦庵公も好き)、たまにグルメねた。今いちばん好きな言葉は「碧血丹心」です。
 『新選組!! 土方歳三最期の一日』を何十回も見直して、ちょっと思ったことです。



 本編『新選組!』の最終回で、勇さんの無精髭を剃ってくれる床山さん役のエキストラさん、雑誌などの情報では続編『新選組!!』でも会津で近藤勇の墓を掘る人足役で出演されていると聞きつけ、とても嬉しかったものです。



 大ざっぱな白牡丹は人の顔を見分けるのが得意ではありません(爆)ので、自信がないのですが……床山さん(という呼び名で固定してしまって済みません^_^;)、『新選組!!』でも少なくとも2回は他の役で出ておられるように見えます。



 まず、武蔵野楼で榎本さんが降伏を宣言する場面の直前、新選組の過去の「悪行」を批判する大鳥さんに反論する永井様の後ろに控えている旧幕府軍幹部のひとり。



 そして、一本木関門で土方さんが最期の気力を振り絞って敵軍を蹴散らし「早く逃げろ!!」と呼びかける、負傷した旧幕府軍の兵士ふたりのひとり。



 ……合っていればいいのですが(汗)。



 以上、かなりマニアックな(苦笑)出演者チェックでした。
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 早速iPod Nanoに落として聞いてみました。



新選組Podcast<番外篇>



 30秒CMみたいな感じですね。コメンタリー本編は、会津で近藤勇の墓をつくる土方歳三の場面を巡る、山本耕史さんと三谷幸喜さんの会話……う〜ん、ちょっとだけなんですね(^^ゞ。



 でも、89分間、吉川Pと山本さん・三谷さんが語り合うというコメンタリー、今から発売が楽しみです。
 すでに連載14回目となる「『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント」ですが、そろそろ終わりが見えてきた感じです……ちょっと寂しい気もするのですが、こんなに長くかかるとは思ってもいなかった(爆)ので、自分の饒舌さにちょっと驚いています(大苦笑)。『新選組!! 土方歳三最期の一日』という作品が限られた時間の中でも人と人との対立やその克服を描いた上質のドラマであることが、自分を饒舌にさせているのだと思います。



 さて、榎本さんが土方さんの「桶狭間戦法」に感銘を受けて合意し、ふたりは改めて「生きるための戦い」への決意を確認した場面から。いよいよ(笑)大鳥先生登場です。



(9) 土方さんvs大鳥さん(第二ラウンド)



 ふと、思い出したように榎本さんが口火を切ります。



榎本「……ちょっと待ってくれ。きみが出撃した後の全軍の指揮は誰が執る」

土方「あんたに任せる」

榎本「私でもいいんだが、ここはひとつ、大鳥にやらせてみないか」

土方「どうせあの人は、俺の案には乗らない」



 ……顔を合わせる度にいがみ合ってるし、さっきは入れ札の件でイジメましたからねぇ(苦笑)。



土方「ここは総裁自ら出ていくしかないだろう」

榎本「(にこやかに)土方君はそんなことを言っているが、あんたはどうなんだい」



 模型テーブルの下から、刀をどんと突いて、気まずそうに出てくる大鳥さん(笑)。ぎょっとする土方さん。



榎本「ずいぶん長い間、隠れてたな」

大鳥「気づいていたのか」

榎本「足もとだからね、気づくなと言う方が無理な話だ」



 ……えーと、人を斬ったこともない榎本さんが大鳥さんの存在に気づいていて、強者の剣客・土方さんが大鳥さんに気づかなかったんですね(滝汗)。都合のよい解釈をすれば、きっと大鳥さんは土方さんの方にでなく榎本さんの側にずっと蹲っていたということでしょう(爆)。



土方「(厳しい表情で)何をしてた」

大鳥「あんたが、総裁にろくでもないことを吹き込んだら、すぐに斬り捨てるつもりだった」

土方「……」

大鳥「そして、これ以上ないというほどの、ろくでもない策を聞かせてもらったよ」

土方「……」

 大鳥さん、土方さんに一歩詰め寄ります。土方さん、刀に手を置きます。

榎本「よせ!」

 そのまま頭を下げる大鳥さん。

大鳥「土方、礼を言う」

土方「……何のことだ」

大鳥「榎本総裁を、もう一度戦う気にさせてくれた」

土方「……」



 土方さんの目撃していない場面で大鳥さんの「勝ちたい……勝ちたい」という呟きを聞いていた私たち視聴者は大鳥さんの本心を伏線として見聞きしていたのですが、土方さんは初めてなんですよね。土方さんにとっては、降伏という決定を覆すには大鳥さんを飛び越えて榎本さんを翻意させるしかありませんでしたから、大鳥さんの本心を見抜く余裕はここまでほとんどありませんでした。しかし、榎本さんと和解が成立した今、土方さんにとっては期せずして大鳥さんとも和解が成立するきっかけになっていたのでした。



大鳥「守りの固めは俺の専門だ。後のことは心配するな。存分に戦って来い」

土方「……」

 ここの場面の大鳥さん、いままでになく格好いいです(^^)。

 隠れた時に落とした「香車」をパチンとジオラマに戻す大鳥さん。大鳥さんの構想に足りなかった「香車」は、土方さんだったんですよね……その「香車」が、大鳥さんの手から滑って盤面からこぼれ落ちた、というのも象徴的なことだと思いますが(涙)。



土方「……大鳥さん、さっき、あんたの顔を見て思ったよ」

大鳥「何の話だ」

土方「総裁が降伏すると言った時、あんた、あそこにいた兵たちの誰よりも口惜しそうな顔をしていた」

大鳥「……」

土方「計算だけの男には出来ない顔だった」



 そして土方さんもまた、不器用さんにしては暖かく(苦笑)、大鳥さんの志や人柄を認める一言を添えます。やればできるじゃん、土方さん(爆)。



土方「後は任せた」

大鳥「(頷く)」

榎本「おいおい、ちょっと待ってくれ。私抜きで心を通い合わせるのは、やめてもらいたいな」

 ……見ていて気恥ずかしくも照れ臭い、男たち三人の友情が通い合っている場面です(爆)。「コンフリクトのマネジメント」的には、これ以上ないほどの大団円ですな。



(10) 土方さんと榎本さんと大鳥さん



 作戦会議室を出ながら、三人。「コンフリクトのマネジメント」分析においては、エピローグとして見るべき場面でしょう。



榎本「明日の戦で勝利すれば、我々が薩長の大軍を追い返したという事実が残る。薩長の奴らも少しは考えるだろう。未開の土地の開拓ぐらいは許してやろうと。その時は晴れて蝦夷の国の誕生だ」



 この辺りの楽天的なところが、「間抜けなロマンチスト」を自称する榎本さんの良いところでも悪いところでもありますね。ただ、人は、そういう夢を描ける人だからこそ、付いていけるのではないかと私は思います。そういう壮大なロマンチストの足もとを固める役割は、土方さんと大鳥さんの得意とするところでしょう。



土方「その国では、近藤勇はもう罪人ではないんだな」

榎本「もちろんだよ。この国を造る礎となった一人の英雄として、未来永劫、その名は刻まれる」

土方「……(頷く)」



 この榎本さんの一言こそ、土方さんの内心のコンフリクトを解消するものでした。「その4」で述べた私の解釈ではありますが、「近藤さんの汚名を雪ぐためには生きている限り薩長と戦い続けなければならないという使命感、しかし一方では近藤さんを死なせてしまった自分を許せない、罰したい、罰されなければならないという罪の意識」の相克が、戦に勝利する見込みのない状況においては「一日でも早く戦で死にたい」という願望になっていました。



 しかし、榎本さんが一度は捨てた「新しい国」の夢を諦めずに生きるための戦いに挑むという決意をした上で榎本さんの説得に成功した土方さんは、榎本さんのこの言葉によって、新しい国を建設し暁には近藤さんの汚名を雪ぐことができるという希望を見いだします……それを目的として榎本さんを説得した訳ではなく、壮大な「新しい国」の夢を(諦めたとは言いつつも)語る榎本さんに二人目の「馬鹿なろまんち」を見いだし、その夢を実現する手助けをしたいと心から思ったのだろうと私は解釈しています。でも、土方さんの近藤さんに対する思いを理解した榎本さんがかけてくれた言葉は、土方さんに、「新しい国」=近藤さんへの贖罪のために戦い続けること・生き続けること、という方向転換、希望への新たな道を後押ししてくれました。これもまた、「コンフリクトのマネジメント」的には、願ってもいない、素晴らしい展開だと思います。



 土方さんに手を差し出す榎本さん。

土方「……前から気になっていた。この挨拶には何の意味がある」

榎本「土方君、これからは、これが我らの挨拶だ。我らの、新しい国の」

 少しためらいつつも、榎本さんの手を握り返す土方さん。

 そして、その二人の様子を暖かい目で(笑)見つめる大鳥さんに、榎本さんが振り返って目配せします。ちょっと驚き、そして嬉しそうに、握手に加わる大鳥さん。その大鳥さんの手の上に、土方さんのもう一方の手が重ねられます。



 ……ドラマはさらに続きますが、「コンフリクトのマネジメント」分析としては、ここまでで十分でしょう。



 その後、彼ら三人が手を取り合って計画した新政府軍への逆襲はならず、土方さんは一本木関門で命を落とし、旧幕府軍はリスクを取って乾坤一擲の反攻に転じたことが裏目に出て、さらにひどい状況で降伏を余儀なくされます。しかし、土方さんと初めて協力し合って挑んだ戦いが土方さんの死・旧幕府軍の敗北という結末を迎え、模型を壊して号泣する大鳥さん……その大鳥さんを労うように肩に手を置き、望楼に佇んで涙もこぼさずに遠くを見つめる榎本さん……そのふたりの心の中には、土方さんが託した思いが生き続けています。そして、弁天台場に残った新選組の皆と永井様、多摩に向かって走り続ける鉄之助君、会津に残った斎藤さんの心の中にも。



 ワイン好きの白牡丹、ここで皆さんと共に、愛すべき「ろまんち」たちに赤ワインで乾杯しながら、講義を終えたいと思います。長い間、ご静聴ありがとうございましたm(_ _)m。



☆★☆★



 なお、当初は「コンフリクトのマネジメント」論の後に「リーダーシップ論」も書くつもりでしたが、「コンフリクトのマネジメント」論で言い尽くした感がありますので、ここで一旦お開きにしたいと思っています。コメンタリーとDVDを入手した時には感想を書くつもりですが、ここまで長い『新選組!!』論は、これ限りです。



 本編と続編の制作に関わった全ての方々に、『組!』『組!!』制作に注いで下さった愛と情熱に、感謝を込めて。『組!』『組!!』を盛り上げてくれた『TV Navi』『TV Station』『ステラ』などメディアの方々に感謝を込めて。そして、『組!』『組!!』を共に鑑賞し、ここまで一緒に走ってきたブロガーさんたちファンの方々に、連帯の気持ちを込めて。『組!』『組!!』への思いで私がここまで突っ走って来られたのも、ともに走る方々がいてからこそです。



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9

 その10

 その11

 その12

 その13

 その14 本稿
 お待たせしましたm(_ _)m、また飲み物片手に『新選組!!』における「コンフリクトのマネジメント」分析にお付き合いくだされば幸いです。おつまみの差し入れ、歓迎します(笑)。



 第4ラウンドでは、土方さんが「降伏はするな」「俺はあんたの夢に賭けることにする」と強い意志を示して、降伏を決めていた榎本さんの心を動かします。「いいか、これは死ぬための戦いではない。これから俺たちは生きるために戦うんだ」……理屈で説得するというよりは思いの強さで人の心を動かす、というところに土方さん本来の持ち味が見られます。そして、コンフリクトのマネジメント的には、降伏するかしないかという意見の対立を超えた「諦めない」という上位目標を設定することによって協力し合えるところを探っていく土方さんのアプローチが成功しつつあります。



では、山場を越えての第5ラウンド、軍議する土方さんと榎本さんを中心に、土方さんのコンフリクトマネジメントを分析します。すでに土方さんと榎本さんの間では降伏をめぐる意見の対立は解消され、新たな目標=「『新しい国』の夢を諦めずに戦い続ける」に向かって協力が始まっています。



(8) 土方さんvs榎本さん(第五ラウンド)



 作戦会議室で「勝ちたい……勝ちたい……」と呟いていた大鳥さんが榎本さん・土方さんの姿に気づき、ジオラマテーブルの下に隠れている状態(笑)で、榎本さんと土方さんの「軍議」が始まります。



榎本「葡萄酒でも飲むかね」

土方「結構。戦に勝ったら、存分に飲ませてもらう」

榎本「もしよかったら、サンドウィッチでも」

土方「話しかけないでもらえるか」

榎本「……失敬」



 土方さんの「ここは俺に任せてくれないか」という申し出に「中身次第だな」と総裁らしく保留の判断をしている榎本さんではありますが、気持ちの上では土方さんにすっかり打ち解けてしまっています(笑)。親しさの気持ちを込めて葡萄酒だのサンドウィッチだのをさらに振る舞おうとするですが、作戦立案に集中したい土方さんはけんもほろろです。



榎本「(椅子に腰掛けて)きみは京にいた頃も、そうやって策を練っていたのかい」

土方「ああ」

榎本「池田屋で、大勢の不逞浪士を捕縛した時も?」

土方「あの頃は、俺と山南さんで考えていた」

榎本「(立ち上がる)誰だ?」

土方「江戸にいた頃からの仲間さ。俺が全体の策を立て、そいつが細かい陣割りをする。それが、新選組のやり方だった」



 山南さんがそういう役割を担っていたのは上京してから最初の一年間だけだったのですが、土方さんには山南さんとのパートナーシップを「それが、新選組のやり方だった」と断言できるだけの重みを持っていたのですよね……相馬君に「ああ、法度に背いて切腹させられた人ですよね」と言われた時も、土方さんは「……山南総長は、武士の中の武士だ」と最大限の賛辞をもって応じました。土方さんの心における山南さんの存在の重みゆえの、次のやりとり。



榎本「では、今は私がその山南さんの代わりを務めるとしよう(模型を見つめる)」

土方「(榎本さんを見やって)無理だ」



 一言の下に「無理だ」と言われて、驚愕し(苦笑)落ち込む榎本さん。とぼとぼと模型の前を離れますが、模型を見つめながら土方さんが言い添えます。



土方「いいんだよ、あんたはあんたで」



 不器用な土方さんにしては、なかなかに思いやりのある言葉です。そして、第2ラウンドで「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」と批判した榎本さんに対して「いいんだよ、あんたはあんたで」と、榎本さんの人となりを受け容れ、「馬鹿なろまんち」ぶりを評価しているところが、このドラマにおける土方さんの変容です。



 そして、模型を見つめたまま、ふっと笑う土方さん。



榎本「何がおかしい」



 ……はは、「いいんだよ、あんたはあんたで」と言った直後にふっと笑う(というか、「ぷっと吹き出す」感じですか^_^;)土方さんに、自分が笑われたと思ったわけですね。



土方「いちいちうるさいな」

榎本「すまん」



 土方さんに「うるさい」と言われて、しょげる榎本さんがラブリーです。榎本さんにしてみたら、自分が諦めた「新しい国」の夢への情熱を再燃してくれた土方さんに親愛の気持ちを表したくて土方さんに話しかけ続けているのですが、作戦立案に集中したい土方さんには煩わしいんですな(苦笑)。しかし、土方さんが「いちいちうるさいな」とツッコミを入れるのは、試衛館の頃の仲間に対するのと同じくらい、榎本さんに心を開いているところの現れでもありますよね。お互いにとって心地の良い距離を試行錯誤で量っていく「ヤマアラシのジレンマ」を思わせる遣り取りでもあります。



 土方さんはそこで相手を突き放すのではなく、模型の地図を指さして自分の心境を説明します。



土方「さんざん見慣れた地図なのに、おかしなもんだ」

榎本「どういうことだ」

土方「俺はこれまで、死ぬための策しか考えてこなかった。今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」



 すでに望楼でも「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」と自分の心の秘密を榎本さんに打ち明けている土方さんですが、さらに今回は、そのことに加えて「今は生きるために」と自分の目標が変わっていることを伝えています。榎本さんが諦めていた「新しい国」の夢をもう一度目指すために自分も変容していることを伝えたいのですね。



 このあたりが「コンフリクトのマネジメント」的には、とても重要なところだと思います。「諦めない」「新しい国の夢をもう一度目指す」「生きるために戦う」という、榎本さんと共感しあえる上位目標を設定し、かつ、その夢の実現のために自分の態度も変える、それを示す。建設的なコンフリクト解消のために必要な手順を、土方さんはきちんと踏んでいます。



 そして、おそらくは、この述懐をする直前には、もう頭の中で作戦はできていたのではないかと思います。作戦が頭の中で形になっていない時に「今は生きるためにこれを見ている。同じ地図でも、まるで違うものに見えてくる」とは、なかなか言えないだろうと思うので。



 この第五ラウンド、すでにコンフリクトは解消しているという意味で勝敗をつける意味はない場面なのですが、「コンフリクトのマネジメント」能力の発揮という点で土方さんに満点をつけたいところです(^^)。



土方「……決まった」



 模型のテーブルを回って、榎本さんと向かい合う土方さん。



土方「ではこれより、軍議を行う」

榎本「……お願いします」

土方「名付けて、『桶狭間戦法』」

榎本「桶狭間か。大きく出たな」



 どんな作戦が土方さんの口から出てくるものかと緊張していた榎本さんが、驚きと共に笑みを浮かべます。



土方「これまでの策は、攻めてくる薩長に対し、我らは常に守る一方だった。確かに箱館は守りに関しては万全だ。南には天然の城壁箱館山。箱館湾には軍艦がある。そして、町を見渡せるこの陣には新選組がいる。これだけ守りが堅ければ、敵は易々と上陸はできない。ここまではいいか」

榎本「ああ」

土方「だが、もちろん敵も同じことを考えている。そこで奴らは三つに分かれて、北と西から取り囲むように攻めてくる。奴らが目指すのはこの五稜郭」

 土方さん、白いマフラーを首から取って地図の上に広げます。

土方「明日の総攻撃で、奴らは帯のように連なって、ここを襲うだろう」

 敵軍に見立てたマフラーを模型の五稜郭目がけて寄せます……小道具も使った、うまいプレゼンテーションです(^^)。



榎本「どう防ぐ」

土方「防がない」

榎本「は?」

土方「敵は一万近い大軍勢だ。数で押しつぶすように攻めてくる。数に対して数でぶつかれば、少ない方が負けるに決まっている」

榎本「それで?」

土方「だが、数を破るたったひとつの方法がある」

榎本「(焦れて)……気を持たせるな」

 さすが元薬屋の土方さん、人を引きつける口上は上手いんですよね……気むずかしいんで滅多にしないですが(笑)。



 榎本さんにマフラーを手に取らせ、胸元から笄(もちろん、芹沢鴨暗殺の時に使った、長州藩の旗印が入ったものとは別物です^_^;)を取り出します。



土方「兵が多ければ多いほど、軍勢が広がれば広がるほど、小さな綻びは見えにくくなる……そこが狙い目だ」



 土方さんは、榎本さんの手のマフラーをさらに広げさせ、繕い跡のある綻びの部分を指さします。



土方「俺たちはその軍勢の中の、一番弱い一点を突く」



 笄を綻びに突き刺し、マフラーを上下に割く土方さん。さらに、笄をくるっと回すサービスも見せ、プレゼンテーションとしては抜群の演出です(^^)。



土方「信長が今川勢を破った時と同じだ。少ない兵しか持たない軍勢は、守るのではなく、その少なさを利用して攻めるしかない」

榎本「それで桶狭間か」

 模型に戻る土方さん。

土方「ここに土地の者しか知らない間道がある」

 富川方面への抜け道を示す土方さん。

土方「この間道を一気に走り抜けて、全軍の背後に回る。そして一気に富川の本陣に突っ込み、(笄で敵将に見立てた将棋の駒を突き刺す)敵の頭の首を取る」

榎本「……参謀、黒田了介」

土方「ああ」

 この「ああ」と返事する時の表情が、なかなか不敵です。



榎本「兵は」

土方「五十で十分。むしろ少ない方が小回りが利く」

榎本「(頷く)」

土方「敵は大軍であるがゆえに、指揮の乱れは命取り。黒田を斬ったら、即座に俺たちはとって返し、背後から敵を切り崩す。榎本さんは敵の乱れを見たら、五稜郭から攻めて出てくれ……これが、あんたの好きなサンドウィッチだ。敵は前後から挟まれた形になる」

 榎本さんの好きなサンドウィッチを口上の中に織り込む土方さん、言葉巧みです。



榎本「なるほど」

 さらにダメ押しをかける土方さん。

土方「そこまで来れば、もう戦は数じゃねえ。理屈でもねえ。勢いのある方が勝つって寸法だ」

榎本「……素晴らしい」

 抜群のプレゼンテーションに、榎本さん感銘!



土方「気に入ってくれたかい」

榎本「きみの話を聞いていると、勝てそうな気がしてきたよ」

土方「悪いが、俺はこっちに来て、陸《おか》の上ではまだ一度も負けていないんでね」

 作戦内容と口上の巧みさで榎本さんを感銘させた上に、「陸の上ではまだ負けていない」という戦上手さをアピール……お見事としか言いようがありません(笑)。



榎本「……よく思いついたね」

 と、土方さんを労う榎本さん。



土方「奴らは、薩摩だと長州だの土佐だのが混ざってできた鵺だ。その化け物を最後に人が倒す」

榎本「何の話だ」

土方「……(ふっと我に返って)忘れてくれ」



 この土方さんの独り言ですが、榎本さんに自分の作戦案を伝え、賛同を得ているうちに、だんだん山南さんと策を練っていた頃の気分になっていたんでしょうね。試衛館時代のエピソードでは、得意げに鵺の話をしていたところ、山南さんに「鵺は、人の心がつくった想像上の生き物なんじゃないのかなあ」と言われてムッとしていた若き日の土方さん(そして、土方さんのムッとした表情に気付いていない山南さんの天然っぷりも山南さんなのですが……)ですが、鵺より怖いのは人だと言った山南さんの言葉を、ここで受け容れています。



土方「(榎本さんに向き直って)……総裁」

榎本「何だ、改まって」

土方「この戦、勝てる」

榎本「……生きるための戦いだな」

土方「ああ、生きるための」

 頷き合う二人。



 最後はお互いの共通の目標を確認して、合意……「コンフリクトのマネジメント」的には、満点のプレゼンテーションによる説得、そしてダメ押しの共感的な締めでした。心を通い合わせ、お互いの思いを確認しながら新たな目標に向かっての行動計画を合意し合うプロセス、素晴らしいです。



 ……そろそろ大鳥さんが出てくる場面になりますから、一旦ここで切ります(笑)。以降の遣り取りはむしろ土方さんvs大鳥さんの第2ラウンドと位置づけたいので。ここでまた、小休止です。
 ロマンチサイト「Shinsengumi Express!」より嬉しいお知らせ。



発表! 新企画は「新選組!!コメンタリーキャスト」ダウンロード販売!!!



 「Shinsengumi Express!!では、山本耕史さん、三谷幸喜さん、吉川邦夫(演出担当)に、

正月ドラマ『新選組!! 土方歳三最期の一日』を89分にわたって観てもらって番組の舞台裏やいまだから話せる裏話をたっぷりと語りおろしていただきました。

題して『新選組!!コメンタリーキャスト』。まもなく発売されるDVDには“未収録”のこのコメンタリー、4月14日からShinsengumi Express!!にてダウンロード販売いたします!」



 これは、DVDと一緒に楽しみたいですね(^^)。グッジョブ。


 第4ラウンドの分析を振り返ってみて、「諦めないってことだ」がなぜ上位目標になるのかという点が言葉足らずのような気がしました。もう少し、言葉を足してみましょう。



 榎本さんの「降伏しか頭になかった」心境も、土方さんの「死ぬ場所のことしか考えていなかった」心境も、旧幕府軍にもはや勝機はないという認識から始まっています。



 もはや勝機はないと認識しているからこそ、榎本さんは「新しい国」への夢を捨て、これ以上の無駄死にを出さずに戦を終わらせることを決断しました。



 片や土方さんの内心のコンフリクトについては、「その4」で私は「近藤さんの汚名を雪ぐためには生きている限り薩長と戦い続けなければならないという使命感、しかし一方では近藤さんを死なせてしまった自分を許せない、罰したい、罰されなければならないという罪の意識ではないか、というのが私の解釈です。そのふたつの気持ちを解消する方法として、『一日も早く戦場で死にたい』という思いに繋がったのではないかと」と要約しています。ただ、「一日も早く戦場で死にたい」という気持ちが密かにあるのも、戦況がはかばかしくないという状況ゆえでしょう。近藤さんの汚名を雪ぐために薩長と戦って勝つという当初の目標がかなえられる状況であれば、「死に場所のことしか考えてなかった」という心境には至ってなかったかも知れません。



 最前線で戦う指揮官たちに戦意が衰えていないと知って降伏の決意が揺らぐ榎本さんに土方さんが示したのは、「諦めない」という選択。榎本さんの降伏の決意も、土方さんの降伏反対の意思と「一日も早く戦で死にたい」という思いも、もはや薩長には勝てないという、客観的というか「リアリスト」的な認識から発生しているわけです(榎本さんは自分を「間抜けなロマンチスト」と言ってますが、一方でまったく「リアリスト」の側面がないわけではありません。だからこそ降伏という決断ができるわけです)。その状勢認識を「諦めない」という個人の夢と思いと意欲などから成る「ろまんち」パワーで乗り切ってしまおうというのですから、傍から見れば無謀とも言えます^_^;。しかし、降伏への決意が揺らいでいた榎本さんに、このコペルニクス的な発想の展開は効きました。



 あえて付け加えれば、劣勢になればなるほど燃えるしぶとさは『新選組!』本編における土方さんの他の人にない強みだったと思います。この続編『新選組!!』でそのパワーが薄れていた土方さんが初めてこの場面でそのしぶとさを発揮するのは、榎本さんの「新しい国」の夢について聞かされてからでした。



 この第4ラウンドの場面で土方さんは「俺はあんたの夢に賭けることにする」としか宣言していませんが、その後の場面で「その国では、近藤勇はもう罪人ではないんだな」と榎本さんに問いかけます。いったん榎本さんが諦めた「新しい国」の夢を復活させようとする土方さんのしぶとさの原動力は、やはり近藤さんへの思いからなんですよね……当該場面でもう少し踏み込んだ分析をする予定ですが、榎本さんの「新しい国」の構想に賭けることによって、死に場所を求めることではない方法で近藤さんへの贖罪を果たす可能性が見えたという希望が感じられました。その一方で、何万頭もの牛を飼ってチーズを造り、農業や牧畜や鉱業を興して蝦夷の地を豊かにするという榎本さんの壮大な夢も、それなりに気に入っていたようではありますが(単にチーズのサンドウィッチが美味しかっただけかも知れませんが^_^;)。



 ……うーん、まだ自分自身が消化不良かも知れません……すっきりと整理できていない気がします。コメント・質問も歓迎します。



 で、第5ラウンドに行き着くには、もう一回休憩させて下さいませ^_^;。ふと、『組!!』の土方さんは、榎本さんの「これからは、私の夢に力を貸してくれた人々をいかに救うかが、私の仕事だ」という言葉に、流山で新選組の隊士たちを生かすために投降した近藤さんの姿を見たように思いつきました。この直感にはもう少し発酵が必要な気がします。



☆★☆★



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9

 その10

 その11

 その12 本稿

 その13

 その14
 ……長い小休止となってしまいました(汗)。また、お菓子やおつまみ、飲み物をご用意の上、お付き合いいただければ幸いです。



 旧幕府軍降伏の方針を覆そうと五稜郭に乗り込んで来た土方さんは、榎本さんと話し始めてむしろ守勢に回っている感がある第3ラウンドまででした。しかし、第4ラウンドからいよいよ、土方さんのコンフリクトマネジメント能力が発揮されます。



(7) 土方さんvs榎本さん(第四ラウンド)



 大鳥さんの依頼で、榎本さんは各地から戻ってきた指揮官の前でスピーチをします。

 指揮官たちは「ここまで来て、本当に降伏するんですか」「我々はまだまだ戦えます。なんで薩長の奴らに降伏しなくちゃいけないんですか」「総裁っ、最後まで戦いましょうっ」と口々に徹底抗戦の意欲を口にします。

 詰め寄られて言葉をなくす榎本さん……武蔵野楼で幹部達に降伏の意思を宣言した時には、誰も抗戦を口にしませんでした。しかし、最前線で命を懸けて戦っている指揮官たちは、先が見えている戦の中にあっても榎本さんが考えていた以上に薩長軍への闘志を燃やしていました。誰も死ぬことを怖れてはいませんでしたし、降伏することをよしとしていませんでした。

 望楼で土方さんに「これからは、私の夢に力を貸してくれた人々を、いかに救うかが私の仕事だ」と言っていた榎本さんですが、戦うことを諦めていない前線の指揮官たちの反応(言うまでもなく、五稜郭に真っ先に乗り込んで降伏に異を唱えた土方さんは、陸軍奉行並という地位で幹部たちの中にあっても、マインドやフィーリングは彼ら前線の指揮官たちに近いんですね)に動揺します。



 そして、榎本さんのスピーチに立ち会った土方さんは、指揮官たちの反応、榎本さんや大鳥さんの表情を観察しながら、何ごとかを考えています……おそらくは、榎本さんが土方さんに語った夢への熱い思いを反芻したり、「榎本さんと私の思いは同じだ」と降伏推進派であるはずの大鳥さんの口惜しそうな表情の裏にどんな思いがあるのかを考えたりしているのでしょうね。



 スピーチを終えて自室に戻る榎本さんに、土方さんが声をかけます。「何も思わないのか。あの声を聞いて」

 口惜しそうな表情をする榎本さん……土方さんに背を向けていますが。

榎本「……既に降伏は決まったことだ」

土方「降伏はするな」

 一瞬、固まる榎本さん。背中を向けているので、表情は計り知れませんが。

 振り返った榎本さんは、にこやかに笑っています。

榎本「びっくりするようなことを言うねえ。それじゃ、今までの話はいったい何だったんだ」

土方「ようやく気づいたよ。俺は死に場所のことしか考えてなかった。そしてあんたの頭の中には、降伏のことしかなかった。俺たちは大事なことを忘れていたようだ」

榎本「何をだね」

土方「諦めないってことだ」

 土方節、炸裂です^_^;。



 コンフリクトのマネジメント的には、その5で解説したところの、「上位目標の設定」ですね。降伏せずに戦い続けるか戦死するしかない土方さんの選択肢と、将兵たちの命を救うためには自分の命を引き換えにして降伏するしかないと思い定めている榎本さんの決意の間には、共通の利害や思いは何もありません。しかし、榎本さんが諦めた新しい国の夢に共感するところが見いだせた土方さんは、ふたりが折り合える上位目標として「諦めずに戦い続ける」という第三の道を示します。



土方「あんたは確かに馬鹿だ、馬鹿なロマンチだ。だが俺は、もうひとりの馬鹿なロマンチを日本一の侍にするために人生を費やした。どうやらそのロマンチとやらに付き合うのが性に合っているらしい。俺はあんたの夢に賭けることにする」

榎本「……夢は醒めたと言ったはずだ」

土方「いや違う。夜が明けるのは、まだまだ先だ。榎本さん」

榎本「……」

土方「いいか、これは死ぬための戦いではない。これから俺たちは、生きるために戦うんだ」

 さっきまで死に場所を求めていたことを認めていた土方さんが、生きる理由を見いだしたと同時に熱っぽく榎本さんを説得にかかりました。そして、人の心を動かすのは、理屈やデータではなくて、思いの強さなのだと感じさせる場面です。「いいか、これは死ぬための戦いではない。俺たちはこれから、生きるために戦うんだ」って一言なんか、まさに榎本さんを説得する決め台詞です。



 榎本さんは「あんたと私は似ているのさ」と、ふたりの共通点から折り合えるところを探りました。それを拒否した土方さんは、ふたりの異なる点を踏まえた上で、折り合えるところを探りました。この辺りのアプローチの違いが面白いですね。



 そして、榎本さん自身が諦めたと言っている夢に「俺はあんたの夢に賭けることにする」と宣言しちゃっているところが、土方さんらしいですね(苦笑)。「馬鹿なロマンチ」に惚れ込んでしまうと、その「馬鹿なロマンチ」の諦めすらも押し流してしまうぐらい、実は「筋金入りのロマンチ」さんなんですよね(^^)。



榎本「……一言言っておく。ロマンチではない。ロマンチストだ。変なところで切らないで欲しいな」

土方「知ったことか」

榎本「……(にっこり)」

土方「ここは、俺に任せてくれないか」

榎本「……中身次第だな」

土方「……(頷く)」

榎本「まずは、どうする」

土方「まずは……軍議だ」

 榎本さんと土方さんの心が通い合う場面です。「知ったことか」と毒舌な土方さんは、どこか近藤さんと一緒にいた京都の新選組の頃の土方さんを思い出させませんか。



 廊下を歩く榎本さんと土方さん。

榎本「土方君、君にひとつ謝らなければならないことがある」

土方「何だ」

榎本「私の見立てはどうやら間違っていたようだ」

土方「……」

榎本「あんたこそ、筋金入りのロマンチだ」

土方「……(にやり)」

 この場面で、にやりとする土方さんが、大好きです。



 第四ラウンドは土方さんが死に場所を求めていた自分を捨てて、榎本さんが諦めていた夢に賭けると宣言したことで急展開。男って、馬鹿なロマンチだからこそ素敵です……。



 ……というところで、またも小休止です^_^;。もうちょっと続きそうですので、もうしばらく気長にお付き合いくださいませ。



☆★☆★



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9

 その10

 その11 本稿

 その12

 その13

 その14
 「『新選組!!』に学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント」も、とうとう「その10」に突入してしまいました^_^;。講師自身が予定していた以上に長くなってまして(汗)、皆さんが居眠りこいてないかと、ちょっと心配です(^^ゞ。



 第2ラウンドの勝敗は、あえてつける必要はないでしょう。ディスカッションの勝敗ではなく、土方さんも榎本さんに本音で語り合い始めたことが、このラウンドの重要なところですから。



 それでは、第3ラウンドの分析、やってみますね。望楼に向かうシーンからです。



(6) 土方さんvs榎本さん(第三ラウンド)



 望楼に向かう通路で、榎本さんは土方さんに話しかけます。



榎本「君は、案外リアリストなのかも知れないね」

土方「りありすと?」

榎本「君のように、夢に溺れず、現実をしっかりと見つめる人のことだ。確かに戦場においては、的確な状況の判断が何よりも大切だ。夢を追っている場合ではないな」

土方「……」

榎本「しかし私は違う」

土方「……あんたはなんだ」

榎本「間抜けなロマンチストさね」



 対立から始まった第1ラウンドで榎本さんが切腹の覚悟を土方さんに語り、土方さんもまた「だったら俺はどうしたらいい!」と動揺を見せることで対立関係が変わりました。第2ラウンドではワインを傾け合ってラポールを築き、自分が相手に対して思っていることをかなり本音の部分で伝え合うようになりました。自分自身について語ること、自分が抱いている感情を相手に伝えることを心理学では「自己開示」といいますが、この場面では榎本さんがさらに自己開示を続けています。



 ここでは「ロマンチスト」に「間抜けな」という形容詞をつけているところがポイントでしょうね。第2ラウンドで土方さんに「俺ははっきり言って、あんたに失望した」「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」と言われた榎本さんは、自分が自分をどう見ているのかを土方さんに伝えようとしています。新しい国を造るという、土方さんの目には「無茶な話だ」と思えた構想を本気で実現しようとした自分の「ロマンチスト」ぶりに、その夢が破れたことに対する思いを「間抜けな」と自嘲のこもった言葉で表現しているのだと私は思いますが、いかがでしょうか。



 階段を上りながら、薩長のやり方を「徳川の力を奪い取り、その財産を山分けしてるだけじゃねえか」と批判する榎本さん。

 望楼から箱館の夜景を土方さんに示し「見たまえ、この豊かな広々とした土地を。水は清く、土も良く、そしてその下には鉄や銅や石炭が計り知れぬほど眠っている。この地を踏んだ時、私はここなら新しい国が生み出せるに違いないと思った」「(私は)およそサムライらしからぬ侍だったが、それでもあの日は気持ちが高ぶったものだ。薩長に張り合って、この地に新しい国を造る、我ら自身の手で」と、失われた夢を語る榎本さんの表情は、確かにロマンチストです。



 そして、失われた夢を語る榎本さんの背後に立っていた土方さんは、榎本さんの横に移りながら、ぽつりと言います。

土方「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」

土方「その横であんたは今の今まで、本気で薩長に勝つつもりでいたのか」

榎本「もちろんだ」

土方「……あんた、馬鹿だ」

榎本「お褒めの言葉と受け取っておくよ」

 この一連の遣り取りは、土方さんと榎本さんの関係を変える決定的な場面だと思います。第1ラウンドで榎本さんに「あんた、死にたいんだろ。一日も早く、戦でさ」と言われてから、土方さんが自分の口ではっきりと榎本さんの見立てを初めて認め「あんたの言う通り、俺は今まで死に場所を探してきた」と語ります。土方さんにとっては最大の自己開示と言える、本音の本音です。土方さんの心中を推し量れば、尾関や島田ら古参の新選組隊士たちですら気付いてなかった土方さんの心の奥を見抜いて言い当てた榎本さんだから、また、部下の将兵たちの命と引き換えに切腹する覚悟ができる榎本さんだから、自分の内心のコンフリクトの一端である一日も早く戦場で死にたい気持ちをさらけ出すことができたのだと思います。

 また、榎本さんに対して「その横であんたは今の今まで、本気で薩長に勝つつもりでいたのか」と問いかけるのは、相手をもっとよく理解したいと思う土方さんの気持ちの表れですね。最前線で活躍しながら勝敗は決したと見抜き、死に場所を求める土方さんを将のひとりとして抱えながらも、土方さんは信じていなかった「新しい国」の夢を本気で信じていた榎本さんに、この瞬間に土方さんは「もうひとりの馬鹿なろまんち」を発見しました。

 そして、土方さんの「……あんた、馬鹿だ」に、榎本さんは「お褒めの言葉と受け取っておくよ」と、実に的確に理解しています(笑)。榎本さんの賢さと懐の深さを印象づける言葉でもありますね。

 この場面から徐々に、榎本さんと土方さんそれぞれのコンフリクト(この時点では、榎本さんはまだ「終わった」と諦めているのですが)が解消に向けて動き出します。そのきっかけが、榎本さんにとっては失った夢についての告白であり、土方さんにとっては死に場所を求めていたという本音の本音の告白である、という点は、示唆に富んでいると思います。



 しかし、一方で、榎本さんは自称「間抜けなロマンチスト」ですが、夢破れた現実に向かい合う勇気も持っています。

榎本「しかし夢は醒めた。醒めたからには、私は潔く白旗を揚げる。これからは、私の夢に力を貸してくれた人々をいかに救うかが、私の仕事だ」

土方「……」

 この場面で土方さんは何も言いませんが、何を考えていたのでしょうか。根拠なしの直感ですが、榎本武揚という人物に「一時でも近藤勇を重ね合わせていた自分」の気持ちが何であったのか、榎本武揚の何に近藤勇を重ね合わせて気持ちを動かされたのか、をもう一度振り返っていたのではないかと思います。



 ところで土方さんは「『ろまんち』って、一体何のことだ?」と疑問に思わなかったのでしょうかね(苦笑)。まぁ「リアリスト」については榎本さんに解説されてますし、それに対比された形で榎本さんは自分を「ロマンチスト」だと言い、続けて破れた夢の話をしていますから、生きた知恵で状況判断に優れた土方さんになら、「ろまんち」の意味を嗅ぎ取ったことだと思いますが。



 閑話休題。榎本さんは「実を言うとね」から、破れた夢の話の続きで、その夢の中で自分がどうなりたいかを語ります。

榎本「実を言うとね、私は、戦が終われば、この地で牛を飼うつもりでいたんだ」

土方「うし……?」

榎本「ああ。何万頭もの牛だ」

土方「……でかい話だな」

榎本「牛の乳を飲んだことがあるかね」

土方「……ない。飲みたくもない」

榎本「西洋人にとっては、それは大きな滋養の素だ。そして牛の乳からはバターやチーズがつくられる」

土方「……ちーず?」

榎本「さっき食べたサンドウィッチの中に挟まっていたものだ」

土方「……牛の乳だったのか」

榎本「うまかったろ」

土方「……ああ」

榎本「やがてこの国の人々も、それを食するようになるだろう。その時のために私は、この土地に牧場《まきば》をつくり、牛を育てるつもりでいた。この広い大地を開拓し、牧畜や農業を盛んにして人々を豊かにする。そしてやがては薩長がつくる国よりも、はるかに我々のつくる国を素晴らしいものにしてみせる」

土方「……」

 榎本さんにチーズの原料が牛の乳だったと知らされてちょっと驚く土方さん。愛読するマンガ『風雲児たち』で、漂流してロシアに辿り着いた大黒屋光太夫たちの一行がロシアの住民に差し出されたシチューを喜んで食べ、後でシチューの材料が牛の乳だと知って動転する場面を思い出しました……牛乳を口にしていたとは思いもよらなかった土方さんですが、案外冷静に受け止めているのは、新しいものでも理にかなったものは受け容れるという気風からでしょうか。

 まぁ、人に対してあまり素直になれない土方さん(苦笑)が榎本さんに「うまかったろ」と聞かれて「……ああ」と素直に答えるぐらい、その時のチーズが美味しかったからだと思います(爆)。

 チーズ談義はさておき、何万頭もの牛を飼ってチーズをつくるという榎本さんの具体的な夢は、土方さんの心に響きます……もともと、抽象的な思想よりも、具体的な行動や形で思いや気持ちを表すことの方が、土方さんにはしっくり来るんでしょうね。そして、新しい国という夢の中で、榎本さんが、権力の座に就くことではなくて、人々のために牛を飼ってバターやチーズをつくるという素朴なこと願っていたということが、土方さんの心に触れたと思います。



 しかし、土方さんの心を動かした榎本さんの夢は、榎本さん自身が打ち消します。

榎本「……すべては、夢に終わった」

土方「……」

 ただ、榎本さん自身が諦めた自分の夢に、土方さんは手がかりを見いだしたように、視線を動かしています。



 そこにやって来た大鳥さんが榎本さんに、戻ってきた将兵が降伏の噂を聞いて先のことを不安に思っているのでスピーチをして欲しいと依頼します。榎本さんは快く引き受け、土方さんに「君も付き合ってくれ」と言います。土方さんは無言で了解します。

 「君も付き合ってくれ」と言った榎本さんの気持ちは、どんなものだったんでしょうかね……これまた直感ですが、自分が諦めた「新しい国」の夢を再び思い出し、しかしそれを葬らねばならない立場を思い出して、土方さんに立ち会ってもらいたいと思ったのではないかと私は思います。



 第3ラウンドも、コンフリクトのマネジメントという観点から見たら、榎本さんと土方さんには勝敗ということはないと思います。しかし、第2ラウンド以上に、お互いの人となりを知り合った(特に、土方さんが今まで知らなかった榎本さんの「新しい国」に賭けた思いのたけを知った)ことが、ふたりのコンフリクトにとってひとつのブレークスルー(突破口)の種を蒔いたと言えそうです。



 ……また、長々と語ってしまいましたね(汗)。では、また、小休止と致しましょう。



☆★☆★



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9

 その10 本稿

 その11

 その12

 その13

 その14
 榎本さんとの第1ラウンドでは、降伏の方針を覆そうと乗り込んできた土方さんのコンフリクトマネジメントについてはあまり語れませんでしたね(苦笑)……榎本さんが主導権を握っていて、土方さんとラポールを築くのに何度か失敗したものの、最後には土方さんの本音を引き出すことに成功する第1ラウンドでした。榎本さんが自分以外の将兵の命を第一に考えていたのに対して、土方さんは突き詰めれば自分ひとりの生き方死に方のことだけ考えていた(土方さんのために言えば、会津においては殿のことと近藤さんの墓所については斎藤さんに託し、箱館においては新選組を尾関・島田たちに託したので、後は自分ひとりの生き死にのことだけになっていた、とも言えるでしょうね)、その視野の違いが最後になって気迫の差となったと思います。身も蓋もない言い方をすれば、土方さんの貫禄負けというジャッジですね……(苦笑)。



(5) 土方さんvs榎本さん(第二ラウンド)



 榎本さんの部屋で、絨毯の上で胡座をかいてワインを口にする榎本さんと土方さん。いったん自分の感情を榎本さんに見せてしまったせいか、土方さんも榎本さんに対して、積極的に好意を示している訳ではないまでも(笑)ラポールが形成されており、本音を口にしやすくなっています。ワインのアルコール分も、役に立っているでしょうか……土方さんが「酒はひとりで飲むものだと思っていますから」という主義は、本編で土方さんの素顔をよく知る総司君が「あんな素直な人はいないから」と評するような素の自分を容易に他人に曝したくない美意識が半分、残りの半分は……えーと、いろいろ考えられるのですが、一言で言えば不器用さんなんだと思います^_^;。



 榎本さんがワインの成分について解説し、放っておいても発酵して酒になる葡萄をワインにすることを「その意味では、この酒も、実に理にかなった産物というわけだ。ヨーロッパの人間が考えそうなことだ」とヨーロッパ人の合理性について話をしています。土方さんもワインに口をつけます。「悪かないだろ」と働きかける榎本さんに対して「……悪くはない。よくもないが」と、ワインの味について慎重な一言なのは、榎本さんという人物に対してまだ胸襟を開ききっていないからとも見えます。

 しかし、勧められるままにワインやサンドウィッチを口にし、さらに「榎本さん。俺にはあんたという人がわからない」と直に榎本さんに言えるほどには、ラポールは形成されています。

 榎本さんは「そりゃ、そうだろう。私だって自分がまだ分かっていないんだ。お前さんに分かるはずがない」と答えます。これは、史実の榎本武揚が箱館戦争で降伏した後に蝦夷地の開拓を初めとする農業の振興から日露交渉での活躍から外務大臣就任に至るまで、賊軍の将という立場でありながらも多彩な活躍をしたことを知っている視聴者には、にやっとさせられる一言ですね。

 一方で、こういう返答をしたら、せっかく土方さんとラポールを形成したのに、ここでぴしゃっと扉を閉めるようなことになりはしないかと、私はちょっとはらはらしました(苦笑)。でも、『新選組!』『新選組!!』の土方さんは、人の好き嫌いが激しいところもありますが、いったん心を開き始めたら、その程度の返答にはめげない人(笑)ですね。そして、この後の展開でわかることですが、永井様にさえ榎本さんのことを「信用できない」と言っていたくせに、一方では榎本さんに近藤さんの片鱗を重ね合わせて見ていたりしていたこともあったわけで、だからこそ、その一言にめげずに自ら榎本さんに対して率直に語るんですね。



土方「俺たちの思いは、ただひとつ。薩長に一泡吹かせること。このまますんなり薩長の新しい世の中になるのが許せなかった。だからこそ、俺は榎本武揚に賭けた」

榎本「……」

土方「それなのに、どうして今になって、奴らに頭を下げる。なぜ最後まで戦おうとしない」

榎本「……」

土方「俺ははっきり言って、あんたに失望した」

 榎本さんにはかなり辛辣な意見ですが、土方さんは「俺たち」と榎本さんと自分を同じ思いを抱く同士だと思っていたと本音モード(^^)。ワインの酔いが少し助けてくれているのかも知れません^_^;が、本音をぶつけることで榎本さんに対する隔意を解いていることを示しています。

榎本「そりゃすまなかったな」

土方「一時でも榎本武揚に近藤勇を重ねていた自分が恥ずかしい」

 ……裏を返せば、土方さんは榎本武揚に近藤勇を重ねていたと告白したようなものですね(苦笑)。近藤勇に重ねあわせるということは、本編からずっと土方さんを見てきた私たちにはわかりますが、土方さんにとっては自分の命を賭けてもいいと思うほどの覚悟と思いが近藤さんに対して向けられていた。その、ほんの一部でも、似たような思いを榎本さんに抱いていたというのは、しかもその思いを口にするのは、土方さんにしたら「告白」としか言いようがないですね^_^;。



土方「近藤さんは信念の人だった……(中略)悪いが、あんたとは違う」

榎本「当たり前だ。私は榎本武揚だ」

 ……これ、なかなか言えるセリフじゃないですね(苦笑)。矜持を持ち、かつ自信がないと言えません。

榎本「私はあの時、本気だった」

土方「……」

榎本「君は無理だと思っていたようだが、私は本気で国を造ろうと思っていた。蝦夷地に新しい国を……来たまえ」

 土方さんは榎本さんに「あんたに失望した」宣言をしたばかりですが、自分が思い描いていた榎本武揚像と違うところを垣間見たせいでしょうか、誘いに乗って、榎本さんの後を付いていきます……ここからは第3ラウンドになります。



☆★☆★



『新選組!!』で学ぶ組織心理学 コンフリクトのマネジメント

 その1

 その2

 その3

 その4

 その5

 その6

 その7

 その8

 その9 本稿

 その10

 その11

 その12

 その13

 その14
 お待たせしました。次の場面、榎本さんの部屋での榎本・土方のコンフリクトマネジメントについて、分析します。私も、やっとやっと辿り着いたという気分です(苦笑)。



 すでに「その3」で榎本さんの内心のコンフリクト、「その4」で土方さんの内心のコンフリクトについて分析しています。ここでは榎本さんと土方さんの両方を見ていきましょう。



 ここは、かなり長くなります。お飲み物やお菓子・おつまみなどは補給できてますか(笑)。この場面こそ赤ワインにサンドイッチで楽しみたいですね……私も一杯いただいていいですか、一杯だけで終われなくなるのが悪い癖なんですが(爆)。



(4) 土方さんvs榎本さん(第一ラウンド)



 自室で書き物(おそらくは薩長軍に対して差し出す降伏文書の下書きでしょう)をしていた榎本さん、土方さんが大鳥さんに噛みついている声を聞いてふっと微笑みます。この時点で土方さんの来意は予想していたでしょうね。



 そして、土方さんと大鳥さんの言い争いがエスカレートし、何が何でも榎本総裁に会うつもりで大鳥さんを押しのける土方さんを、大鳥さんが一般兵を呼び寄せて武力で押し止めようとする場面で、部屋から格好良く登場します。ここで榎本さんが登場しなかったら、大鳥さんは土方さんの上官ですから(あくまでもドラマ設定ですが)土方さんの行動は上官に反抗したということで軍法会議ものだったかも知れません。「どうぞ私の部屋へ」土方さんを部屋に招き入れる形でこの場面を収めたのは、さすがに総大将の配慮といえます。



 大鳥さんの「では私も」という発言は、「では榎本を斬って、その後でお前も斬る」という土方さんの剣呑な発言を聞いたばかりですから、榎本さんと土方さんふたりでは穏やかな話し合いにならないことを予想し、同席して榎本さんを守るつもりだったのでしょう。しかし、榎本さんは「大鳥は外してくれ」と言うので、大鳥さんは「え」と驚き、憮然とします。



 榎本さんが土方さんとサシで向かい合う方法を選んだのは、その方が土方さんも胸襟を開きやすいと計算したのではないでしょうか。榎本さんは、コンフリクトの対処方法ではもっとも正統派であるといえる、腹を割って話し合うという戦術を選びました。そして「きみと大鳥は愉快だね。顔を合わせるたびにいがみ合っている」と、ふたりの対立を咎めるのではなく軽い冗談口に仕立てて、雰囲気を和らげようと務めます。



 ワインやサンドウィッチを勧めるのも、人は同じものを飲み食いすることで親近感を深めやすくなりますので、土方さんの心を開いて腹を割った話し合いをしたいという姿勢からでしょう。心理学では、お互いの話を聞ける「好意」「誠意」「敬意」が成立している状態を「ラポール(rapport)」といいますが、榎本さんは、土方さんとの間にラポールを成立させようと努力しています。



 しかし、土方さんは永井様に「私はあの人がどうも好きにはなれません」「兵士が戦っているのに、ヨーロッパにいた頃の習慣だからと、昼間から部屋で菓子を食っている男を、私は信用できないということです」と漏らしているように、榎本さんに対して「好意」や「敬意」を持っていません……「ひとかどの人物であることは認めます」とは言っていますが、信頼を置いてはいない訳ですね。まして、降伏の方針を聞いて撤回を求めに五稜郭までやって来たところです。



 皆さん、本編でご存知の通り、こういう時の土方さんは頑なでつれないですよね(笑)。

榎本「君とはねぇ、土方君。ぜひ一度、膝を交えて話がしたかったんだ。なんせ我らの催す宴には、なかなか顔を見せてくれないからね」

土方「酒は一人で飲むもんだと思っていますので」

 土方さんはさらに、榎本さんが勧めるワインやサンドウィッチも断ります。

 こういう土方さんの状態を「アンチラポール」と言います……敵意とまではいきませんが、ラポールをつくることを拒否していますから。「総裁、あんたに話がある」とすぐに話し合いに入りたかったところを、はぐらかされているような気になっているのかも知れませんね。



 榎本さんは、西洋カルタから生まれたサンドウィッチのエピソードも土方さんには受けなかった(苦笑)ので、「君は実に面白い男だな、土方君」と別のアプローチを試します。

土方「……どこが(皮肉っぽく笑う)」

榎本「西洋の文化に対して、かなりの偏見をお持ちのようだ」

土方「俺は西洋が嫌いなんじゃない。西洋かぶれが嫌いなだけだ」

 かなり痛烈な批判ですが、榎本さんは土方さんを「実に面白い男だな」と話しかけるぐらいですから、その批判に応じる知見を持っていました。

榎本「新選組の中で誰よりも早く髷を落とし、着物を捨てたと聞いているが」

 榎本さんが前から土方さんの人となりに関心を持っていたことを伺わせる発言です。そして、こうして土方さんの人となりに以前から関心を持っていたというメッセージを投げかけることも、榎本さんが土方さんとの間にラポールを成立させようという行為のひとつです。

土方「俺は無駄なことが嫌いなだけだ」

榎本「だから、それが西洋流の考えだと、私は言っているんだがね」

土方「……」

榎本「君は嫌かも知れないが、私と君は似ているのさ」

 互いの共通点、似た点を見いだして、そこから信頼や理解をつくろうと働きかける榎本さんのアプローチそのものは建設的なコンフリクトへの対処方法として間違ってはいません。

 しかし、土方さんはこの時点でまだ榎本さんに対してラポールをつくっていない状態です。この状態で俺たちは似たもの同士だと言われたことで、土方さんはかえって反発します。

土方「あんたは西洋の形ばかりを真似る。俺は理にかなったことだけを受け容れる。俺とあんたでは、申し訳ないがまるで違う」

 ……共通点を見いだす努力は間違ってないですが、土方さんの側の心理に立ってみれば、嫌いだと思っている相手・あるいは信用がおけないと思っている相手から「俺たちは似たもの同士」と言われれば嫌に決まってますわな(苦笑)。反発するのも無理はないです。

 そして、本編では口で誰かを言い負かすというのは余り得意としてなかった土方さんですが、この場面での反論はお見事です。

 榎本さんも、ふたつめのアプローチも失敗したと悟り、「まぁいいや」と諦めました。



 サンドウィッチを頬張り、「うまいよ」と笑いかける榎本さんに、土方さんは「なぜ降伏する」とずばり本題に斬り込みます。

 「すぐに取り下げてもらいたい」と言う土方さんに、「できない相談だ」とつっぱねる榎本さん。「ならば仕方がない」と、土方さんは刀を突きつけて迫ります。

 しかし、すでに降伏のために切腹も覚悟している榎本さんは、腹が据わっています。自分を斬ってどうする、と、冷静に土方さんの考えていることを見極めようとしています。

榎本「どうしても降伏はしないと言うんだな」

土方「ああ」

榎本「ではどうする」

 この辺りは、榎本さん、賢いアプローチですね。降伏を是とするか非とするかの話し合いでは意見が正面からぶつかっており埒が開かないのはわかっていますから、まず土方さんが何を考えているのか、何をしたいのか、という意図を知ることに関心を向けています。

土方「俺に百人の兵を預けてくれ。必ず形勢をひっくり返してみせる」

 榎本さん、ここからが勝負どころです。

榎本「それは無理だ」

土方「なぜだ」

榎本「なぜだか教えてやろうか……それはな、お前さんには、端《はな》から勝つ気なんてまるでねぇえからだよ」

 この一言から始まる榎本節が、土方さんの内心にずばりと楔を打ち込む見事な土方さん分析です。

榎本「口では強気なことを言ってるが、この戦、既に勝敗が決まっていることを、一番よくわかっているのは、誰よりも勝ち方を知っている土方さんだ」

土方「……」

榎本「あんた、死にたいんだろ、一日も早く、戦でさ」

土方「……」

榎本「いろいろゴタクを並べちゃいるが、要は死に場所を求めているだけだ」

土方「……」

榎本「そんな物騒な奴に、俺の兵を預けられるかっ」

 新選組の隊士たちでさえ気付いていない土方さんの内心のコンフリクトを見抜いていたとは、何度でもいいますが、畏るべし榎本武揚。そして、「そんな物騒な奴に、俺の兵を預けられるかっ」と語気荒く言うところに、自分についてきてくれた将兵たちの命を大切に思っている気持ちも伝わってきますし、根は熱いところもあるという一面も見せています。



 これらの榎本さんの言葉が、土方さんから本音を引き出す突破口になります。

土方「俺はこれまで薩長相手に戦い続けてきた。今さらあいつらに頭を下げる気はない」

 今までの土方さんと声の調子が違います。ここまでの土方さんの自分の感情を殺した物言いではなく、感情がこもった、切迫した声です。

 この時点ではまだ、榎本さんの「あんた、死にたいんだろ」という言葉に対して直接の返答はしていませんが、「降伏の先には何もない。すぐに取り下げてもらいたい」と形勢論から話をしていた土方さんが、降伏を受け容れられない自分の感情や思いを語り出している点が、今までと違うところです。

 そして、「言っておくが俺だって命が惜しいわけじゃねえ。あんたに斬られなくても、どうせ私は明日の今頃は、腹を切ってる」と榎本さんは付け加えます。

 土方さんは、この時点まで榎本さんが自分の命惜しさもあって降伏を考えていたと思っていたのかも知れません。将兵たちの命を救うことと引き換えに自分の命を差し出してまでの降伏の覚悟に、永井様の「あれはあれで、性根の据わった男」という評価の意味が土方さんにも伝わったのではないでしょうか。

 土方さんは、榎本さんの本気の度合いがわかって、いったん刀を納めます。



 しかし、榎本さんの覚悟の度合いがわかったところで、榎本さんの降伏の方針に同意するわけにはいきません……土方さんは、近藤さんを罪人として処刑した薩長軍に下ることはできなません。

土方「……兵は要らん。だったら俺ひとり斬り込ませてくれ。俺が死んだ後で、降伏すりゃいい」

榎本「悪いが、そいつもできねえな」

土方「なぜだ」

榎本「私は決めたんだよ、土方君。もうこれ以上、私以外の誰ひとりも死なせやしないって」

 「私以外の誰ひとりも」の中には土方さんも含まれている、という榎本さんの論法です。土方さんは榎本さんの総大将としての器の大きさと性根の据わり方を内心では認めたでしょう、しかし自分も死なせないと言われ、土方さん自身がもともと内心で抱えていたコンフリクト(「その4」参照……「近藤さんの汚名を雪ぐためには生きている限り薩長と戦い続けなければならないという使命感、しかし一方では近藤さんを死なせてしまった自分を許せない、罰したい、罰されなければならないという罪の意識」)と向き合わざるを得ません。ひとりで戦死することも許されず、一方で生き続ける唯一の理由である薩長と戦い続けることが降伏によって断ち消えてしまったら、土方さんの意識の中では生きる理由(というより「義」じゃないかと思います)や生きるべき目的がありません。

 土方さんは動揺し、「だったら俺はどうすればいいっ」と叫びます。



 その土方さんの動揺を見て、「どうするかねぇ……とりあえず一杯やんなよ。知らねえもんは、一度は試しておかねえと、了見を狭くするよ」と接する榎本さん、お見事です。この応じ方を見ても、榎本さんの温かい人柄を感じますね。



 ……さて、お気に入りの場面を熱く語って、私のグラスも一杯では済みませんでした(爆)。第2ラウンドに入る前に、また小休止を入れさせてもらいます(笑)。
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